第4話 アルバス、音属性魔法で活躍する
音属性は無詠唱で魔法を使うことができる。
そのためにはあることを事前にしておかなければならない。
「【
心音詠唱。心臓の鼓動を魔法の詠唱として代替する魔法だ。
心音は生きている限り止まらない。僕は心臓が止まらない限り、魔法を無詠唱で発動できる。
「さて、次はなんの魔法を試そうか」
まだ試していない魔法がある。
次はどんな魔法を使おうかと考えている時だ。
「おいお前! 誰のナワバリだと知ってここで狩りをしていたんだ!?」
大柄な体格の男性冒険者と、その取り巻きであろう二人の男性冒険者が僕のところに近寄ってきた。
「え……? もしかしてここは誰かの所有地だったんですか?」
「オイオイ、ゴーカイ様。もしかしてこいつ新人なんじゃないですかい!?」
「剣も持ってなければ冒険者としての基本装備もないなんてガチの初心者じゃねえか!!」
「ということはあれだな! この業界のルールをしっかりと教えてやらないとな!!」
勝手に盛り上がらないで、質問に答えてよ……。
いや、この平原が誰かの所有地っていうのは聞いてないから、これはこの人たちがただ勝手に言っているだけなのか?
「よし、初心者。お前にはここでのルールを教えてやる。いいか、この平原とミスト大森林の浅地で狩りをする時は、この俺! ゴーカイ様に討伐した魔物の半分の魔石を渡すことになっているんだ!」
「ゴーカイ様はシルバーランクの冒険者! この道10年の大ベテランだ!!」
「おら、わかったら魔石を渡しな!!」
魔石というのは魔物を倒した時に現れるものだ。魔物は死んで少しすると、魔石を残して消滅する。
さっき倒したゴブリンも魔石を残して消滅していた。一体は魔石だけではなく、ゴブリンの特徴的な牙も落としている。
「俺はこの魔石とゴブリンの牙をいただく! お前はこっちの魔石だけだな!」
「ちょ……ちょっと待ってください!! おかしくないですか? 僕が倒した魔物なんですよ、貴方に渡す理由がありません!!」
流石に納得できない。
魔石と素材を一方的に横取りするなんて、冒険者になったばかりの僕でも間違っているとわかる。
「あーん!? お前、武器を持ってねえことは魔法メインだな? 女神の儀は終えているだろ、何属性だ?」
「ぞ、属性ですか? 音属性ですけど」
属性の話は今は関係ないはず。
なのになんでこの人はわざわざそんなことを聞いてくるのだろうか?
「ギャハハハ音属性!? 四大属性持ちなら見逃してやっても良かったが、そんな聞いたこともないハズレ属性の雑魚にはなおさら厳しく貰わないとなあ!!」
「そうだそうだ! ゴーカイ様は火属性の持ち主! 四大属性の持ち主なんだぞ!!」
「ゴーカイ様はお前みたいなハズレ属性の雑魚冒険者を守るためにここらを縄張りにしているんだ!! これはゴーカイ様への献上だ! 取り敢えず最初は全部もらっていくぞ!!」
「そ、そんな理不尽な……」
ゴーカイと取り巻きはゴブリンの魔石と素材を全部取ってしまう。
ゴーカイ達は冒険者として長いのか、武器や防具もしっかりしている。僕みたいな大した装備も持っていない初心者では太刀打ちできないだろう。
音属性魔法で抵抗したら、逆にやりすぎてしまうかもしれない。さっきのゴブリンみたいに殺してしまったら、冒険者を追放されてしまうだろう。
