第16話 ザカリー、魔法使いの怒りを買ってしまう

「こ、この金額で手を打ってはいただけないだろうか……!?」


 ザカリーは書類を目の前の魔法使い達に渡す。


 魔力装置に魔力を供給する魔法使いを雇うため、貴族のコネを使い、魔力量が多い魔法使い達を紹介してもらったのだ。


 男性魔法使いはその書類を見て、はあとため息をついた後に冷めたような声でザカリーに言う。


「ダメだ。話にならない。いいか、ザカリーさん。俺たちも慈善事業で魔法使いやってるわけじゃねえんだ。もっと報酬を用意しな!!」


 男性魔法使いは書類をザカリーに投げつける。その後仲間たちを引き連れて、部屋を出ていこうとする。


「まっ……待ってくれ! いくら! いくらなら満足するんだ!?」


「ああん? 一ヶ月で一人当たり六十万ゴルド。それが最低ラインだ。まあ、あれだけデカイ魔力装置なんだ、満タンまでっていうなら八十万は貰うぜ」


「は、八十万!? ぼったくりじゃないか!!」


 魔力とは魔法使いにとって欠かせない物の一つだ。それを提供しろとなると、かかる金も自ずと高くなる。

 魔法使いにとっても魔力がなければ、魔法を使うことができないからだ。他人の生活のために魔力を提供しろなどと、対価として要求されるものは大きくなる。


 ザカリーは魔力を提供してもらう魔法使いを雇ったことがない。今までアルバスがいたからだ。だから、魔力を提供してもらうための魔法使いが如何に高いか知らなかった。


「オイオイ、貴族様がそれすら払えないっていうのか!? 俺たちを馬鹿にするのもいい加減にしろよ馬鹿貴族!!」


 男性魔法使いはそう吐き捨てて、今度こそ部屋を出ていった。


 部屋に残されたザカリーはわなわなと拳を振るわせた後、書類を破く。


「クソオオオオオオオ!!!!! 何故だ!? 何故こうなった!!!」


 今、グレイフィールド家は破産の危機に陥っていた。使用人達を解雇したが、土地の維持や魔法研究のための研究費などがかさみ、財源は底をついていたのだ。


「それもこれも女神の儀からだ! 女神の儀から俺の予定が全て狂った!!」


 ザカリーは息子アルバスを使い、ある計画を立てていた。それは地方の貴族から、王都の貴族に成り上がる計画だ。


 アルバスは属性以外を見れば、これ以上にない天才だった。

 アルバスの才能は王都にいる中央貴族達、もしくは王族も欲しがり、アルバスがそんなご令嬢と婚約すれば、ザカリーも中央貴族の仲間入り……的なことを考えていたのだ。


 しかしアルバスが音属性を授かり、一時の感情でアルバスを追放してから全てが狂った。


 屋敷の地下にある魔力装置は止まり、使用人達は次々とやめていき、魔力装置を動かすために魔法使いを雇おうにも財源が足りなくて断られる日々。


 オマケに貴族の間ではグレイフィールド家が没落するという噂まで流れている。パーティーに出席すれば、アルバスと同年代の令嬢、令息が優れた属性を発現させたと自慢され、嫌味を言われる。


「ぐぐぐぐ……く、くそぉ!! わ、私はこれからどうすれば……!!」


 ザカリーが頭を抱えていた時だ。偶然開けっ放しにしていた窓に一羽のカラスが降り立つ。


 これは魔法使い達が連絡手段に用いる使い魔だ。無属性魔法には【使役】という魔法がある。魔力で動物を操作する魔法だ。


 カラスの口には一枚の手紙が咥えられている。ザカリーはそれを手に取り、中を見る。


「第二王子の護衛騎士募集……? そうかこれだ!!」


 手紙の中身はこうだ。


 第二王子がつい先日、女神の儀で属性を授かったらしい。それによって第二王子にも私兵を持つ権利を得たという。


 この手紙を送られるのは歴史のある貴族であり、また優れた魔法の才能を持つ令息、令嬢がいる家だけだ。つまりグレイフィールド家は王族に認められたということだろう。


「ククク、アイザックが王族の私兵となれば自然に私も地位を得るはずだ! そうすればこんな地方からオサラバ! 私は中央貴族となり、栄華を謳歌することができる!!! 早速参加ダァ!!」


 ザカリーは参加の旨を手紙に記し、カラスの口に咥えさせる。カラスはそれを確認すると窓から飛び去っていく。


「……私にも運が回ってきた!! これで私も中央貴族に……グフフフフ、すぐにアイザックを呼び出さないとな!!」


 ザカリーが気味悪く笑っていると、またもカラスが窓に降り立つ。さっきの手紙とは別の手紙を口に咥えていた。


「な、なに!? これは借金の返済の予定!? ええい!! 少しくらい待ってはおけんのか!!! すぐに倍にして返してやる!!」


 それはあるコネで金を借りていた中央貴族からの手紙だった。ザカリーはその手紙を燃やしてしまう。


「俺はアイザックを使って中央貴族に成り上がるんだ……!! そしたらこんな地方からはオサラバだ!!」


 ザカリーの笑い声が屋敷中に響くのであった。

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