第53話 決闘開幕!
英雄祭から始まってからの数日間は、誰にとってもあっという間に過ぎた。
英雄祭七日目。この日を誰もが楽しみにしていたからだ。
決闘祭が行われる大規模闘技場。その観客席は多くの人で満杯になっていた。
「さて、ガラテア。この決闘、どっちが勝つとみる?」
王族や貴族専用のラウンジ席。観客達の喧騒から少し外れた場所で、ブレイデンは自分の護衛であるガラテアにそう聞いていた。
ガラテアはその質問に数秒間答えに悩む。
「私はザイール第一王子はもちろんのこと、アルバスも少し前のことしか知りません。
……ただ、ぱっと見た感じ、ザイール第一王子が優勢だと思います」
「ほう? アルバスびいきで見ると思ったんだがな。それはどうして?」
「アルバスびいきに見てこの考えです。まさか、ほぼ同年代でアルバス以上の魔力量を持つ人がいるなんて思いもしなかった……」
アルバスが魔法の天才と呼ばれるゆえん。それは並外れた魔力量と魔法習得の速さにある。
その内の一つ、魔力量で凌ぐのがザイールという人物だ。
「まあ流石に俺も兄者だ。どんだけ甘く見積もっても、アルバスが勝つのはほぼありえない」
「それは魔法使いとしてのキャリアや実績があるから……ということですか?」
ガラテアの疑問。その疑問に対してブレイデンはニヤリと笑う。
「以前見た無詠唱には俺も驚かされた。まさか長ったらしい詠唱を抜きにして魔法撃ってくるなんて、それこそ魔力解放並のインチキだろうと」
ブレイデンは以前アルバスと一瞬だけ戦った時のことを思い出す。
ブレイデンに魔力解放があったからこそ、アルバスの無詠唱に追いつくことが出来たが、普通に魔法で戦っていたらアルバスに先手を取られ続けていた。
魔法使い同士の戦い。それは先手を取った方が圧倒的に有利に進む。詠唱というプロセスを挟む以上、先に魔法を発動させて、相手の詠唱を妨害すれば常に攻撃し続けられるからだ。
そう言った面ではアルバスは絶対に先手を取れるという反則じみた強みがある。
「けど兄者も似たようなことができるって言ったらどうする?」
「それは……どういう?」
ガラテアの言葉に対して、ブレイデンは意味ありげに笑うだけで何も答えなかった。
その後、ブレイデンはキョロキョロと周りを見渡す。そして……。
「そういや、ルルアリアはどこだ……?」
***
「やはり決闘の空気を肌で感じたいですよね!」
「お主のぅ、少しは自分の立場というものをだな……。アルバスの気持ちも少しはわかる気がしたわい」
ラウンジ席ではなく、普通の観客席に変装したルルアリアとエレノアはいた。興奮気味なルルアリアに対して、エレノアは深くため息をつく。
「そもそもお主、この決闘自体あまりノリ気じゃなかったとアルバスから聞いておったが……」
「それはそれ、これはこれです。やるのであれば、熱気が一番伝わる場所で見たいです。ね? エレイン様」
「まったくもってその通りだ。まあそんなに心配するなギルドマスター。私たちがいれば大丈夫だ」
ルルアリアの隣に座っているエレインがそう言う。その言葉にエレノアはまたもため息をつく。
「竜騎士まで……。まあ良い。さて、今日の戦いアルバスは何をしでかしてくれるかのぅ?」
表情が一転し、ニヤリと笑うエレノア。そんなエレノアを見つつ、ルルアリアは真剣な眼差しでエレノアにこう聞く。
「先生はアルバス様の特訓。最後まで見られましたか?」
「いや、忙しくての。途中途中しかみておらん」
エレノアの返答に対して、ルルアリアは数秒間黙った後、ニヤリと笑う。
「では私だけですね。きっとびっくりしますよ」
エレノアがその理由を聞こうと口を開きかけた時だ。盛大な楽器の音が大闘技場に響き渡る。
『大闘技場にお集まりの皆さん! この日を待ちに待ったことでしょう!! 英雄祭七日目決闘祭!!』
「これは受付嬢の声か……?」
「ああ。賑やかしが欲しいらしくて貸したのじゃよ」
エレノアの人選は合っていたのか、大闘技場は受付嬢の声に釣られて熱気に包まれる。
『早速決闘者の紹介です! 先ずはこの方! 単独でのドラゴン討伐を始めとし、学園国家では生徒会長の右腕を務める我らが誇りの第一王子っ! ザイール・フォン・アストレア!!』
受付嬢の紹介に応じるように、ザイールが大闘技場へと入る。全身が黒尽くめなのも特徴的なのだが、それ以上に特徴的な物を彼は担いでいた。
それは大砲と見間違うほど巨大な銃だった。190あるザイールの体躯と同じくらいの巨大な銃。魔法使いならそれが魔道具だとすぐにわかるだろう。
『そして、彼の決闘を受けたのは今注目の冒険者! トレインの撃滅から始まり、先日グレイフィールド領の戦いで竜騎士と共に魔族を退けた魔法の天才! その名もアルバス・グレイフィールド!! 入場ですッッ!!』
大闘技場に入るアルバス。彼を知るものならすぐに違和感を覚えた。何か違うと。
「初対面とは随分と印象が変わったように見える。調子はどうだ? アルバス・グレイフィールド」
「それは決闘の中で。僕は今日、ルルのために貴方を倒します」
どこか静けささえ覚えるような二人の会話。それとは裏腹に大闘技場の熱気はさらに上がっていく。
「ルル……か。随分と親しいようだ。嫉妬するよ」
「僕も貴方に多少なりとも嫉妬を覚えていますよ。……兄としてね」
『皆さん準備はいいですか!? 決闘祭開幕です!!』
かくして決闘祭の幕が切って落とされる。受付嬢の声に、アルバスとザイールは同時に構えるのであった。
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