第19話 アルバス、ギルマスと共闘する2

「お、アルバス、もうちっと時間かかると思うたが、お主、中々やるのぉ。もう片付けたのか」


「は、はい……。こ、これは今何を?」


「ん? ああ。なに、魔法の同時展開をどれだけやれるかを試しておってのぉ。興が乗ってしまい、ついつい大量に発動させてもうたわ」


 エレノアが僕の方に視線を向ける。その次の瞬間だ。


「グオオオオオオオッッ!!」


 ワイバーンが咆哮を上げて巨大な火球を吐いてきた! うわこれ凄い初めて見た!!


「……って前! 前! 火球来てますよ!」


 僕の衝撃音で相殺できるか!?


 と思い、魔法を発動しようとした時だ。エレノアの周囲を漂っていた水球と竜巻が同時に動き出す。


 ワイバーンの火球は、エレノアの水球と竜巻よりもはるかに大きい。このままでは飲み込まれるだけだと思った時、水球と竜巻が混ざり合って、火球よりもさらに大きい激流になったのだ!


 ジュワアアアアという火と水が混ざって蒸発した音。火球は跡形もなく、水蒸気に成り果てていた。


 その水蒸気を風が周囲に散らしていく。二つの属性が合体したことも驚きだけど、それ以上に驚きなのが、エレノアが詠唱をしなかったことだ。


 無詠唱は僕が知る限りでは音属性の特権だ。まさかエレノアも音属性なのか……?


「風属性と水属性の合わせ技じゃ。不思議そうな顔をしているから言ってやると、わしは音属性ではない」


 エレノアはニッと僕に微笑むと、ワイバーンへと向き直る。


「お主の戦い方を直に見て、わしは驚いた。心臓の鼓動や、自分の声を詠唱、魔法名に代替することが可能なのかと。他の属性には出来ぬ、お主だけの武器だろうと」


 エレノアは話しながら、上空にいるワイバーンに向けて手を伸ばす。


 遠近法で手に収まっているように見えるワイバーンをそっと握り込むような動作をしながらエレノアは口を開く。


「わしはお主みたいに詠唱を破棄するような真似はできん。わしが出来るとすれば、あらかじめ詠唱しておくことだけじゃ」


 エレノアが拳を勢いよく握りしめると、エレノアの周囲に漂っていた魔法達が、一斉にワイバーンへと襲いかかる。


 防御を許さないような怒涛の魔法。ワイバーンの鋼鉄よりも強固な鱗とて、それを防ぎ切ることは不可能だろう。


「詠唱と同時に魔法を使うのは二流。一流は魔法の発動するタイミングすら自由自在に操る。魔法を手足のように扱えてこそ、一流の魔法使いというものじゃ」


 魔法の発動タイミングを操ることは、無詠唱で魔法が使える僕でも出来ないことだ。


 何故なら、それは魔法の中でも高度な技術だから。


「そして、アルバス。お主が先程、わしを見た時の言葉について答えよう」


 エレノアは自分の前で両手を構えて、魔力を集中させる。いや、火、水、土、風……数多の属性の魔法を集約させているんだ。


『元素よ、魔力よ、我に集え。敵を穿て』


 歌うような美しい詠唱。エレノアの前に銀に輝く魔力の球体が完成する。


『魔砲』


 エレノアが魔法名を唱えた瞬間、球体は一筋の光線となる。光線はワイバーンを飲み込み、ワイバーンの全てを消滅させてしまった。


「わしが使うのは八属性。こんなにあったところであまり使わんがの」


「は……八ぃ!?」


 八属性もあるってインチキじゃないか!?


 四大属性、その全てを持っている人も珍しいというのに、エレノアはその倍。八属性も持っている人なんて、探してもこの人くらいだろう。


「わしからしたら、一属性、もしくは二属性くらいがちょうどいい塩梅なんじゃがな。魔法書読むのも大変なんじゃ」


「八属性もあったら、魔法取得も大変ですねそりゃあ……」


 多くの人が持つ四大属性なんか、一つの属性ですら一生かけて読める魔法書はほんの一部だ。


 八属性なんかもあれば、それこそ天才的な頭脳じゃない限り、魔法の会得すら一苦労だろう。


「ところでアルバス、気が付いたか?」


 エレノアの声のトーンが一段と低くなる。僕はエレノアが聞こうとしていることがわかった。


「ええ。大図書館で魔法を使った時に」


 大図書館で索敵音を使った時だ。魔物以外に感じ取ったものが一つある。


 僕はそれがある方向に駆け寄る。


「多分、これのことですよね?」

「おお、気がついておったか。魔力切れで、効果は失っておるか」


 路地に積まれた木箱の裏。


 そこに隠すように、手のひらサイズの円型の魔道具が置いてあった。中央に黒い魔石が埋め込まれている……魔法陣? を模したような魔道具だ。


「これは……魔道具ですかね?」


「よく分かったのぉ。この手の魔道具は少し前に流行ったものじゃな。詠唱なしで魔法を使える魔道具じゃが、使える魔道具は一つだけ、製作コストも高くて結局廃れてしまったがの」


 詠唱を代替する方法はいくつも模索されている。しかし、詠唱の方が優れているという結論に至って、今まで流行った試しがない。


「これはおそらく召喚魔法じゃな。王都には強固な結界で護られておるが、内部からとなると阻むことはできぬか……」


「これで結界の内側から魔物を呼び寄せたっていうことなんですよね?」


 王都には強固な結界が張られている。よほどのことがなければ破れないような強い結界だ。これで魔物の脅威を退けている。


 それは外側からの脅威を想定したもので、今回みたいに内側から現れた魔物を想定していない。


「舐めた真似をしおって。これを置いた犯人は必ずとっちめてやる」


 エレノアは手のひらで魔道具をくるくると回した後、それをポケットの中に入れてしまう。


「調べ物が出来た。わしは帰らせてもらう。ああ後、いつでもいいからわしのところに来い。渡す魔法書をいくつか見繕ってある。それに今回の魔鳥共の討伐、その報酬も渡さんといかんしな」


「ありがとうございます。忙しそうですし、後日改めて伺わせてもらいます」


「おう、じゃあな」


 エレノアは手を振って冒険者ギルドの方へと行ってしまう。


 僕はその場で立ち止まって少し考える。今回の魔物の襲撃、少し思うところがある。だって、ルルアリアの治療の翌日だし、王都のほぼど真ん中だ。


 何かないと考えない方がおかしいだろう。


「ルルアリアを狙っているのか……?」


 僕は王城へと向かう。取り敢えず、ルルアリアに調べたことを報告しなくちゃ……。

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