第13話 アルバス、王女様に好みを聞かれる

「貴方のお名前を伺う前に、初めて会う殿方にはこう聞くのが礼儀であると先生から教わりましたので問いますね」


 ルルアリアはニコリと微笑みながら僕に言う。


 名前よりも先に聞くもの……そんなものあったかな?


 ルルアリアはどこか目をキラキラと輝かせながら、次の瞬間僕にこう聞く。


「ずばり! どんな女性が好みタイプでしょうか!?」


 な、な、な、何を聞いてるんだこの人!!!?


 あまりにも驚きすぎて腰を抜かすところだった。冗談か? これは僕の夢なのか? それとも聞き間違いなのか?


 いや、聞き間違いとかじゃない!!! 王女様、思いっきり言ってやったぜみたいなドヤ顔で鼻をふんすふんすしてる!!!!


 これは本気マジの問いだ! これはちゃんと応えないとヤバい……!!


 でもこの時、僕の脳裏に一瞬、電流が走る。


 それは僕の好みをストレートに応えていいのかどうか!! 僕の好みは腹筋割れて、大腿筋が太めの女性だ。


 しかし大体の女性、特に貴族の女性はそれに当てはまらないことが多い。そもそも鍛えるっていう概念がないからね。鍛えなくても生きていけるし……。


 目の前にいるのはやんごとなきお方! 筋肉があるとは思えない。だからここはやんわりと波風が立たないように立ち回るべきか。それとも正直に話すか。


「どうなんですか? ほらほら私はどんな答えでも受け入れますよ! さん!はい!!」


 この流れに飲まれそう……!!


 物静かな雰囲気の女性かと思ったけど、めちゃくちゃアグレッシブだこの人!!


 もう話すしかない!! ええい! もうどうにでもなれ!!!


「筋肉があるタイプの女性です!! 特に大腿筋と腹筋!!」


「まあ……まあまあまあ! それは本当ですか? 本当なのですか? 本心なのですか!?」


 ぐぐぐいとルルアリアは身体を近付けてくる。あ、あれ? もしかして僕、ヤバいこと言っちゃった!?


「え、ええ……。やっぱり失礼ですよね、やんごとなきお方にこう言うの」


「いいえ! むしろ嬉しいくらいです! 私もそのような女性を目指すべく、日々努力しておりますので!」


 ……え?


 またも想像外の言葉に僕の思考が止まる。目指してる? ルルアリアがムキムキの女性に?


「健全な肉体にこそ健全な精神が宿る。優れた魔法と優れた肉体、この二つを兼ね備えることこそ、私は魔法使いの完成形だと思っております!」


「あ……そう、ですね」


「でしょう!! どうやら貴方はとても優れた魔法使いとお見受けします。名前を聞いても?」


 この流れで名前を聞いてくるのね。


 僕は自分を落ち着けるために一度深呼吸する。ルルアリアの勢いに呑まれそうになったけど、何とか自分のペースを取り戻す。


「アルバスです。ルルアリア王女様」


「アルバス……? グレイフィールドの神童と呼ばれたアルバス・グレイフィールドで相違ないでしょうか!?」


 ぐ、グレイフィールドの神童……? 僕、そんな風に呼ばれてたの? 知らないが?


 いやでも父が自慢しまくってたらしいから、もしかしたらそう言うふうに話が広まっていてもおかしくないか。


「その神童かどうかは分かりませんが、アルバス・グレイフィールドというのは僕のことです。まあ、グレイフィールドは元になってしまいますが」


「もしかして何か事情が? 何か困りごとはありませんか? 衣食住は揃ってますか? なんでも私に言ってください! 貴方は私の唯一無二の恩人なのですから!」


 グイグイ来るなこの人!!


 きょ、距離感がとにかく近い! 流石にここまでグイグイ来ると僕も反応に困る!


 でも、そうか恩人……唯一無二の恩人か。僕の魔法がルルアリアの助けになったみたいで、僕は嬉しい。


 って思った瞬間だ。気が抜けたせいで、脱力感、激しい目眩が僕を襲う。そうだ……忘れてた。声帯付与の魔法に魔力を使いすぎたんだった……。


「ルルアリア王女様早速ひとついいですか?」


「はい、なんでも私に言ってください!!」


「今からぶっ倒れます僕」


「は、はいっ!?」


 僕は驚いたルルアリアの声を、最後に意識が飛ぶ。王女様でもそんな驚いた声を出すんだって思いながら。

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