第5話 アルバス、ゴーカイに絡まれる
「それはどんな証拠があって言っているんだ?」
ゴーカイの言葉に反応したのは、目の前にいる竜騎士だった。
竜騎士の声は先程とは打って変わってどこか冷たい。そんな声色に臆することなく、ゴーカイはこういう。
「こいつが大森林の奥でジャイアントグリズリーを攻撃して怒らせたんだ!! それが原因でトレインが起きた!! こいつがトレインの元凶だ!!」
「それは本当なのか?」
竜騎士の視線が僕に向く。射抜くような鋭い視線を肌でピリピリと感じる。
「ちがいます。僕は大森林の中に入っていません。ずっと平原にいました!」
「嘘を言うな! 俺たちは見ているんだぞ! お前が魔法で寝ているジャイアントグリズリーを起こしたのを!!」
「そうだそうだ! ゴーカイ様の言う通り、俺たちは見ていたんだぞ!!」
「ハズレ属性が言い訳をするな!」
僕の答えに対して、ゴーカイと取り巻き達は間違っていると言う。
トレインが発見される直前、大森林から逃げ出してきたのはゴーカイ達だ。ゴーカイ達がトレインを起こしたと思うけど、それを証明する手立てがない。
「彼の潔白は、俺が証明しよう! 彼はトレインが起きて参戦する際、平原の方からやってきた! それに彼はまだ武器も装備も整っていない初心者。そんな彼が大森林の奥地に行くわけがない!!」
「それにお前たち、ゴーカイだろ!? 初心者冒険者から魔石を巻き上げていると聞くぞ!」
「俺も今日難癖をつけられて魔石を取られた!」
「そこの彼は勇敢にトレインと戦った! それに比べてお前達は戦いに参加していないじゃないか!!」
周りの冒険者達の声にうろたえるゴーカイ達。ゴーカイは背中のクラブを引き抜く。
「し、知るか!! 俺はシルバーランクの冒険者なんだぞ! こんな武器も持っていないような初心者よりも、俺の方が偉いんだあああ!!!」
あろうことか、そのクラブを思いっきり振りかぶって、僕に攻撃してきたのだ!!
これが魔物だったら反撃できたけど、音属性魔法で人に攻撃するのは、あまりにも凶悪だ。ゴブリンの内臓や脳をシェイクして殺すような魔法は、人に向けて使えない。
だから攻撃ではなく、防御。魔物相手に使う機会はなかったけど、防御用の魔法も音属性にはある。その名を。
「
「うおおおおおお!!!!」
ガキン! べキャ!!!
「ギエエエエエ!!? 俺様のクラブと腕がアアアアア!!!!」
ゴーカイの鋼鉄でできたクラブは真ん中でへし折れ、クラブを持っていた左腕はあらぬ方向に曲がっていた。
音波障壁。障壁という魔力の壁を生み出す魔法に、振動を加えた魔法だ。振動が加わることで近接攻撃に対して反撃できるようになった。
反撃の威力は高くないが、見ての通り、鋼鉄を砕き、振動で人の腕をへし折るくらいの威力はある。人間相手にはこれで十分だろう。
「ご、ゴーカイ様!? お、お前〜〜初心者冒険者だからといって調子に乗るなよ!」
取り巻きの一人が剣を引き抜いて、僕に攻撃する。音波障壁はまだ継続中なので当然……。
ガキン!! べキャ! ボキボキ!!!