「じゃあな! 今度会った時はちゃんと俺たちに魔石を渡すんだぞ! よしお前ら、今日は森の浅地で狩りだ! いくぞ!!」
「へいゴーカイ様!」
「次会う時はちゃんと魔石用意しておくんだぞ!! じゃあな! ギャハハハ!!!」
ゴーカイ達は笑い声を上げながら大森林へと向かっていく。
「早々に変なのに絡まれたなあ……。気にせず、次の魔物を倒しに行こう」
横取りされたのは仕方ない。
それだけ多くの魔物を倒せばいい話だ。幸い、魔力は全然使っていなくて、体力の消耗も少ない。
僕は次の獲物を探して歩き出す。仕切り直して、いろんな魔法を試すとしよう。
***
「これで十体目!!」
ホワイトウルフという魔物を倒して、魔石を回収する。
色んな音属性魔法を試すことができたし、すぐに魔石はたくさん集まった。爪や牙みたいな副産物も多い。
「この辺の魔物は沢山倒しちゃったから、次を探すか……ん?」
次の魔物を探そうとした時だ。
僕は大森林から出てくる三人の冒険者を見かける。さっき、僕から魔石を横取りしたゴーカイ達だ。
「何か慌ててる?」
先頭を走るゴーカイの顔から焦りの表情が見える。
その直後だ。
「トレインだ!! 魔物が押し寄せてくるぞおおおお!!!!」
冒険者の叫びが響く。
その声が響いたと同時、大森林の中から大量の魔物が列を成して現れる。
「何!? 手が空いてる冒険者はすぐに迎え!」
「新人冒険者を下がらせろ! ギルドに連絡して、至急冒険者を寄越してくれ!」
トレイン。
何らかの原因でモンスターが列を成して現れる災害だ。ここでトレインをなんとかしないと、周囲の村や町に被害が出てしまう。
冒険者達はそれを知っているのか、大森林の入り口に集まり、トレインの対処に当たる。
『火よ起れ! 敵を焼き尽くす巨炎を起こせ! 巨炎弾!!』
『水風混ざりて敵を穿て! 激流槍!』
『土よ、敵を潰せ。岩石弾』
周囲の冒険者達が魔法を発動する。四大属性の魔法が一斉に魔物達へ降りかかるけど、大量にいる魔物の勢いは止まらない。
「あの規模の魔物の群れ……、あの魔法が使えるか」
このままでは近いうちに魔物達は拡散して、様々な方面に散らばって手がつけられないことになるだろう。
今は大森林の木々によって、魔物の進行ルートは阻まれている。だが平原に出てしまえば、魔物が様々な方向に散らばるだろう。
そうなってしまう前に、僕にでもできることをしなくては。
「
ドン! ドン!と重低音が二回響き、列からはみ出した魔物が吹き飛ぶ。
「
「分かりました!!」
僕の近くにいた先輩冒険者は風属性の魔法で列本体を攻撃しながら、列からはみ出した魔物を剣で倒す。
「ゴギャアアア!!!」
「
魔法の扱いに慣れてきたのか、衝撃音一回でゴブリン二、三体を巻き込んで倒すことが出来た。
「魔法名だけで魔法を!? 君は一体……」
「話は後です! 次が来ます!!」
ゴブリンやホワイトウルフが列から離れて押し寄せてくる。
「君の言う通りだ。『風よ起こり、弾と化せ。我が敵を撃て! 風魔弾!』君は武器を持っていない、俺の後ろで援護に徹してくれ」
先輩冒険者は素早いホワイトウルフを魔法で倒して、ゴブリンを剣で倒す。
魔法と剣技を組み合わせたお手本のような戦い方だ。僕も剣が使えたらこんな風に戦えるようになるのだろうか?
