第36話 アルバス、新しい日常を予感する
「先ほども話しましたが、アルバス様は上級魔族を一人で倒しました」
「サラッと流しちゃったけど、本当のことなの? それ」
未だに信じられない。
そもそも上級魔族……確かバラム? とか言ったっけ。そいつと出会ってからの記憶が曖昧だ。
まだ、僕が気絶してエレインがギリギリのところで助けてくれたという方が信じられる。
「本当のことです。先生と竜騎士がこれを確認しています」
「あの二人が言うなら本当のことかもしれないけど……でもどうやって? 僕はあのとき、魔力も体力も残っていなかった。あれ以上戦える要素なんてどこにも……」
アイザックとの戦いで僕は全てを使い切っていた。魔力も体力も。
上級魔族と戦える余力なんて当然のようにないし、そもそも僕に上級魔族と戦えるような実力はない。やっぱ都合良く隕石でも落ちたんじゃないか?
「……アルバス様、今信じられね〜〜、隕石や地殻変動の方がまだ信じられるわ〜〜みたいな顔していますよ」
……ギクっ!? ルルアリアがジト目で僕の内心を読んできた。実際、そういうふうには考えていたけれども!!
「はぁ。アルバス様が信じないだろうっていう先生の予想が当たっていましたか。ですが、正直これを聞いた時、私も自分の耳を疑いました。
……アルバス様、アルバス様の持つ属性は音属性一つだけなんですか?」
真剣な眼差しでルルアリアが聞いてくる。
僕の属性は音属性一つだけだ。それしか貰わなかったから、僕は実家を追放された。
それから、僕が二つ目の属性に目覚めたみたいな感触はない。いや、そもそも女神の儀以降に属性が発現するのはあり得ないことだ。
「僕が持っているのは音属性だけのはずだ。それがどうかしたのか?」
「いえ……先生はこう言ってました。
わからないことが多すぎるが、あの場面をひっくり返すのに一番納得出来るのは、アルバスが切り札を隠しておったじゃろうな。例えば二つ目の属性や魔力解放みたいなと」
「……僕に二つ目の属性も魔力解放もありません。これは誓って言えます」
あくまで僕が知る限りではだけど。
二つ目の属性はあり得ないし、魔力解放なんてもっとあり得ない。あんなの人間で使えるのは勇者や大賢者みたいな一部の限られた人間だけだ。
「まだ頭上に運よく隕石落ちて、上級魔族が潰れた方が信憑性ありますよ……」
「そんなこと起こるわけないじゃないですか。グレイフィールド領もペチャンコですよそれ」
呆れたような声でルルアリアはそう言う。
まあでしょうね……と思いつつ、グレイフィールド領のことを思い出す。そういえばあそこはどうなったのだろうか?
「グレイフィールド領はどうなったのですか? 父は行方不明になったと聞きましたが」
「グレイフィールド領は一先ず、国が管理することになりました。現当主のザカリー・グレイフィールド、次期当主のアイザック・グレイフィールドも行方不明ですので、管理責任は無くなった物と一旦は判断します」
そうか、父も行方不明だったんだ……。
アイザックは自分で姿を消したんだろうけど、父が気になる。父は魔族との騒動中に行方不明になった。
当主と次期当主、二人ともいなくなったら領内を維持できなくなるのは当然だ。国がグレイフィールド領を管理するのも納得だろう。
「そしてアルバス様の処遇ですが……。上級魔族討伐の功績が認められ、アルバス様はシルバーからプラチナランクにランクアップします」
「ぷ……プラチナっ!? また二段階も……」
王都にきてから数日、すっかり上から三番目のランクになってしまった。
上級魔族倒したことは信じられないが、状況的に僕が倒したって言っているようなものだ。
けど、疑問は残る。
僕はどうやって上級魔族を倒したのだろうか……?
「色々報酬を用意しているみたいですが、詳しいことは先生に。後は、アルバス様の待遇ですが……」
僕の待遇? ……僕の待遇ってまさか?
「私は学習しました。アルバス様は無茶をなさる人物だと。そして、アルバス様には知ってもらいたいこと、知らなくてはならないことが山ほどあると」
……嫌な予感がしてきた。
たしかにルルアリアの前で無茶をしたのは確かだ。アイザックが目の前にいて、平常ではなかったことは認めよう。
知ってもらいたいこと、知らなくてはならないことが山ほどあるのも承知の上だ。僕自身、今回のことで知らないといけないことが増えたと思う。
魔法のことばかりを考えるのはやめて、色んなものに向き合う。アイザックへの言葉を嘘にしないためにも。
それらの感情や責任感が渦巻いているせいで、僕は次に言うルルアリアの言葉を受け止めざるを得なかった。
「しばらくの間、アルバス様は私と一緒にいてもらいますからね!!」
これを機に僕の日常は大きく変化する。
冒険者アルバスから、ルルアリアの友人アルバスへ。僕の物語の舞台は王城へと。
そして、ルルアリアの呪いを巡る新しい物語が幕を開ける。
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