第3話 アルバス、音属性魔法を使う
『まず初めに、音属性がどのような属性なのか書き記しておく』
このような文章で本は始まっていた。
属性にはできることが決まっている。
火属性なら火を操る。
水属性なら水を操る。
属性を発現させることで、今まで出来なかったことを出来るようになるのだ。
音を操る属性は、主に風属性が挙げられる。
風流を操ることで音を発生させたり、音を広げたり、少しレベルが上がると特定の人物だけに音を届けることも出来る。
風属性はそれでいて、普通に風を操ることも出来る。
だから音属性は風属性の劣化ではないのかと、女神の儀を見ていた人は言っていた。僕も概ね同じ考えだ。
しかし、その認識を僕はこの魔法書によってあっさりと否定される。
『音属性は風属性よりもさらに音と、それを発生させる振動を操ることに特化させた属性だ。そして、音属性には他の属性では決して出来ないことが出来る』
音と振動。それを特化させたのが音属性。
他の属性には出来なくて、音属性だけが出来ること。僕はそれを知りたくて読み進める。
『音属性は魔法において絶対不可欠な魔法の詠唱。これを完全に破棄し、無詠唱で魔法を扱うことができる』
「……え?」
本に書かれていたことは衝撃的な内容だった。
詠唱の完全破棄。無詠唱での魔法行使。
それはありとあらゆる魔法使いが長年の課題として取り組んできた物だ。
魔法を使う際、絶対に詠唱は必要となる。基本的には、詠唱と魔法名を発声して、初めて魔法が使えるのだ。
この詠唱をどうにか無くせないかと研究がされるも、短くはできるけど無くすことはできないというのが今の結論。
音属性はそんな不可能を可能に出来ると、この本には書いてある。
「これが本当なら……。試してみる価値はありそうだ」
僕は音属性の魔法書を読み進めていく。
無詠唱の原理。
音属性の魔法。
一通り目を通して終わる頃、夜は更けてすっかりと日は落ちていた。
「早く……早く試してみたい!! この魔法を!!」
音属性の魔法には戦闘向きのものから、探索向きのものまで数多く揃っていた。
音と振動を操るというのは意外にやれることが多い。それに無詠唱の魔法が本当に使えるなら、これは大きな武器になるだろう。
「魔法を試すか……。王都の魔法学園に入る? いやいや、ハズレ属性って笑われるのがオチだ」
魔法を試したくてうずうずしているけど、街中で使うわけにはいかない。
魔法学園や魔法師団みたいな魔法を使う組織に所属することも考えたけど、ああいうのは四大属性至上主義。僕みたいなハズレ属性が入れるような場所ではない。門前払いが関の山だ。
自由気ままに魔法を試すとなると、選択肢は自ずと限られていく。
「冒険者……なってみるか」
冒険者になって魔物相手に魔法を試す。これが一番手っ取り早い。
無論、魔物が相手だから失敗したら大怪我どころじゃ済まないだろう。けれど僕には無属性の魔法と、父が自慢するだけの大量の魔力がある。最低限の自衛はできるはずだ。
「よし! 明日、冒険者登録して魔物を倒しに行こう!!」
僕は明日に備えて、使えそうな音属性魔法を探すのであった。
***
「準備は出来た! よし行くぞ!!」
翌朝、僕は音属性魔法をもう一度頭にしっかりと叩き込む。
攻撃系の魔法、防御系の魔法、索敵系の魔法を何個か。しっかりと魔法名を覚えておく。
僕は冒険者ギルドへ向けて出発する。僕が泊まったのは大図書館がある王都北区。冒険者ギルドは少し南下した王都中央区に存在している。
中央区は朝早くなのに多くの人で賑わっていた。特に冒険者ギルドの前は、冒険者たちで一杯だ。
僕は冒険者たちの列に並んで、自分の番が来るのを待つ。
「お待たせしました。次の方どうぞ」
「はい! 冒険者登録に来ました!!」
待つこと十分程度。僕の番が回ってきて受付嬢の前に行く。
「冒険者登録ですね。ではこちらの用紙に必要項目を書いてください。文字の読み書きはできますか? 代筆も可能ですが」
「大丈夫です。読み書きはできますよ」
名前、年齢、性別、希望する職種……魔法使いだろうか? 魔法が使えるかと属性……これは使えるで音属性だ。
パーティの募集……取り敢えずはソロでの活動でいいからこれはなし。
