第48話 アルバス、英雄祭に参加する

「うお……凄い人」


 僕は会場に集まった人だかりを見て驚く。


 英雄祭で予定されている幾つかの大きなイベントは、王都にある大闘技場で行われる。


 プロローグもこの大闘技場で行われる。プロローグも英雄祭への期待ゆえか、大闘技場の席は一つ残らず埋まっていた。


「私たちはわかっていますけど、決闘祭の決闘相手の発表もプロローグでやりますからね。それ目当てで来ている人は沢山いるでしょう」


「なるほど……だから、ザイール王子様がここにいないんですね」


 僕たちが今いるのは王族専用のラウンジ席だ。ここには王族とその護衛しか立ち入れない。


「大兄様が司会ですからね。ほら、始まりますよ」


 ルルアリアが大闘技場の中央を指差す。ルルアリアが指差した方向を見た時だ。


 巨大な竜巻とともに黒い影が降り立つ。僕はこの魔力と気配を知っている……以前出会った時よりも随分と濃い魔力と気配を漂わせたザイールがそこにいた。


「あのヤンチャ小僧め。随分と派手な登場じゃな」


「毎年毎年、魔力が強くなるたびにあの竜巻も大きくなっていますからね」


 毎年大きくなっているんだあれ……。


 大闘技場の中央に降り立ったザイールは観客に向けて話し始める。


「待たせた皆の者! 今年もこの時期が来た。英雄祭の時期だ!」


 ザイールの言葉に盛り上がりを見せる観客達。その熱気は離れた場所にあるラウンジ席まで届いてくる。


「さて、今年も決闘祭を行なう。今から俺はこの手袋を投げる。この手袋に当たった者が俺の決闘相手となる。さて、行くぞ!!」


 ザイールが手袋を投げる。ザイールの手袋が風に揺られてラウンジ席まで舞い上がってくる。


 手袋が僕の目の前までやってきた時、大闘技場の中央にいるザイールと、僕の視点が重なる。


 ……本来、決闘の作法は手袋を当てられた人がそれを拾い上げることで了承となる。拾い上げなければ、その決闘は成立しない。


 今回、僕はこの決闘を受ける。ならばわざわざ当たるまで待って拾い上げる必要もないだろう。


 僕は自分に向かってくる手袋を、身体に当たる直前で自分の手で掴む。これで僕とザイールの決闘は成立した。


「どうやら彼の答えを聞くまでもないようだ。紹介しよう! 彼の名前はアルバス・グレイフィールド。

 先日起きたグレイフィールド領での魔族騒動。それをブラックダイヤモンドランクの竜騎士と共に解決した期待の新星。それが彼。アルバス・グレイフィールドだ!」


 ザイールの言葉に沸く観客達。その歓声すらどうでもよくなるくらいの興奮。それが僕の中を満たしていた。


 先日、ザイールに決闘を申し込まれた時は正味実感に欠けていた。けれどこうして大きな舞台で決闘を申し込まれて、それがどんどんと現実に近づいてくる。その実感に、僕は確かな興奮を覚えているのだ。


「……早く」


 思わず口が開いた。


 ルルアリア、エレノアが僕を見る。二人の視線を感じながらも、僕の視界には僕と目線を合わせているザイールしか映らない。


「早くろうザイール。僕の全てを以って、僕は貴方に挑みたい」


 僕の中で芽生えた感情。


 そして僕の中で強くなっていく決闘への期待。僕らの英雄祭が始まる。

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