第38話 アルバス、第一王子と会う
「アルバス様! 英雄祭の時期がやってきましたよ!」
グレイフィールド領での戦いから早一ヶ月。
僕は治療という名目で王城にいた。戦いで負った傷は多いけど、その大半が完治。魔法も問題なく使える。
流石に身体を動かなさすぎるのも毒ということで、今はルルアリアの農園を手伝っている。
「英雄祭って……そうか、もうそんな時期なんだ」
英雄祭。
王国で一年に一度開催される大きなお祭りだ。その期間は十三日間。この期間は他の国からも多くの人がやってくる。
「そうですよ。大兄様も直ぐに帰ってくると思います。もしかしたらもう、王城にいるかも……」
「大兄様って第一王子……?」
「はい。この時期になると必ず帰ってくるんですよ」
ルルアリアは嬉しそうな表情だ。
魔法に打ち込んで、世間にあまり興味がなかったアルバスでも第一王子はハッキリと覚えている。
「ザイール・フォン・アストレア。通称、英雄王子。僕やルルアリアみたいに単一の属性使いではなく……」
「はい、大兄様は四属性持ちです」
第一王子ザイール・フォン・アストレア。僕の二つ上の十八歳で、若くして多くの功績を立てている。
ドラゴンの単独討伐、古代遺跡から古代の魔道具の発掘、新魔法の開発などなど、彼が立てた功績は数知れない。
そして、特筆すべきは魔法の才能。
四属性持ちの魔法使いで、そのうちの三つは四大属性である火、風、土。残った一つも四大属性に続いて魔法の種類が多い闇という優れた属性をもらっている。
噂ではそれら全てを使いこなし、魔力量もとんでもなく多いと聞く。直に見たことないから、どれほどの物なのだろうか……?
「今は外国に留学行っているんだっけ?」
「はい。魔法や次期国王のための勉学のために、学園国家と呼ばれる場所に行っていますよ」
学園国家。噂では学園そのものが国となった特異的な国という話だ。
ザイールはそこに留学していて、王国にはほとんどいない。先程ルルアリアが言った通り、英雄祭が行われるこの時期だけ王国に帰還する。
「……そういえば、僕、英雄祭って何をやるのか知らないんだよね。第一王子が帰ってくるくらいだから、何かあるのかい?」
「も、もしかしてアルバス様は英雄祭に参加したことないのですか?」
珍しくルルアリアの声が震えている気がした。
僕は過去を思い返す。魔法の練習や研究に打ち込んでいたせいで、英雄祭の時期になっても王都に行くことはほとんどなかった。いや、でも確か一度だけ……。
「ガラテアが誘ってくれたことがあったかな。それっきり一度もないかも」
「へえ……。でも王都近くに住んでいたのに、一度しか参加したことないのは勿体無いですね。うん、それはとっっってももったいない」
そこまでか? というか、一瞬声が冷たく感じたのは気のせい……かな?
「その一度も屋台回ったくらいしかの記憶がないんだよね。でもそれだけじゃ、十三日間も盛り上がるはずなさそうだし……」
「屋台や出店が出るのは英雄祭のほんの一部分。英雄祭といえば、王族が優れた才能を持つ人間へ決闘を申し込む、決闘祭こそが最高のメインイベントですよ!!」
「決闘祭って……、もしかしてルルアリアが戦うのかい!?」
王族が優れた才能を持つ人と戦うって……ルルアリア? え? マジなのか?
「私としては歓迎ですけど、残念なことに大兄様の役割なんですよねそれ」
「歓迎なんだ……、そして残念なんだ……」
ルルアリアの表情は少し残念そうだけど、それはそれとして大兄様の活躍が見れそうでワクワクしているみたいな感じだった。
しかし決闘祭は少し気になる。
ルルアリアの兄が誰を選ぶのか、そして四属性持ちがどんな魔法を使って戦うのか興味がつきない。
「その決闘祭はどんな日程でやるんだ?」
「お、少しは興味でてきたっていう顔ですね。
決闘祭は英雄祭の初日に、王族が決闘を申し込みます。そして七日目に決闘をする感じですね」
真ん中の日にやるんだ……。ん? ということは。
「八日目以降は何をやるんだい? 決闘は七日目に終わりっぽいけど」
「八日目以降は別のイベントですね。騎士による大規模演習とか。大規模演習も凄いんですよ。なにせ各地が選りすぐりの騎士が参加するんですからね」
大規模演習か……それはさぞかし壮観なのだろう。
「それでどうでしょうか? 私と共に英雄祭に行ってみるつもりは……」
「ああ、それで英雄祭の話に繋がるのね……。うーん、確かに英雄祭に行ってみるのもありなんだけど、僕よりもルルアリア王女様の方が心配で」
「……へ? 私に何か心配要素ありますかね?」
ルルアリアは間抜けた様子の声を出す。
王女様というやんごとなきお方がお祭りという多くの人が集まる場所に行くというのはどうなんだろうか……?
「彼が心配する理由もわかるぞ。お前は昔から目を離すとすぐに無茶をするからな!」
「僕が言えたことじゃないけどそういうことです。それにお祭りなんていう多くの人が集まる場所に連れて行くのも気がひけるというか……」
「なかなか良いことを言うな彼は! そうだ! お前にわるい虫がついては俺は夜も眠れない! 呪いの時だってそうだ。聞いた時は飛んでいきたい気分だったぞ!」
「……ところで」
僕は視線を後ろに向ける。
そこに立っていたのは……そう、言い表すなら『巨大な黒』だ。
身長は190はあるだろう。上から下まで黒一色なのだ。これは多分この服装はこの人の趣味だろう。紫の髪に黄金の瞳が特徴的な……って、紫の髪?
「あなたはどちら様ですか?」
「む、もしや俺のことを知らないのか。俺はお前のことをよく知っているぞアルバス・グレイフィールド」
低くもよく通る声が僕にそう告げる。
……僕って自覚していなかったけど、割と有名人だったりするのか?
いやいやそれよりも! 僕を知っているこの人は一体誰なんだ!?
「あ、大兄様。お久しぶりです」
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