第25話 アルバス、デスナイトと戦う

「……というか、今魔物が話しましたよね」


「ああ。時々いるんだ。知性が高い魔物というのが。それは時として我々の言語を使う」


 魔物が話すというのは知っていたけど、実際に見るとこれ以上に不気味なことはない。


 カタカタという音を立てて目の前のデスナイトは話し始める。


『ワレワレノ邪魔ヲスルナ。タチサレ。デナケレバ』


 デスナイトが手に持った騎士剣と大盾を構える。


『オマエ達ヲ斬ル』


 凄まじい殺気だった。僕が今まで出会ったどんな化け物よりも化け物。


 ワイバーンですらこんな気配を感じなかった。しかしデスナイトは違う。


 アンデット特有の気配とルルアリアと同じ呪いの気配が混ざり合って、一層不気味な感じだ。


「竜騎士さん。デスナイトの身体と剣、気をつけてください。恐らく呪いの類いかと」


「やはりか。嫌な気配、私が以前戦ったデスナイトとは何か違うと思ったが、これは何かによって強化されていると見ていいかもな」


 エレインも二本の剣を構える。僕もいつでも魔法が使えるようにしておく。


「アルバス君が後衛、私が前衛でいいか?」


「はい。行きます。衝撃音ショックサウンド


 僕が衝撃音を使用した時だ。デスナイトはそれを大盾で弾く。まるで僕の発した音が見えていたみたいに。


 今までの魔物とは明らかに違う。衝撃音を防御されたことなんて初めてだ。


 しかし、意識は逸らせた。この間にエレインが超高速の突進を仕掛ける!


「ふんっ!!!」


『ヌルイ』


 デスナイトはエレインの剣を騎士剣で受け止めて、シールドバッシュで反撃。


 エレインは大盾を蹴り上げて距離をとりながら魔法の詠唱を開始する。


『火よ集え。敵を撃て。火魔弾!』


 エレインの前方に現れた火球がデスナイトを襲う。デスナイトはそれを大盾で軽々しくガード。


 けど、それでは終わらせない。


詠唱反復リピートスペル火魔弾』


 デスナイトの後方に火球が生み出され、デスナイトを背中から撃つ!


『ガァ……!?』


 ダメージを感じたが、倒すまでには至らない。恐らくデスナイトが全身に来ている重装鎧のせいで、ダメージをだいぶ軽減されてしまった。


「驚いたな。アルバス君は火属性も使えるのか?」


「いいえ。僕が使ったのは竜騎士さんの魔法を、僕の魔力で反復させただけです。火属性を持たない僕では、威力もお粗末でしたがね」


 詠唱反復。ざっくり言うと数秒前に使用された魔法を、もう一度使う魔法だ。


 エレノアが使った火魔弾を僕の魔力でもう一度使ったといえば強そうに聞こえるが、実際はそこまで便利じゃない。


 僕が持たない属性は魔力を多く持ってかれる上、精度もかなり低い。それにあまり難しい魔法はこれで反復出来ないだろう。


「ふむ、ちなみに言うと私の魔力で私の魔法を反復させることは可能か?」


「可能です。少し魔力の消費がかさみますが、威力や精度は同じものが出来るかと」


「なら、私の魔力を使ってくれ。何か手順はいるか?」


「ええ。では背中失礼します」


 僕はエレインの背中に手を当てて、魔法を発動する。


魔力共鳴レゾナンス・マナ


「数分間ですが僕の魔法を竜騎士さんの魔力で使えるようにしました」


「ありがとう。引き続き私は攻める。アルバス君は私の魔力消費を気にせず、とにかく私の魔法を反復してくれ」


「はいっ!」


 エレインと作戦が決まった時だ。こちらへの警戒度を高めたのか、デスナイトが詠唱を開始する。


『我ガ武具ヨ、闇ヲ纏エ。付与闇属性エンチャント・ダーク


 ゴォッ! という音の後、デスナイトの全身が闇属性の魔力を纏う。


「あれに僕の魔法が通るかな……超音波ウルトラサウンド


 超音波は対象を内側から破壊する魔法。だが、キィンと少し甲高い音が響くだけで、デスナイトはびくともしない。


「やっぱり、生半可な魔法は効かないということか」


「では生半可な攻撃ではないところを見せつけてやろう」


 エレインの身体が再び舞う。キンキンキンキンキンと音を立てて、火属性を纏う剣と闇属性を纏う剣が激しく、めまぐるしくぶつかる。


 その中でデスナイトもエレインも魔法の詠唱を開始する。


『火よ集え。収束し業火となり、敵を撃て。業火弾!!』


『闇ヨ、全テヲノミコム漆黒とカセ。奈落穴アビスホール


 先程よりも強い火球が生み出されるも、闇属性によって生まれた魔法を飲み込んでしまう巨大な闇の穴に吸い込まれてしまう。


 なら、そこが溢れるまで業火弾を叩き込んでやるとしよう。


詠唱反復リピートスペル業火弾五連』


 エレインとデスナイトの周囲に現れる五つの火球。その全てがデスナイトとその頭上にある闇の穴へと殺到する。


 エレインは咄嗟の判断で壁を蹴り離脱。業火弾がデスナイト達を飲み込んだ。


「意外とめちゃくちゃやるなアルバス君。やれと言ったのは私だけど」


「あれくらいしないとジリ貧ですよ。それにあれで倒れないってどんだけ頑丈なんですかあれ」


 煙を蹴り払いながらデスナイトが現れる。現れたデスナイトはダメージを負っているが、まだまだ致命傷には至らない。


 普通の魔物であればあれで消し炭になっているだろうに。


「あれを倒しきるような魔法ありますか?」


「ある。しかし、この中で使えるものとなると一つしかないが」


 僕たちはデスナイトと戦う内に鉱山の中、坑道に入っていた。この中で戦う以上、使える手札は限られる。


 何せ崩落の可能性もあるし、近くには爆破用の爆薬や石炭などがある。エレインは当たらないように上手く戦っていたが、大規模な魔法になるとそうするのも難しい。


「しかしその魔法を使うには長い詠唱と精密な魔力操作がいる。実質、それはこの状況では使えないということだ。あれと戦いながら詠唱できるほど、あれは弱くない」


「……もし、詠唱が必要ないというならどれくらいで使えますか?」


 難しい魔法ほど長い詠唱に加えて、魔法を発動するために魔力操作や魔力量を必要とする。


 あまり難しい魔法を詠唱だけで使おうとすると不発に終わることが多いのだ。


「……数秒でいい。何か策はあるんだな」


「ええ、僕が竜騎士さんの詠唱を代替します」


 音属性の魔法の真価。それはまだまだこの先にある。

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