第30話 アルバス、アイザックと戦う1

『水よ、敵を裂け! 水刃波!』


 アイザックが魔法を発動する。空中に現れるいくつもの水の刃。それらは勢いよく、僕に向かって飛んでくる。


衝撃音ショックサウンド


 僕は飛んでくるそれらを衝撃音で相殺する。ただし、水刃波ひとつにつき、衝撃音を二回当ててようやく相殺といったところだが……。


「僕よりもアイザックの方が出力が上か……」


 魔力量は僕と同等。しかし、一度に出力している量はアイザックの方が上だ。


 僕の魔法で例えるなら、アイザックの魔法一発、一発が僕の爆音波と同等クラスの威力を持つ。


 それよりも威力が低い衝撃音や超音波では、アイザックの魔法に打ち勝てない。一つの魔法に対して、僕は複数回それらの魔法を使わないといけないのだ。


 でも僕は僕で、アイザックよりも上回っているところはある。


「わッッッッ!!!!」


 身音魔法による完全無詠唱の衝撃音。


 これでアイザックを直接攻撃して、アイザックの意識を飛ばす……!!


 だが、僕の衝撃音は首の魔道具が発した呪いによって弾かれてしまう。


「ルルアリア王女様の呪いと同じ……!」


 ルルアリアに声帯付与をかけた時を思い出す。治癒や魔法を弾く呪い。それと同じものがアイザックにかけられている。


 あれを突破して声帯付与をかけた時、大量の魔力を消費した。それを防御に使われたら、突破はとんでもなく困難だ。


『火よ! 集いて』


詠唱破壊スペルブレイク!」


 アイザックの詠唱を僕は詠唱破壊で無効化する。どうやら詠唱自体は呪いによる防御の対象外のようだ。


 しかし、これで状況が好転したわけではない。


「……ひひっ! 兄貴ぃ、兄貴の魔法は俺には効かないようだなァ!! 俺の魔法を止めるのに必死になってヨォ!!」


 そう、アイザックの魔法は僕に大ダメージを与えられるものだ。


 しかし、僕の魔法ではアイザックに大したダメージは与えられない。


 僕は魔法の相殺のために、複数回魔法を発動しないといけないのに対して、アイザックは単純に魔法を撃ち続ければいい。


 僕の方が圧倒的に不利。



 ——僕の手札が音属性魔法だけなら。


「いつだって僕は必死さ。昔からずっと。

 だから、僕はこうする。過負荷魔法オーバーロードマジック


 僕の手札は音属性だけではない。


 物心ついた時から今まで培ってきた無属性魔法がある。


 今使った魔法は過負荷魔法。肉体と魔力、どちらにもいつも以上の負荷を強いることで、一定時間魔法の効果を倍増する魔法だ。


「小賢しい真似だな兄貴ぃ!! 『火よ、爆ぜろ。爆炎!』」


「こっちだってなりふり構ってられないんだ! 衝撃音!!」


 魔力による爆発を衝撃音で相殺する。その結果、腕の血管が何本か弾け飛ぶような痛みが、僕を襲う。


 ……あまり時間はかけられない。時間をかけていたら、過負荷魔法で僕が先にダウンしてしまう。


「なんだよ……なんなんだそれは!! さっきまで俺が圧倒していたはずなのに、なんで今は互角なんだよ!!!」


 僕の魔法がアイザックの魔法と拮抗し始めた。それを見たアイザックが金切り声を上げる。


 そうだ。過負荷魔法はアイザックが知らない無属性魔法だ。僕がこれを会得したのは、女神の儀が行われる前日。無属性魔法でも高度で複雑な魔法なんだこれは。


 高度な無属性魔法であるほど、属性魔法の方が優れているという価値観から会得する人が少なくなる。わざわざそんな無属性魔法を会得するよりも、属性魔法に時間を割いた方が魔法使いとして大成するから。


 僕だって魔法の取得速度が早くなければ、無属性魔法をここまで覚えようとは思わなかっただろう。


「いいかい? 無属性魔法は軽視されがちだ。無属性魔法よりも属性魔法の方が優れているからね。時間があれば属性魔法を覚えた方が有意義だろう。

 しかし、無属性魔法は強化という一点において、属性魔法を上回る」


 自己の強化、他人の強化、魔法の強化、それらを得意とするのは無属性魔法だ。


 白兵戦では身体強化という身体能力を強化する魔法が多用される。しかし、魔法戦において魔法の強化が使われることはあまりない。それは何故か?


 単純な話、強化に魔力を割くくらいならもっと威力の高い魔法を使えばいい。


 だから過負荷魔法による魔法の強化は、僕にとっての苦し紛れの策だ。


 僕の攻撃魔法は爆音波以外は大体同じ威力。爆音波は衝撃音よりも威力は高いが、魔力の消費が大きく、範囲が広く、隙が大きい。あまり連発できるような魔法ではないのだ。


「知らない、知らない、知らないぞ!! そんなの!? お前だけずるいぞ!! いつだってお前だけ!!」


 アイザックが叫ぶ。


 この言葉は何度も聞いた。昔から僕が父から褒められる度、アイザックが口にしていた言葉だ。


「……でもアイザック、君は僕が持ちたくても、持てない物を持っているじゃないか。僕みたいな小手先ではなくて、君には君だけの……」


「黙れ、黙れ黙れ黙れエエ!!! 俺はそんな気休めが聞きたいんじゃない!! お前が俺よりも上にいるのが、その目が気に食わないんだアアア!!!」


 アイザックの魔力が一段と強くなる。


 アイザックの感情が強まるごとに、魔道具から発している呪いが一段と強くなっていく。あれはどうやら魔力だけではなく、感情すらも強くするのか……。


 アイザックの言葉は支離滅裂。マトモなコミュニケーションは期待できない。


「出来れば回収したかったけど、そうも言ってられないねこれは……っ!!」

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