第39話 アルバス、決闘を申し込まれる
大兄様!?
今、ルルアリア大兄様って言った!!?
「久しぶりだな我が妹よ! 声が出ない呪いにかかった時には飛んでいきたい気持ちだったが、あいにく向こうでとんでもない事件に巻き込まれてな! 会いに行くことは出来なかった! すまない!」
「いえ、大丈夫ですよ大兄様。こうして、現に私は声を取り戻したわけですし」
「なんと優しいのだ我が妹よ。アルバス・グレイフィールド、お前もそうは思わんか?」
「え!? あ、はい。そうですね」
妙に高いテンションの人と、いつも通りのルルアリアのギャップ、この会話についていけない自分がいる。
大兄様……ということはこの人が第一王子、ザイール・フォン・アストレアなのか……?
「お手紙でもお伝えした通り、アルバス様に声を治してもらったのですよ」
「そうだったな! アルバス・グレイフィールド、お前には感謝している!」
「いえ……! 僕は僕のやれる限りのことをやっただけですので……!」
「はっはっはっ! 国中ひっくり返してもそれが出来なかったというのに愉快な男だ。彼はいつもそうなのか?」
「ええ。自己評価と実力が妙に噛み合わないんですよねアルバス様って」
……そこまでか?
変に自己評価が高いよりも、低い方がいいっていうのが僕の考えだったけど改めた方がいいのかな。謙虚すぎるのもうんぬんと聞くし……。
「しかし音属性か。あの様々な属性、様々な国家、様々な魔法使いが集まる学園国家でも見たことがない珍しい属性だ。王国に魔法書はあったのか?」
「ええ……まあ。偶然にも一冊。後、ギルドマスターが用意してくれるとかなんとか」
そういえばエレノアが魔法書を用意してくれるという話があったよね……。またどこかのタイミングで取りに行かないと。
しかし、本当に珍しい属性なんだ音属性。
「あの魔女とも知り合いか! 流石はグレイフィールドの神童といったところか」
「魔女っていうと、先生怒りますよ大兄様。あの人、とんでもない地獄耳ですから」
エレノアってギスマスだったり、魔女だったり、先生だったり、いろんな呼ばれ方をしているみたいだ。たしかに得体のしれなさで言えば、魔女というのも納得だけど。
「それで? 幻影を飛ばしてわざわざ来たんでしょう? 何か用事でも?」
ルルアリアが少し呆れたような口調で切り出す。
幻影……たしかに闇属性の魔法だったはずだ。自分の分身を任意の場所に作り出すというもの。練度が高くなると意識や感覚を共有できたりするんだっけか。
「よく気がついたな我が妹よ。前回よりもかなり精度を上げたと思ったが」
「私の目を誤魔化すことはそうそうできませんよ大兄様。それに大兄様の幻影は昔から見慣れていますので」
「はっはっはっ確かにそれもそうだ。何、件のアルバス・グレイフィールドがどんな人物か知りたくてな。国境を越えた辺りから幻影を飛ばしていた」
国境を越えたあたりから!?
国境から王都まで馬車でも数日はかかる距離だ。そんな遠距離から魔法を使うなんて、とんでもない実力者だ。
「そして幻影を通してみたが……アルバス・グレイフィールド。お前は今年の俺の相手に相応しい」
「……え? それは一体どういう……?」
「本気なのですか大兄様!?」
僕とルルアリア、同時に反応を見せたが、その反応は違うものであった。僕が困惑で、ルルアリアが驚愕といったところだろうか?
「ああ、本気だとも。決闘祭までは時間がある。となれば、アルバス・グレイフィールドのコンディションも万全になるだろうと俺は踏んだ。故に俺はお前に」
幻影から発せられる言葉、射抜くような視線。
目の前にいるザイールが、僕にこれ以上とない緊張感を与えてくる。
「決闘祭で決闘を申し込む」
「第一王子が僕に……決闘を」
恐らくだけど、実力差は僕よりもザイールの方が上だ。魔法使いとしてのキャリアや実績が悠然と語っている。
正味、グレイフィールド領でアイザックと戦った時以上に勝利が見えない。
「アルバス様は絶対安静なんですよ!? それにアルバス様はまだ音属性を発現させたばっか……! 大兄様の実力に合う人間なんて、まだ他にも……!!」
ルルアリアは珍しく必死だった。
ルルアリアも僕と同じく、僕に勝ち目がないと踏んだのだろう。それはそれでちょっと悔しいが、それが現実だ。
「俺がアルバス・グレイフィールドに決闘を申し込むのは、こいつがお前に相応しい人物なのか見極めるためだ。我が妹の声を取り戻してくれたことには感謝している。
しかし、今こうして、ルルアリアと共にいるということは、大方ルルアリアの無茶振りに付き合っているのか付き合わされているのかのどちらかだ。なら俺は兄として、アルバス・グレイフィールドを見極める義務がある」
「そんな無茶苦茶な……! 確かに無茶振りをしている自覚はありますけど、これはアルバス様も目を離すと無茶振りするから、これはお互いのためにやっていることであって」
無茶振りしてる自覚あったんだ。
ルルアリアとザイールの口論は続く。
その中で僕は一つの答えに辿り着いていた。決闘祭まで時間はある。今勝ち目がなかったとしても、勝ち目を作り出せばいいだけの話だろう。
それに四属性持ちで英雄王子と呼ばれるほどの実力者。そんな人が使う魔法を間近で見られるとなるなら、そりゃあ答えは一つだ。
「受けますよその決闘。決闘祭までの時間で、貴方に勝つ方法作ってくるので覚悟して待っていてください」
「アルバス様……!! ああもう! また無茶を……!!」
「よく言ったアルバス・グレイフィールド。一度吐いた唾は飲み込めんぞ? 俺は全力で立ち向かうぞ?」
「……望むところです」
僕の返答にザイールは獰猛に口を歪ませ、ルルアリアは頭を抑えて呆れ返る。
こうなったら僕は止まらない。僕は僕の全身全霊を持ってして、ザイールに挑む。
「英雄祭、今年の決闘祭は盛り上がるぞ。王国に帰ってきた甲斐があった。楽しみにしているぞ、アルバス・グレイフィールド」
そう言い残して、ザイールの幻影が消える。
そうなった瞬間、一気に肩が重くなる。緊張が解けてドッと疲れがやってきたみたいだ。
「アルバス様はどうしてあんな無茶をポンポンいうのですか!? 本当信じられませんよもう!!」
「ごめんなさい……ルルアリア王女様。でもあんな風に勝負を挑まれたら、引くに引けないというか……正味、第一王子の戦い方は気になるというか……」
言い訳をつらつらと言い重ねる僕に対して、ルルアリアは呆れたように大きな溜息を吐く。
「分かりました。では私も協力しましょう。大兄様は強いです、恐らく私やアルバス様が思う以上に。ですから、私も最大限協力します。……二人で勝ちますよ大兄様に」
「……本当にいいのかい? というか、ルルアリア王女様が協力するって……どんな風に……?」
僕が困惑しているとだ。ルルアリアは自慢げな表情を浮かべる。
「限られた時間である時だからこそ、私の属性、時空属性の真価が発揮されるのですよ」
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