第54話 アルバス、ザイールと決闘する①

 決闘が始まると同時、僕は四肢に衝撃音を付与する。ここ数日間の魔法の練習で衝撃音の付与は完全無詠唱でもできるようになった!


『魔力よ、我が身を覆え。魔力鎧アーマードマナ


 ザイールもまた魔法を使う。魔力鎧。魔力を全身に纏うことで魔法への防御力、物理防御力を高める魔法だ。


 単純な魔力操作でも同じようなことが出来るが、魔力鎧という魔法を通すことでその防御力はさらに高まっている。


 完全無詠唱の威力が下がった衝撃音では魔力鎧の上からダメージを与えられない。するなら無詠唱……っ!


「衝……」


 僕が魔法名を唱えようとした瞬間だ。僕の目の前に魔力の塊があった。これは魔弾!?


「づ……ッ!?!?」


 間一髪、両手でガードできたけど……やばい、このままでは貫かれる!?


衝撃音ショックサウンド!!」


 魔弾そのものに衝撃音をぶつけて相殺する。一撃で相殺できたところを見ると、アイザックの魔法よりも威力は低そうだ。


 けど、問題なのはそこではない。むしろこの場において大問題なのが……。


「出の速さが君だけの特権ではないということだ。アルバス・グレイフィールド」


 そう、この場において問題なのは僕が先手を取られたということ。


 ザイールが持つ大砲みたいな銃。あれは魔道具、魔銃の類だ。普通に魔弾の魔法を使うよりも魔力を必要とするし、取り回しなどのデメリットはあるけど……でも詠唱をしなくても良いという強みがある。


 あれに先手を取れるとしたら完全無詠唱の魔法だろう。けど、完全無詠唱は魔力鎧によって防がれる可能性が高い。


 ……僕は一手目から間違えていた。付与魔法じゃなくて、僕が撃つべきだったのは詠唱破壊だったのだ。


 そうか、詠唱破壊!! これならまだ一手出し抜ける!


「さあ次はどうする!?」


 そう言いながら引き金を引くザイール。魔弾の発射と同時、僕は足に付与している衝撃音を発動し、それを回避する。


 詠唱破壊を使うには魔法を使わせなくてはならない。この中遠距離での戦いでは魔弾を使うだろうが、魔法は使ってこないだろう。


 なら近距離! 近距離ならば完全無詠唱でも魔力鎧の上からダメージを通す方法がある!


 四肢に付与した衝撃音はそのためのもの。足の衝撃音を発動させることで機動力を上げる。これはアイザックとの戦いで思いついた方法だ。


「早い……が、それでどうなるという!?」

「そこはもう、僕の距離なんだよ!!」


 ザイールとの距離、五十メートル。この距離ならザイールが引き金を引くよりも早く、僕の間合いに持ち込める!!


 両足の衝撃音を蹴り出す動作と同時に発動!


 瞬間、駆け出すエネルギーと衝撃音による衝撃波が合わさり、僕の身体は一気にザイールに接近する!!


『土、風火——』


 それがくると予測していたのか、ザイールは詠唱を開始する。ザイールの魔弾は僕と同じ無詠唱。けれどそれはあくまで魔道具があるからだ。


 大砲じみた巨大な魔銃。その弱点は近距離に対しての攻撃手段がないということ。近距離まで近付ければ、魔弾による攻撃は出来ず、無詠唱による攻撃は使えない。


『混ざりて一つとなり』


詠唱破壊スペルブレイク


『□□を!?』


 戦い慣れた魔法使いほど、詠唱破壊には驚くだろう。一瞬、ほんの一瞬、動揺したな!! ザイール!!


「オラァ!!」


 その動揺の隙に拳を放つ。ザイールは咄嗟の判断で腕で防御するが、打撃のインパクトと同時に拳の衝撃音発動! 二重の衝撃でザイールの防御を……。


「ぶち破る……!!」


 拳を振り抜くと同時にザイールの魔力鎧による防御を貫通して、ザイールの身体が大きくよろめく。ボディガラ空き! このまま顎に衝撃音を当てて意識を飛ばす!


 ——と、勝利を確信した刹那。僕ですら自覚できないほどの僅かな、ほんの僅かな隙。それをザイールは見逃していなかった。


『土、風火混ざりて一つとなり敵を』


詠唱スペル


 紡がれていく詠唱に対して詠唱破壊を使おうとしたその瞬間だった。ザイールは魔銃の引き金を引く。


 その次の瞬間。キィィィィィィンという甲高い嫌な音が僕の意識を揺るがす。


『撃て。射出壁カタパルトウォール


 いや、意識が揺らいだくらいで詠唱破壊ができないわけじゃない。けれど、やられた!! ザイールは甲高い音に紛れて詠唱を完成させた!!


「一手……遅れたなアルバス・グレイフィールド!!」


 僕はその言葉を聞くと同時、地面から勢いよく競り上がってきた土の壁に押し出されて空中に吹き飛ばされていた。


「君の詠唱破壊。それは精密な魔法だ。大方、音を正確に聞き取って、次に来るであろう音を予測し、その音とは逆位相の音を当てる。高度で精密な魔法だ。

 だからこそ、君は予想外の音に弱いと思った」


 ザイールが僕に銃口を向けながらそういう。


 ザイールの言う通りでほぼ間違いない。僕は詠唱破壊を使う際、音を正確に聞き取らなくてはならないのだ。


 そこに詠唱破壊の弱点がある。他の音に妨害されやすいのだ。他の大きな音に紛れて詠唱されたら、僕は相手の詠唱を聞き取ることが出来ず、詠唱破壊を使えない。


 あらかじめある音ならまだしも、今みたいに予想もしていなかった大きな音にはとことん弱いのだ。


 と、ここまでをたったの一回で見破られたことに僕は心底驚くしかなかった。これが格上の魔法使い……!!


「次は俺の番だ。さあ、この攻撃どう対処する?」


 ザイールの攻撃が来る……!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る