第20話 アルバス、王女様に抱きつかれる
ルルアリアに会うため、僕は王城に来た。
王城は一般公開されている区画もあるため、普段もそれなりに賑わっていたりする。
しかしルルアリアみたいな王族がいるようなところは流石に行くことは出来ず、僕はどうルルアリアとコンタクトを取るかで頭を悩ませる。
「しまった……どこから入るのかとか聞いておくべきだった」
衛兵に伝えてみるか?
それだと不審者に思われないか?
などと考えていると、僕の下に一羽の鷹が降り立つ。白い体毛が特徴的な鷹だ。鷹の足には一枚の手紙がくくられていて、それを取れと鷹は僕にジェスチャーをする。
「これは……」
手紙を開く。手紙は特徴的な魔法陣のような物が描かれているだけで、それ以外は特に何も書かれていない。
不思議と魔法陣は見入ってしまうようなデザインだ。そう思って魔法陣を見ているとだ。
「ようこそ、アルバス様。嬉しいです! 早速来てくださったんですね!!」
「ルルアリア王女様!? ってここは……うわっ!!」
気がついたらルルアリアが目の前にいたというか……、戸惑っている間にハグされていたんだけど!?
いい匂いで頭が……いやいや、これはまずいぞ! というか、何がどうなっているんだ!?
「る……ルルアリア王女様! 一体これは……というか近い! 近いです!!」
「早速来てくださったアルバス様がついつい愛おしてくて……。ふふ、ごめんなさい」
ルルアリアは微笑み、僕から離れる。僕はルルアリアの全身像が見えて、少し驚く。
昨日出会った時みたいなドレス姿ではなかった。まるで鉱夫が着るようなオーバーオールに、厚手の手袋、長いブーツ、顔に僅かな泥がついている。
「ルルアリア王女様! 顔に泥が! これを使ってください!」
「ふふふ、ありがとうございます。せっかくなので使わせてもらいますね」
ルルアリアは手袋を外して、僕が渡したハンカチで顔の泥を拭う。
その間に僕は周りを見渡す。どうやらここは小さな農園? 周囲の壁や豪奢な扉から、王城の中庭だろうか?
「いきなりのことで驚いているようですから、一つ一つ説明しますね。先ず、ここは王城の中庭です。使われていない区画を私が農園や花園に改造させてもらいました」
ルルアリアの言う通り、中央は農園、壁際には花壇がびっしりと並べられている。花壇も花壇で色とりどり、さまざまな形の花が咲いていた。
「なんで王女様が土いじりなんか……? その」
「王女らしくないでしょうか。私の趣味は身体を動かすことですから。土いじりは丁度いい運動になりますからね」
実家にいた時、何度か使用人達の手伝いで土いじりをやったけど、あれは疲れる。農具とかやたらと重いし……。
もしかしてルルアリアは一人で土いじりをしているのか? 壁に立てかけてある農具も一人分しかないし……。
「兄弟姉妹からはやめた方がいいと言われたりするのですが、ハマってしまうとこれが意外と面白くて。ついつい熱が入ってしまったのです」
「熱が入って……これですか。これはもう趣味とかじゃなくて本職のレベルですよ」
まさか土いじりをやりながら、王女としての公務とかやっているのか? 結構体力化け物なのでは?
「そうだ! アルバス様もやってみませんか!? 農具なども用意しておきますし、ね?」
「考えておきます……。というか、僕はどうやって中庭まで? さっきまで王城の外にいたはずなのに」
「それは私の魔法ですよ。時空属性には他人を転移させることが出来ますので」
瞬間的な他人の転移。これが時空属性の魔法か。
魔法使いとしては時空属性の魔法に興味がある。ほかにどんな魔法があるのか、ルルアリアに聞きたいところだけど……。
「アルバス様は今日は何故ここに? もしかしてただ用事もなく会いに行きてくれたのですか! 私は全然構いませんよ!! 今すぐにおもてなしの準備でも」
「あ、いえいえ! 今日きたのは報告です!!」
「なら、なおさらおもてなしが必要そうですね。立ち話させるのも悪いですし、ね?」
ということで、僕とルルアリアはある部屋に入る。ルルアリアは先程の姿から、私服と思われるドレスに着替えている。
部屋にあるソファに案内されて、僕とルルアリアは隣り合って座る。え? 何故隣? エレノアの時も思ったけど、こういうのは普通対面じゃない?