「クソッ! 勢いが衰えないな!!」
「はみ出た魔物を倒すだけでも精一杯ですっ!」
倒しても倒してもトレインが終わる気配がない。
列の勢いが衰えて、少しでも近づくことができれば試せる魔法があるのだが……。
「……いや、どうやら王都から本命が来たようだ」
「え?」
その瞬間だ。僕は全身で大量の魔力を感じる。
その直後、空から青色の火球が落ちてくる。一つ二つではない。十個以上だ。
青色の火球はトレインに着弾。その後に爆発を起こして、多くの魔物を跡形もなく消しとばす。
衰える様子がなかった勢いが、空から落ちてきた火球によって少し止まる。
「今なら……!!」
「お、おい!! どこにいくつもりだ!?」
さっき感じた魔力を今は感じない。トレインに大きなダメージを与えたが、完全ではなくまだ残っている。
トレインの勢いが止まった今がチャンスだ。このトレインをまとめて倒せる大規模な魔法。
僕はありったけの空気を吸い込む。トレインに近付き、魔物達の目の前で魔法名と共にそれを解き放つ。
「
ズガアアアアンン!!! という火薬が大爆発したみたいな轟音、そして巨大な衝撃波が起こる。
「ぐ、ギャアアア!!!?」
近くにいたゴブリンは轟音と衝撃波で吹き飛んで、空中で叫び声を上げながら爆散する。
そして音と振動は近くの魔物に伝播し、魔物達は次々と爆散していく。
「やった……!!」
僕は次々と爆散していく魔物達を見て、自分の勝利を確信する。
爆音波。僕が読んだ音属性の魔法書では最大の威力を誇る魔法として記載されていた。
爆発のような音を出して、強い音と振動を相手にぶつける魔法。衝撃音よりも範囲が広く、威力が高い。
この魔法の真骨頂は音が伝播すること。近くにいた敵に音が伝播し、音は伝播するたびに強くなっていく。
大量の魔物達のほとんどはこの魔法で吹き飛んだ。
「う、ウオオオオすげえぞあの冒険者! 残っていたトレインを一人でほとんど倒しやがった!!」
「おい、あいつが使った魔法を知っている奴はいるか!? あんな魔法見たことないぞ!?」
「それよりもあいつがパーティーに入ってるかどうかだ! 将来有望だ。絶対にパーティに入れたいぞ!!」
周囲の冒険者達から歓声が上がる。僕はそれを聞いてつい気を緩めてしまう。
まだ魔物が残っているのか確認しないまま。
「グオオオオオ!!!!」
傷だらけになった大熊の魔物が接近していたことを、僕は気がつかなかった。
ジャイアントグリズリー。体長が五メートル以上もある巨大な魔物だ。
こいつの恐ろしいところは巨大な身体からは想像もつかないほど素早いところ。
爆音波を耐え切って、気がつかれないように近付いたんだ!!
「目標確認。適性個体ジャイアントグリズリー。近辺に冒険者を確認。魔力の出力を制限、白兵戦闘にて仕留める」
僕が身の危険を感じたと同時、青色の炎を纏った何かが僕の前に降り立つ。
サファイアのような青色の髪。全身に纏っているのは青と銀の鎧。頭部は竜を模した意匠が凝らされている。
一瞬だけど聞こえた声からして女性だろうか? 僕よりも少し小柄だ。
腰にかけている四本の剣。そのうちの二本を引き抜き、十字に斬りつける。
「ぐ……オオ」
ジャイアントグリズリーが倒れる。僕の前に立っていた彼女がくるりと軽やかに振り向く。
「危機一髪。大丈夫?」
「え、まあ……はい。ありがとうございます」
先ほども聞いた鈴を鳴らしたような高く綺麗な声。
「そう、それは良かった」
甲冑で顔は見えなかったけど、声色は安堵しているものだった。恐らく表情も同じものなのだろう。
「おいあれって、竜騎士じゃないのか!?」
「竜騎士といえばブラックダイヤモンドの冒険者だろ!?」
「俺一回見てみたかったんだよな〜〜!! まさかこんなところで見られるなんて!!」
彼女を見たであろう冒険者達が歓声をあげる。彼女は困ったように肩をすくめた。
「こう言われるのもまだ慣れないな……。ギルドには私から報告しておく。彼の活躍も含めて!」
彼女の一声が冒険者達へと響く。冒険者達も納得したかのように見えたその時だ。
「おい待て!! 俺は知っているぞ!! こいつがトレインの元凶だ!!」
唾を飛ばしながら僕らの下に、ゴーカイがやってきた。
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