第14話 アルバス、ルルアリアからある提案をされる

 ゆっくりと目を開ける。


「知らない天井だ……」


 あれ? 僕はなんでこんなところで寝ていたんだ……?


 何か大切なことを忘れている気がする。そもそも僕寝る前に何をしたんだっけ……?


「ってそうだ! 僕、王女様の前で!!」


 魔力切れでぶっ倒れたんだった!!!


 ということはここは王城!? え! 僕王城でぶっ倒れて、王城で寝ていたの!?


「目が覚めたようですねアルバス様。体調のほどはどうですか?」


 ルルアリアが僕の顔を覗き込む。ベッドの横、そこにルルアリアがいたのだ。


「る……ルルアリア王女様!? どうしてこんなところに?」


「私のせいみたいなものですからね。私がここにいるのは当然です」


 ルルアリアはどこか罰が悪そうだ。


「いや、そんなことはありません。ただ、僕が未熟だっただけです」


 僕は身体をゆっくりと起こしながら、ルルアリアへそう口にする。


 その時、身体のことについて一つの違和感を覚えた。それは声帯付与で消費して戻らないはずの魔力が元に戻っていたのだ。


「魔力が戻っている……? 声帯付与が解除されたのか? いやでも、ルルアリア王女様は話しているし……」


 僕はルルアリアの方を見る。ルルアリアは僕の聞きたいこと察して、ニコリと微笑みながら口を開く。


「アルバス様の魔法が解除された訳ではありません。アルバス様の魔法がなければ、私はこうして話すことは出来ないでしょう。

 ですが、話せるということはつまり私にも魔法が使えるということ。だから、私もアルバス様に魔法を使いました」


 そうか魔法! 一体ルルアリアの魔法もとい属性はどんな物なのだろうか?


「私の属性は【時空】。時と空間を操ることに長けた希少属性です。俗的な言い方をするとハズレ属性になるのでしょうか」


「時空……、それが王女様の」


 僕は言葉を失う。


 時空属性。その属性を聞くのは僕も初めてだった。しかし、時と空間を操ることに長けているという情報だけで、それが優れた属性であることは疑う余地はない。


「【逆行時間リバース・タイム】。対象の時間をあるところで巻き戻し、固定する魔法でアルバス様の時間を、私に魔法をかける前まで戻しました」


「だから僕の魔力が元に戻っていて、魔法は変わらず継続していると?」


「はい。アルバス様が先程倒れたのは多大な魔力消費によるもの。付与系の魔法を使っている間、魔力の最大値が減ってしまうというデメリットは知っています。

 魔力の最大値はそのまま魔法使いとしての性能になる。私のせいでアルバス様の性能を下げてはならない。そう思い、この魔法を使いました」


 これで声帯付与によるデメリットは確かになくなった。


 だが僕はここで一つ疑問に思う。


 僕の時間を巻き戻すというその魔法、自分自身にかければ呪いを無かったことに出来るのではないか?と。


「失礼を承知で聞きますが、王女様はなぜその魔法を自分ではなく、僕に? 

 魔法が使える今なら自分の時間を呪いがかかる前に巻き戻してしまえば、これ以上僕の声帯付与に頼る必要はないと思います。それに僕の魔力の問題も声帯付与解除で解決しますし……」


 今までは声が出ないため魔法が使えなかった。しかし、今のルルアリアは魔法が使える。


 逆行時間を僕ではなく自分にかけて、呪いにかかる前に自分の時を巻き戻して固定すれば声は出るようになるだろう。僕は声帯付与を解除するだけで魔力の問題は解決する。


 こっちの方が二人ともなんのデメリットを背負うことなく、事が終われるはず。なのにルルアリアは僕にその魔法をかけた。


 それでは僕だけが魔力を取り戻し、ルルアリアは声帯付与に頼り続けなければならない。僕が声帯付与を解除すれば、ルルアリアの声は再び失われてしまうだろう。これでは問題の解決になっていない。