「報告とは私の……」
「ええ。今日色々調べてわかったことだけでも共有しておこうと思いまして」
「人払いは済ませています。お話になってください」
僕は索敵音の魔法名を唱えて、魔法を使う。出力は最小限に。
たしかにルルアリアが言う通り、周囲に人はいない。僕らの会話を盗聴するような使い魔、魔道具もなさそうだ。
「先ず単刀直入に。ルルアリア王女様に呪いをかけたのは、ルルアリア王女様に近い……もしくは会ったことがある人だと思います」
「……続けてください」
ルルアリアの表情が僅かに険しくなる。
「ルルアリア王女様にかけられた呪いは調べたところ、どちらも高度な物でした。条件をいくつも満たさないと使えない呪い。その中で一つ、外せない条件として接触が……」
「接触……。すみません、私はパーティーなどに呼ばれることが多いため、特定は……」
「しまった……その可能性を考えていなかった」
王女様となると会える人は少ないはず! とか思ってた僕が馬鹿だった。
ルルアリア王女様はとんでもない美貌の持ち主なのだ。やれ公務、やれパーティーなどと各所から引っ張りタコなのは想像できたはずなのに!!
「呪いの原因を探る……。術者を見つけるのが一番手っ取り早いと思いましたけど、うまくは行かなさそうですね」
「呪いの術者ですか……。いえ、王族、中央貴族になれば魔力を持っていないほうが珍しい。私と接触した全ての人を調べていては手は足りませんね……」
「属性とかは分かりませんよね……。闇か毒属性、もしくは呪いが使えそうな属性の持ち主なら、特定できたかもしれませんが」
でもわざわざ毒や闇属性持ちだとして、それをわざわざ言う人がいるかという話だ。
王族や中央貴族が呪いの術者だと仮定するとしよう。
僕みたいに四大属性を発現せず、ハズレ属性を発現させた人はそう言った立場から追放されているはず。追放されていなくても、表舞台に出てくることは稀だろう。家の恥とかなんとかで。
つまりルルアリア王女様と出会った人たちは、四大属性を持っているのはほぼ間違いない。
王女様と出会う機会=アピールチャンスとかだから、四大属性持ちというのは外せない絶対的な要素だ。四大属性を持っているほど偉いっていうのが魔法社会だし。
まあ、そんな人たちがだ。仮に闇や毒属性を持っていたとしてそれを明かすかと言われたら、多分明かさない。ハズレ属性は多種多様すぎて、名乗ることで印象がガラリと変わってしまうことがあるからだ。
例えば光とか木、雷は明かすとプラスイメージになりやすい。使える魔法が強力だったり、光は清らかな印象を、木は穏やかな印象を与えやすかったりするから。
逆に闇や毒、影などはマイナスイメージになりやすい。聞くからに物騒だったり、怪しそうっていう印象が強いからだ。
呪いに特化した属性なんてマイナスイメージの属性だ。だから、わざわざ自分からマイナスイメージになりうる属性を語ることはしないだろう。
「流石に属性の特定はいくら王族の私であろうとも、簡単にできることではありません。よほど親しい仲でない限り、属性は明かしませんしねえ……」
「ですよね。だめだ手詰まりだ……」
僕が弱音を吐くとだ。タイミング良くコンコンと扉がノックされる。
あれ? さっき索敵音使った時は近くに人はいなかったはずなのに……って、なんだかんだ一時間くらい経過している!?
「どうぞ入ってください」
「え!? ちょ……ルルアリア王女様! この距離感を人に見られるのは……!!」
ルルアリアは当たり前のように通したけど、僕の心がよろしくない!
ルルアリアと隣り合わせでいるところを誰かに見られたら、なんていう誤解を抱かれるか分かったもんじゃないからだ!!
「ガルガンチュア入ります」
ギィィイと扉が開く。中に入ってきたのは二十代後半くらいの長身の男性。
彼は僕をキッと睨みつけていた。
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