第44話 アルバス、新魔法を使う

「なんで僕、初対面の……それに王子に感謝されているんですか?」


 第一王子……ザイールの時は話の流れで理解できたけど、もしかしてブレイデンもそのクチなのか?


「二つ理由がある。一つは察してる通り、妹を助けてくれたことだ。オレ達じゃどうしようも出来なかった。お前には頭が上がらねえ」


 二つ? 僕、ルルアリア以外にこの人に絡むようなことをしたっけ?


「もう一つが兄者の相手をしてくれるっていうことだ。正味、今年はオレかとヒヤヒヤしていたからな」


「ブレイデン王子様はザイール王子様と戦いたくないんですか……?」


「ブレイデンでいいぜ。代わりにオレもアルバスって呼ぶ。

 まあな。正味今のオレじゃ、勝ち目がねえからな。勝ち目のない勝負ほど無駄なもんはねえだろ?」


 一理ある。


 魔法使いの戦いを左右する要素は無数にある。その中で経験値と才能は特に大きな要素であり、例外がない限り、その二つが優れている方が勝つ可能性が高い。


 ブレイデンはそこを理解している。だから戦いを受けたくないと思っているのだろう。


「今は……ということはいずれは勝てるつもりなんですか?」


「鋭いこと聞くな。その答えは……そうだな。いずれオレと戦う時になったら見せてやるよ」


 獰猛に口元を歪ませるブレイデン。もう、それは答えを言っているようなものだ。


 僕はザイールと会った時、自分が勝てるビジョンが見えなかった。アイザックと戦った時もそう。


 そんな彼に対して、ブレイデンは勝てる目算があるということだ。その答え、気になる。


「いずれなんて言わせませんよ。今、ここで見せてくれませんか?」


「……ちょ、アルバス様!? 一日中魔法使って疲弊しているのに、今から戦うつもりなのですか!?」


 僕の言葉に対してルルアリアが驚いたような声音でそう言う。目の前に立つブレイデンは立てかけてあった木刀を二つ手に取る。


本気マジかよお前。面白え。

 でも、妹の護衛だし、オレもアルバスも明日からが本番だ。互いにヨーイドンの一撃勝負っていうのはどうだ?」


「それで。ちなみに本気出すので、本気で来てくださいね」


「……最高だぜアルバス。気に入った。兄者贔屓で勝負を見ていたが、これ次第ではアルバス贔屓に乗り換えてもいいかも知れねえ」


 僕らは中庭の端と端に立つ。


 その様子を見ていたルルアリアは大きくため息をつく。


「小兄様も、アルバス様も、大兄様も……どうして私の周りにはこう、戦い好きな人が集まるのでしょうか?」


「呆れているようで、実はちょっと羨ましがっているお主だからじゃよ。まあ良い。この対戦カードはわしも気になる。わしがジャッジじゃ。

 両者それでええな?」


「大丈夫です」


「アルバスに同じく」


 僕らの間にエレノアが立つ。一瞬の沈黙が流れ、僕ら二人の呼吸が合ったのを察知して、エレノアが声を上げる。


「それじゃ……始め!!」


 ブレイデンが二刀を構える。訓練用の木刀とはいえ油断はできない。ブレイデンの魔法次第では十分脅威となりうるだろう。


 恐らく二刀流のポテンシャルを活かすための自己強化系の魔法による攻撃、もしくは斬撃などの剣を振るうことがトリガーとなる魔法のどちらかを使用するはずだ。


 僕には心音詠唱による無詠唱魔法がある。ブレイデンを魔法を見てからでも、こっちは幾らでも……。


「——随分とのんびりだなアルバス」


 その言葉を聞いた瞬間、僕は全ての思考を捨てることとなる。


 それは僕が予想すらしていなかった手札。僕が無意識のうちに除外していた可能性だったからだ。


「魔力解放」


 魔法じゃねえ!!


 魔力解放なんて初めて見た! やばい! やばい! やばい!!


 胸の鼓動が抑えられない! 


 魔法とは異なる異能。それが魔力解放。


 生まれて初めてそれを目にした。それほど貴重な才能なんだ……魔力解放は。


 そんないいものを見せてくれるんだ。僕も本気を出さなくては。


同調シンクロ


 呼吸を整える。相手は魔法を越えた幻想、魔力解放だ。もう数秒後にはブレイデンはそれを解き放つ。


 今からでは結界は間に合わない。なら、今使える最高の魔法で相対する……!!


「行くぞアルバスッッ!!」


 その言葉を置き去りにしながらブレイデンが駆け出した。魔力解放に魔法の常識は通じない。


 なら非常識を非常識でねじ伏せる。


 どんな魔力解放か分からない。でも一秒後には二つの木刀は僕の身体に当たるだろう。


 残された一秒未満。それが僕の勝敗を分つだろう。


過剰衝撃音オーバーショックサウンド:二重奏デュオ


 

 静寂が流れる。その静寂を破ったのはルルアリアの声だった。


「小兄様の木刀が外れている……」


「……いや、右手の木刀が捉えておる!! これはブレイデンの」


 エレノアがそう言いかけた瞬間だ。ブレイデンは左手に持っていた木刀を投げ捨てた。


 投げ捨てられた木刀が音を立てて、地面で弾ける。それを見たブレイデンは……。


「ワケだな。こりゃあ」

「ですね」


 ブレイデンは構えを解く。僕も胸に詰まった息を吐き出す。


「……き、緊張した〜〜!! 魔力解放なんて考えてなかった……!!」


「それはこっちのセリフだ。お前、何だよあの魔法! あれが無詠唱かよ!」


 はじめての試みだったけれど上手くいってよかった。新魔法二つ。同調と過剰衝撃音。


 ザイールとの決闘前に試せて良かった。


 しかし、でもこれがブレイデンの勝算。自分の魔法に集中していたのもあるけど、全くわからなかった! 

「だが、いい戦いだった。オレの目標が決まった。助かったぜアルバス」


「こちらこそ。いい練習になりました。ありがとうございます」


 僕とブレイデンはそう口にして拳を合わせるのであった。

 

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