「ウギャアアアアアア!!! 俺の腕と剣がアアアアア!?」
取り巻きの剣と腕もへし折れた。
「グギギギギ……!! ハズレ属性のくせして調子に乗りやがって!!」
最後の取り巻きは僕を見ながら悔しそうにそう言う。
「ゴーカイとやら、お前達の言い分は分かったが一連の行動や周囲の反応を見るに、とても信頼に値するとは思えない」
一連の流れを見ていた竜騎士が口を開く。腕をへし折られて痛がっていたゴーカイ達は、竜騎士の言葉を信じられそうな表情で聞いていた。
「それにジャイアントグリズリーを見て思ったが、体毛が中途半端に焼けた跡が幾つかある。これは中途半端な火属性で攻撃した跡だ。私の魔法ではこんな風に焼けない。当たった時点が消し炭だ。だからこれは私以外の誰かが攻撃した跡だ」
竜騎士の言葉にビクリとゴーカイの肩が震える。
そういえばゴーカイはさっき自分のことを火属性って言っていたな……。
「彼の属性は定かではないが、敵を焼くような属性ではないことは確かだ。ゴーカイ、お前の属性はなんだ?」
「……火属性だ。だ、だが! トレインにいたんだから攻撃されていたんだろ!? 俺を疑うのはおかしくないか!?」
ゴーカイの慌てようがおかしい。額に汗をかいて、痛みを忘れて必死な様子で弁明している。
「それはないな」
竜騎士はキッパリとゴーカイの言葉を否定し、冷静な口調で言葉を続ける。
「トレインは強い魔物から弱い魔物や冒険者が逃げることで発生する。今回の場合、ジャイアントグリズリーが強い魔物だ。だから、ジャイアントグリズリーはトレインの一番奥にいるはずなんだ」
トレインの発生は簡単に言うとこうだ。
強い魔物が怒る。
その後、強い魔物に怯えた弱い魔物達が強い魔物から逃げようとする。
それが連鎖して、長い列となる。
このことから、強い魔物は必然的にトレインの奥側となるのだ。
そして、青い火球による爆撃が行われた時、トレインの奥側はまだ大森林の中だった。
「私の火球は大森林までは攻撃していない。つまり、この焼けた跡は、トレインが発生する直前に着けられたものだ。これ以上の説明は必要か?」
竜騎士は僕の無実を証明して、さらにゴーカイ達の罪までさらけ出した。ゴーカイ達は何もいえず、ただ黙りこくっている。
「それに誰がトレインを発生させたのか調べればわかることだ。取り敢えず今は彼の無実だけを私が証明しておこう」
「ぐぬぬぬぬぬ!!! お、覚えておけよお前ら!! 必ず後悔させてやるからなー!!!」
ゴーカイは自分が不利だと悟ったのか逃げるように走り去っていく。その背中を取り巻き達は追いかける。
「いいんですか? その……僕の無実を証明するだけで……」
「ん? 状況証拠だけで罰を与えるわけにはいかないからな。証拠を集めるのは私の仕事ではなくてギルドの仕事だ。そうだろう?」
「はい。今回のトレインは総力を上げて調査させていただきます」
メガネをかけた長身の男性ギルド職員がそう言う。なんというか馬鹿真面目みたいな印象を受ける見た目と話し方だ。
「それとアイアンランク冒険者アルバス。君にはトレイン討伐の功労者として、シルバーランクへの二段階ランクアップと、ギルドより特別報酬を授与する。
詳しい話をするため、ギルドまで来てくれるだろうか?」
「え……僕がトレイン討伐の功労者……?」
待ってくれ、僕は大したことはしていない!
ただ試した魔法がうまくいっただけで、それを言うなら奮戦してくれた他の冒険者にこそ与えられるべきものだ。
「ぼ、僕はただ使ってみた魔法が偶々うまくいっただけで……僕よりも相応しい人は他にいると思います!」
僕がギルド職員にそう言って数秒間沈黙が流れる。
「それでも君は駆け出した。あのトレインの前まで勇敢に。そしてトレインを止めたのは君だ。君が受け取るべきものだ」
沈黙を破ったのは、さっき僕と一緒に戦った先輩冒険者だった。
先輩冒険者の声に続いて、周囲の冒険者達も僕へ声をかける。
「そうだそうだ! お前のガッツ良かったぜ!」
「とんでもない魔法が使えるんだ! アイアンランクなんてさっさと抜けちまえよ!! 強いやつは俺たちも大歓迎だ!」
「新人のうちは貰えるもん貰っとけ! どうせ損はしねえんだ!!」
周囲の冒険者達は僕のことを称賛していた。
昔、父からたくさん褒められたが、こんなに多くの人から褒められるのは初めての経験だ。
無能って呼ばれて追放されたせいだろうか。冒険者達の言葉が妙に心にしみるのだ。
「この声が君の評価だ。その評価は受け取ってもいいんじゃないか?」
竜騎士が僕にそう言う。その声はどこか優しげだ。
「わかりました!」
謙遜しすぎるのも良くないと思い、僕は素直に自分への評価を受け取ることにする。
「ギルドまで送ろう。この馬車に乗りたまえ」
僕はギルド職員に案内されて、馬車へと乗り込むのであった。
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