第22話 アイザック、アルバスの許嫁の前で暴露してしまう

「いいかアイザック! お前に全てがかかっている! 必ず王族の護衛騎士になるんだぞ!」


「へいへい分かってますよ父上。護衛騎士になったら、約束守ってくれよ?」


「ふん、アルバスのことだろう? 捨てておけと言いたいが、グレイフィールドの名を利用して成り上がろうとしているのは笑止千万! 見つけ次第始末してくれる!」


 アイザック・グレイフィールドとその父、ザカリー・グレイフィールドはそんな会話をしながら王城へと入っていく。


 今日は王城にて、第二王子の護衛騎士選抜がある。アイザック達はそれに参加するため、王城にきていたのだ。


「これより護衛騎士の選抜を行う! 選抜の内容は二つ。一つは魔法実技、もう一つが模擬戦だ! これら二つの総合評価で護衛騎士を選抜する!」


 国王直属の王族騎士団、その騎士団員が参加者へそう告げる。


 今回の護衛騎士選抜に呼ばれたのは、みな名のある貴族だ。中央貴族はもちろん、地方貴族からも何名か呼ばれている。


 護衛騎士は貴族の令息令嬢で、16歳から20歳の間で選抜される。


 護衛騎士選抜の場では、参加者はもちろん、その親族も来る。それは我が子の応援などという可愛げのある理由からではない。

 彼らはこういった場でも、自分の子、自分の血筋をアピールし、自分が優れた貴族であると認めさせようとしているのだ。


「おや、あの子は魔力が少々弱い様子」

「そういう貴方の子こそ、魔法の威力は高くともコントロールがなっていない」

「何を言っていますか。あなた方は四大属性でも単一属性だけ。私の子をご覧なさい、二属性ですよ」


 このように他家の子供をおとしては、自分の子をアピールするというなんとも醜い争いが行われているのだ。


「次! アイザック・グレイフィールド前へ!」


「おや、あれはグレイフィールド家の」

「ですがザカリー殿ご自慢の息子ではありませんな」

「白髪の少年がグレイフィールド家の天才児だったはず。しかし、彼は金髪ですな」

「なに、魔法の名家グレイフィールド家にとってはこんな場に天才児を出す必要もないということでしょう」


 貴族達は遠回しに、アルバスがいないことをザカリーへ指摘する。


 これは天才児を追放した愚かな父もしくは天才児を失い、かつての栄光すらも無くなろうとしている落ち目の貴族ということを暗に言おうとしているのだ。


「アイザック! お前の力を見せてやれ!!」


「へいへいわかってますよ父上。みな! これが三属性を組み合わせた俺にしか出来ない魔法だ!!」


 アイザックは手のひらを突き出し、詠唱を開始する。


『火と水合わさり膨れよ。風よ、風よ。収束し、圧縮し、爆ける魔力と化せ! 水蒸気爆破スチームバースト!」


 火、水、風の三属性による合わせ技。水蒸気爆破。


 アイザックの発動した魔法は他の参加者の誰よりも威力が高く、目標である人型の的を消し炭にする。


「ハハハハハ!!! これが俺様の力っていうわけよ!!」


「こ……これがグレイフィールド家の子息!」

「何という魔法だ! 三つも属性を掛け合わせるなんて!!」

「白髪の天才児というのは嘘で……彼が天才児だったのか?」


 周囲の貴族達がどよめき始める。アイザックにとってそれは心地よい声だった。


 アイザックが優越感に浸っていると、そこに近付く女性が一人。肩までスラリと伸びた黒髪が特徴的な貴族令嬢だ。


「君はアルバスの弟のアイザックだろうか?」

「そうだ! だが、兄貴の名前を出すのはいただけないな! 何故なら俺こそが次期当主だからだ! そういうお前は……確か」


 アイザックは声をかけてきた貴族令嬢見て、心を奪われる。


 身長170はあるだろう、女性にしては長身の身体。紫の瞳が目を惹く整った顔立ち。スタイルは抜群に良く、男であれば誰もがその胸部に目を惹きつけられることであろう。


「そうか、君とこうして顔を合わせるのは初めてか。ガラテア・ナイトレイだ。アルバスとは許嫁という関係性だが、まあ弟の君は知っていることか」


「ああ、どっかで見たことがあると思ったら兄貴の」


 アイザックは冷遇されていた関係上、アルバス周辺の人間関係とあまり関わりがなかった。


 アルバスの許嫁は中央貴族のご令嬢としか聞いておらず、姿を見たのも何度か。こうして話すのは初めてだ。


「俺はアイザック・グレイフィールド。兄貴の許嫁……っていうことは、兄貴が家にいない今、俺の許嫁になるということでいいよな?」


 アイザックはこの後、この発言を後悔することになる。


 得意げなアイザックは気にもしていなかったが、ガラテアの纏う雰囲気が冷たくなる。


「アルバスが家にいない……? それはどういうことだ?」


「んだよ! 父上はまだ言ってなかったのか! まあいい、丁度いい機会だ。教えてやるよ」


 アイザックは大声でいう。


 それに気がついたザカリーはすぐさま止めるべく駆け出した。


「おいやめろ!! 言うんじゃない! 彼女の前でそれだけは!!」


 アイザックは知らなかった。


 目の前にいるガラテアの実家——ナイトレイ家には莫大な借金があるということを。


 その借金の理由にアルバスを使っていたことを。


 ならば当然、ガラテア達にはアルバスを追放したことを伝えていない。


 それどころか、ナイトレイ家にその情報が行かぬよう細工していたことを。


 まだ次期当主になって日が浅いアイザックにはどれも知らないことだ。


「グレイフィールドの長男、アルバスは追放されて、この俺! アイザック・グレイフィールドが次期当主になったんだよアハハハハハ!!!」


 グレイフィールド家の没落が今に始まろうとしていた。

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