「……使えないのです。時空属性の魔法を自分に」


「使えない……? それは魔法のルール的におかしくないですか?」


 魔法は自分に向けて使う方が簡単で、自分以外のものに向けて使う方が難しくなる。


 さらに言うと同じ魔力量で魔法を使った場合、自分に向けて使う魔法の方が効果が大きいとも証明されているくらいだ。


 だから詠唱が完璧でも、他人に大きな影響を与える魔法は時として不発に終わることもある。魔力量や魔法使いとしての練度の問題で。


 時空属性が自分に向けて使用できないとなると、それはこれらのルールから大きく外れてしまうのだ。


「時空属性は使える魔法、その全てが規格外の力を持ちます。そのせいか、時空属性の魔法はほぼ全てが自分に対して使えなくなっているのです。

 極端な話、自分に逆行時間を使い続ければ不老不死だって夢じゃない。そう言ったことを出来なくするために、時空属性は自分への魔法を禁じているのでしょう」


 確かに時間を操ることが出来るなら不老不死にだってなれるし、空間を操ることが出来るなら瞬間移動だって恐らく出来てしまうだろう。


 それでは時空属性を発現させた者が世界の覇権を握っていてもおかしくない。けど、現時点で世界中のどの国もそんな風にはなっていないということは、時空属性に大きな制約があるからだろう。


「父……国王は私のこの才能を誰よりも必要とし、研究すべきと考えていました。だからこそ、私が声を失った時、国王は焦り、国中に協力者を要請したのです。恐らく、私が時空属性の持ち主でなければ追放で終わっていました」


 ルルアリアはどことなく自虐的な表情を浮かべる。


 確かにこの属性は権力者であるほど喉から手が出るほど欲しい属性だろう。


 だからか。だから国中を挙げて、ルルアリアの治療をしようとしていたのか。


 逆に言えば、ルルアリアが時空属性の持ち主でなければ僕みたいに追放されていたのだろう……。



「話が逸れてしまいましたね。アルバス様、貴方には改めて国王から報酬が与えられると思います。それこそ何でも。富や名声、望むのであれば王族の一員に名を連ねることも出来るでしょう」


「王族の一員って……流石にそこまでは」


「いいえ。貴方はそれだけの働きをして、それだけの功績を挙げました。逆行時間は私のほんの気持ちとして受け取ってください」


 初対面とは打って変わって、ルルアリアは真面目な様子で話す。


 王族の一員になるって聞いたことがない! そりゃあ、貴族が代を重ねて王族と近付き、王族の一員となるケースはある。しかし、たった一つの功績で王族の一員になるなんてそれこそ魔王を倒すレベルの功績を挙げないと……。


「トレインの報酬といい、今回といい、そろそろ胸焼けしてきた……」


「そう言わずに。というか、私が言うのも何なんですが、王族の一員になれば一生苦労することなく生きることができるんですよ?」


 まあそりゃそうだ。王族になれば自分の望むものは全て手に入り、全てが叶うだろう。


 でもなあ、僕意外と冒険者という職業が気に入っている。冒険者として魔法を色々試したりするのが楽しいと思っている自分がいるのだ。


「王族って冒険者できますか?」


「へ? え〜〜どうでしょうか? 流石に難しい気も……」


「ですよね。僕、正直に言うと冒険者でどこまで自分の魔法を探究できるのか試したいんですよ。だから王族になりたいかと言うと」


「なるほどなるほど。冒険者。確かに心躍る職業で、アルバス様がそれに惹かれるのもよく分かります。ではこうしましょう! 私も冒険者という職業をやってみたいと常々思っていましたので、ちょうどいい機会です!」


 ルルアリアが何かを思い付いたみたいに手を叩く。なんだろう……彼女のアグレッシブさはさっきでよく思い知ったから嫌な予感がする。


「国王の報酬にお困りなら、私から一つ提案があります! 私といつでも会える権利にしてみては? もし、アルバス様がほかに望むものがなければの話ですが」


「ルルアリア王女様にいつでも会える権利……?」


 ルルアリアの提案に僕は首を傾げるのであった。

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