第40話 アルバス、新たな魔法を目にする

 限られた時間でこそ、時空属性の真価が発揮される。


 そう自慢げに言ったルルアリアに連れられて、僕らは王城で使われていない訓練室に来ていた。


 王城には王城所属の騎士や魔法使いが使う訓練室が至る所に存在している。


「噂には聞いていたけどすごい設備……」


 訓練室に入った時、僕はあまりの充実した設備に驚きながらも感動する。


 訓練用の武器はもちろん、魔法練習用の動く的や実戦訓練ができる人間大の自動人形オートマタなど、並の貴族が用意できないような設備の充実っぷりだ。


「アルバス様は以前、私が言った時空属性の制約は覚えていますか?」


 僕はその言葉を聞いて、ルルアリアと初めて会った時のことを思い出す。


 時空属性の制約。自分自身を対象に魔法を発動できないというものだ。


「自分には使えないんでしょ? 時空属性の魔法は」


「はい。もっと厳密に言うと、魔法の効果範囲内に私がいると、その魔法は効力を失います。今から使う魔法もその例に漏れません」


 魔法の効果範囲内という言葉に僕は妙な違和感を覚えた。


 時空属性……時間と空間を操る属性なら出来るのか? 超高等と呼ばれるある魔法を。


「王女様……一体どんな魔法を使うつもりなんですか?」


 興味がある。


 理論上どの属性にも存在するけど、使い手が限られている魔法がこの世にはあるのだ。


 恐らく、ルルアリアが使おうとしているのはその魔法の一種。


 その魔法を見た時、僕はまた新しい魔法を会得するきっかけが得られるかもしれない。


「……その目、その顔、期待されるような眼差し。悪い気はしませんが、あまり見ても面白くないですよ私のは」


「いいえ。それは違います……きっと。貴方の魔法は素晴らしいものです。僕に新しいインスピレーションを与えてくれるはずです」


 時空属性の魔法には前々から興味があった。


 属性魔法全てに言えることだが、解釈によって魔法は無限大の可能性を発揮する。


 他属性の魔法を見たことで、属性魔法の理解が深まり、練度が上がったというのはよくある話だ。


 王都に来てから色んなものを見てきた。その中でなんの手がかりも掴めなかったものが二つある。


 一つはギルドマスターエレノアの魔法。


 もう一つがルルアリアの転移の魔法。


 これらをよく見て理解できれば音属性への更なる足掛かりになるだろう。


「保険は貼りましたけど、本当に面白くないと改めて伝えておきます。……では行きます」


 ルルアリアは扉の境目に立ち、深呼吸した後に詠唱を始める。


『万物の長たる時の翁。黄金の栄光、四方の聖なる獣に声をかければ、その威光を我らに示し、我が二分の力を使い果たすその時まで、どうかこの空間を神々は在します静寂と平穏なる時へと導きください』


 部屋の四方が黄金の光りを灯す。


 四つの点は部屋を囲うように線となって、僕とルルアリア……訓練室とそれ以外に隔てる。


 そしてルルアリアは祈るように魔法名を唱える。


『我が祈りに加護よ在れ。結界魔法:【時の翁の大あくびクロノス・クロックダウン】』


 次の瞬間、空間がルルアリアの魔力で満たされていく。


 ルルアリアは魔法の発動を見届けると扉に手をかけて閉めながら僕へこういう。


「この扉を閉めたときに私の魔法は発動します。発動している間、この部屋の中と外では流れる時間が異なります」


「……具体的にはどれくらい?」


 ルルアリアは僕の問いに対してニコリと微笑む。


「外の時間で言う一時間経つまでに、部屋の中では二時間の時を過ごすことができます。アルバス様は今から二倍の時間を使うことができます」


 二倍の時間……!


 どれだけこの魔法が維持されるか分からないが、これはそれだけの時間があるなら、かなりのレベルアップが見込めるはずだ!


 幸い、魔法書の中身は全て頭に叩き込んである。アイザックとの戦いで使えなかった魔法も含めて、沢山の魔法を練習するいい機会だ。


「ちなみに発動時間は私の魔力が尽きるまで。恐らく、外の時間で言うところの二時間が限度でしょう」


「充分すぎます。ありがとうございますルルアリア王女様」


 この中で四時間……!


 ルルアリアの魔法が切れても、余った時間で自己練すれば充分すぎるくらいに魔法の経験値を貯められるだろう。


 それに僕が見たかった結界魔法も見られた。


 どの属性にも存在しているが、魔力コントロールや維持が難しく、使い手が限られているという結界魔法。それを直で目にすることが出来たんだ。これは音属性の結界魔法の足掛かりになるかもしれない!


「そう言ってくれて何よりです。……それでは二時間後、アルバス様にとっては四時間後に会いましょう」


 ルルアリアはそう言って扉を閉める。


 瞬間、外界が扉と区切られたことにより、ルルアリアの魔力がこの部屋を覆っていく。


 僕はその様子をマジマジと観察する。


「結界魔法、指定の範囲に対して魔法効果を付与する最上位の魔法。直に見たのは初めてだけど、とんでもない魔力だ……」


 結界魔法。ありとあらゆる属性に存在する最上位の高等魔法。魔道具や複数人での発動はともかく、単独で発動できる魔法使いが限られていると聞く。


 僕も昔、無属性の結界魔法をやろうとしたが失敗した。範囲の指定と結界の外と中を区切るという、結界魔法の基礎中の基礎がうまく出来なかったからだ。


「そう考えるとルルアリアはうまいな。部屋で物理的に結界の外と中を区切っているのか」


 物理的な区切りを、そのまま結界魔法に転用するのはうまいやり方だ。出来るシチュエーションは限られるだろうが、覚えておいて損はない小技だろう。


「さて、アイザックとの戦いで自分の弱点を見つけたわけだし、まずはその練習から始めようかな」


 いつまでも結界魔法に感動していられない。


 先のアイザックとの戦いで見つけた僕の弱点。


 先ずはそれを改善しないと、第一王子相手には苦戦は免れないだろう。


「さてと、やりますか」

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