第21話 アルバス、二人の視線に息をのむ
「ルルアリア王女様、先程王都北区にて魔物による襲撃事件が起きましたので、そのご報告にまいりました」
「王都内で……? それは随分と物騒なお話ですね。詳細は掴めているのですか?」
王都北区っていうと、大図書館辺り。ってああ、さっき僕らが倒した魔物のことか。
……って、入ってきた人が僕のことをガン見している。もしかして何か知っているのかな?
「報告によるとワイバーンが1体、魔鳥が9体出現。近くにいた冒険者ギルド、ギルドマスターと冒険者によって討伐と報告が上がっています」
「被害などは?」
「建物が数軒損壊した程度でそれ以上はなしとのことです。ルルアリア王女様、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
入ってきた人の視線がギィ! と鋭くなる。え? これ、僕に敵対心とかそういう類の視線だよね?
「彼が件のアルバス……という少年でしょうか? 少々距離が近いように見えます」
……声は冷たいけど、僕と概ね同じ意見でうんうんと頷く。
「そうでしょうか? 私は恩人に対してこれ以上なく適切な距離感で接していると思うのですが……」
近い! その距離感は近すぎるんだよ!!
アピールするように僕の腕を掴んで、身体を引き寄せないでくださいルルアリア王女様!! 男子的に言えば大変よろしくない状況です!
「そこにいる少年の素性を調べました。彼はほんの少し前に王都に来たばかりで、安宿で寝泊まりしている冒険者です。そんな素性の知れない人間と、王族である貴女が、同じ部屋にいること自体が間違いなのです」
「私にとっては、私の問題を解決してくれたアルバス様への礼を尽くさない方が問題です」
「万が一という可能性もあります。そこの少年が何か思惑がないとは限りません」
ギィ! と視線が強くなる。無いよ思惑! そんな大それたこととか絶対にしないよ!
「アルバス様はそんな殿方ではございません。私を助けてくださった方ですよ? これ以上はアルバス様への礼儀が欠けているとは思いませんか?」
ゴゴゴゴとルルアリアの気配が怖くなる。やべえ、笑顔だけど目が笑ってねえ。
え? ガルガンティアの方が言っていることの方が正しくない? そんなにブチ切れる要素あった?
「私の目が信じられないですか? ガルガンティア」
「……申し訳ありませんルルアリア王女様。失言でした……。先の報告についての書類はこちらに。後ほど確認ください。
私はこれで失礼いたします……何かあった際は躊躇いなく我々へお声がけを」
ガルガンティアは頭を深く下げながら、部屋を出て行く。
うーむ、言っていることはガルガンティアの方が正しそうだったけど……。
「申し訳ありませんアルバス様。アルバス様を受け入れてくれない方は多くて……」
「大丈夫ですよルルアリア王女様。それに僕を疑う気持ちは分かります。素性の知れない冒険者という点では僕はその通りですから」
魔法の名家を追放されたなんて言えないし……。
ガルガンティアや他の人が僕を受け入れられないのはわかる。
けど追放された貴族の息子なんていうことを明かしたらもっと疑われるだろう。何かを企んでいるかもって思われても仕方ない。
「そんなに卑下なさらないでください! とある伝手でお聞きしました。アルバス様は臆することなく、勇敢に魔物の群れに立ち向える、素晴らしい殿方です!」
んぐ!? 紅茶を吹き出すところをギリギリで押さえ込む。
いやどうしてルルアリア王女様がトレインのことを!?
「あ、あれは偶々上手くいっただけというか、試したいことがあったというか、考えなしだったというか……」
「もっと自信を持ってくださいアルバス様! 少なくとも、私の声を取り戻したのは国中の方々が成しえなかった偉業です!」
む、むぅ……。確かにそう言われてみたら、ルルアリアの言う通りだ。
ルルアリアの言う通り、僕はもっと自分に自信を持つべきかもしれない。慣れないことだが、少しずつやっていくとしよう。
「……もっと自信が持てるように努力はします。さて、呪いの件ですが僕はもう少し探ってみます。冒険者として活動していれば、もしかしたら呪いと関係のありそうな物と会えるかも知れませんし」
「ええよろしくお願いします。私も無理がない程度に怪しそうな人を探してみますね」
王族や中央貴族は、今の僕では調べることはできない。そこはルルアリアに任せるしかないだろう。
となると僕にできることは自ずと限られる。
先の魔物騒ぎといい、もしかしたら魔物倒したら何かの手がかりが得られるかもしれない。なんとなくそんな予感がするのだ。
「それではルルアリア王女様、僕はこれで……って、どうやって出ればいいですかね?」
「ふふふ、私に任せてください。『空間よ、旅人を送り給え 転移門』それではまた会える日を楽しみにしていますよアルバス様」
僕はその声を聞き届ける。
次の瞬間には僕は王城の外側にいた。今まで王城の中にいたのが嘘だったみたいだ。
「これが王女様の魔法……か」
僕は改めてルルアリアの魔法の力を目の当たりにし、心の底から驚く。
そして、僕はいつもの宿へと帰るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます