第42話 アルバス、ルルアリアの護衛につく①
第一王子ザイールとの決闘。それに向けた魔法の練習を始めてから数日が経過した。
「それで……初日に頑丈な訓練室の扉を吹っ飛ばし、その後、訓練室の設備を大量に壊した魔法は教えてもらえないのですか?」
「悪かったと思っています……」
ルルアリアは笑顔でブチ切れていた。
というのも魔法の練習を始めた初日、新魔法が僕の想像以上の威力だったため、訓練室を吹っ飛ばしてしまったのだ。
それだけではなく、ここ数日は新魔法の威力が僕の想像を超えていることが多くて、さらに暴発もしまくったせいで設備のあちこちを破壊してしまった。
僕はルルアリアに説教されることとなり、設備を壊した落とし前として、僕は……。
「明日から始まる英雄祭で、アルバス様には私の護衛として付き合ってもらいます。これで諸々の件は手打ちに致しましょう」
「はいそれで……。でも、それって普段とあまり変わらないのでは……?」
ルルアリアの側にいるのは、もうすっかり僕の日常となりつつある。グレイフィールド領での戦い以降、僕の生活圏は王城と魔法大図書館だけで、一日のほとんどをルルアリアと共にいる状態だ。
「ハッハッハッ。ルルアリアよ、アルバスはとんでもない世間知らずだぞ? そこら辺は一から教えてやらんとなあ」
そう言って、僕の部屋に入ってきたのはエレノアだった。彼女を見たルルアリアが頭を下げる。
「あ、先生。お久しぶりです。忙しい中、私の護衛を受けてくださりありがとうございます」
「よいよい。可愛い弟子の頼みとあればな。それにアルバスにも渡したいものがあったことだしの」
「へ……? 僕にですか?」
僕がそう言うと、エレノアは愉快そうに笑って、二冊の魔法書を僕の前に置く。一つは音属性の魔法書、もう一つが結界魔法の魔法書だ。
……って、音属性の魔法書!?
そういえば探しといてくれるって前言っていたけど、もう一冊見つかったんだ……。表紙や紙の質感が若干禍々しいのが気になるけど、とにかくこの中身を見てみたい……!!
「わかるぞ、わかるぞ。アルバスの興奮する理由が」
「アルバス様って、魔法を前にしている時の方が目を輝かせているんですよね……それな複雑な気分で」
「すみません……。どうも魔法を前にしてしまうと興奮が抑えられなくて。でも、一冊目のチョイスは理解できるのですが、なんで二冊目は結界なんですか……?」
結界魔法はとてつもなく高難度な魔法だ。
かつての僕はこれの会得に失敗した。理由は結界の構築が上手くできなかったから。
でもそれをエレノアは知らないだろう。だったらなぜ結界魔法なのか。
「なに、ルルアリアから聞いての。さらにグレイフィールド領での戦いもあって、アルバスには必要不可欠なものだと思い選ばせてもらった」
「そこでグレイフィールド領の戦いが絡むんですか……? 意外なところで接点作りますね」
「魔族と戦う際には必要になる魔法だからのぅ」
そういえばグレイフィールド領での戦い。僕はアイザックと戦うのに必死だったけれど、その裏では竜騎士ことエレインが魔族と戦っていたんだった。
僕が主犯格の上級魔族倒したことになっていることには、未だに納得していないけれど。
でも、たしかに魔族と戦うことがあるなら結界魔法は必要になってくるだろう……。
「魔族は確か、下級でも結界魔法を使ってくるんでしたっけ?」
「そうじゃそうじゃ。結界魔法を使われたら、必然的にこちらが不利になる。その対策の一つや二つ、それで学べるじゃろう」
ルルアリアが結界魔法を見せてくれたおかげで、結界魔法に対する興味や取得へとモチベーションは上がっていたところだ。
本格的に勉強するいい機会だろう。
「魔法のことは置いといて、普段と今回、護衛の意味が違うというのはどういうことなんですか?」
「私が声が出せないため、コミュニケーションに制限がかかる。あとは護衛のアルバス様、先生にも立ち振る舞いを要求される。最後は危険度が高い……といったところでしょうか」
「グレイフィールド領での一件、一部貴族に見られる不穏な動き、ルルアリアに降り注ぐ危険は思っている以上に多い。気を引き締めていかないといかんな」
王国には沢山の地雷が埋まっている。
だったら英雄祭そのものをやめろよとは一瞬思ったけれど、そうもいかないのだろう。
それをしてしまえば、王国がその不穏な動きをしている人達に敗北したと言ってしまうような物だから。
「ですね。それで、本日の予定は?」
「先ずは関係各所への挨拶回り、その後は英雄祭前夜祭への参加ですね。さあ気を引き締めていきますよ!」
ふんすふんすと鼻を鳴らすルルアリア。
呪いにかかってから恐らく王城の中にいて、外には出ていないのだろう。
声が出せないとわかっていても、ルルアリア的には燃えるものがあるようだ。
「本人も張り切っているようだしの。わしらも気合い入れんとな? アルバス」
「ですね。何が起こるか分かったもんじゃありませんから」
今日から始まる怒涛の数日間。
僕はそれに少しだけ胸を躍らせるのであった。
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