あ、名前にグレイフィールドって入れると、後々面倒なことになりそうだから、これはアルバスとだけ書いておく。
「できました。これでよろしくお願いします」
「分かりました。最初はアイアンランクから始めてもらいます。ランク制度について説明しますね」
冒険者にはランクが存在している。一番下がアイアン、そこからブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンド、そしてブラックダイヤモンド。
ランクは依頼の達成率や魔物の討伐数などの実績を考慮した上で、冒険者ギルドの面接を経て上がっていくという仕組みだ。
「早速、何か依頼を受けていきますか?」
「お願いします!! 出来れば魔物と戦えるやつ!!」
「魔物と戦えるやつでしたら、これはどうでしょうか?」
受付嬢が提案してきたのは王都の近くにあるミスト大森林近辺での魔物退治だ。
「大森林内ではなく、近くの平原にいる魔物を倒してきてください。くれぐれも大森林の中には入らないように! 近辺に多くの冒険者、ギルド職員がいますので、何か困ったことがあれば気軽にお声がけかけくださいね」
「はい、分かりました。大森林までは何で?」
「馬車に乗ってもらいます。馬車の停車場へとどうぞ」
僕は受付嬢の言う通り、冒険者ギルドにある馬車に乗り込んでミスト大森林へと向かう。
どうやらこの依頼は王国が発行しているもののようだ。
ミスト大森林は奥地に行くほど危険と言われているが、大森林近辺には弱い魔物しかいない。奥地に強い魔物がいるのが原因なのだとか。
「何かあったらすぐに報告するように。帰還の時は近くのギルド職員に声をかけてくれ」
「分かりました。ここまでありがとうございます!」
馬車の運転手に礼を言って、僕はミスト大森林近辺の平原を歩く。
天気も良く、開けているため見通しがいい。
魔法を使わずとも周囲の状況がある程度確認できるが、もっと詳しく把握したいため、早速僕は音属性魔法を使う。
「【
魔法名を発して、魔法を発動する。
魔力が音に変換されて、周囲に響く。この音は音属性魔法を使える者にしか聞こえない特殊な音だ。
周囲に広がった音は何かにぶつかると反射して、僕のところに戻ってくる。戻ってきた音は僕の中に魔力として取り込まれ、何にぶつかったのかなどの情報になるのだ。
本来は洞窟内などの複雑な地形で使う魔法。けれど開けたところでも十分に効果はある。索敵範囲三キロ。僕はその中にあるものを全て把握できた。
「二百メートル先に魔物が二体。これなら狩れそうだね」
僕は索敵音で見つけた魔物に向けて歩き出す。
索敵音の情報通り、二百メートル先に魔物が二体いた。緑色の肌、身長一メートルもない小柄な身体、手には棍棒、腰にはボロボロの布巻き、爬虫類に似た顔の魔物。ゴブリンだ。
「初めてみたゴブリン。よ、よーし、次は攻撃魔法だ」
ゴブリンは地面に落ちている鞄か何かを漁るのに必死でこちらに気がついていない。
僕は手を突き出して、ゴブリンの一体に向ける。アイザックに受けた風魔弾を思い出して、僕は魔法名を唱える。
「【
「ゴギャ!?」
それがゴブリンの最後の声だった。
——ゴオオオオォォン!!! という巨大な音が響く。
その直後ゴブリンは身体がくの字に折れ曲がる。即死だ。
鐘みたいな大きな重低音を近くで聞くと身体が震える感じがする——それを攻撃に転化させたのがこの衝撃音だ。
要するにめちゃめちゃデカい音を衝撃波として放つ魔法だ。ただの衝撃波と違うのは音が内部まで響いて、外だけではなく、内部も破壊するというところ。
「グギャアアア!!!」
仲間が死んだのを間近でみたゴブリンが、咆哮を上げながら突貫してくる。
落ち着け。ゴブリンにビビらず、引きつけてから次の魔法を使うんだ。
「【
次はキィィィィンン!! という甲高い音。
それが響くと同時、ゴブリンはぴたりと足を止めた。
「……ゴ、ゴ?」
何が起きたか分からないみたいな声を出した後、ゴブリンはあらゆるところから血を噴き出して地面に倒れる。ゴブリンの血って緑色なんだ……。
超音波は対象を内側から破壊する魔法。索敵音と似ていて、魔力を音に変換して、敵に取り込ませる。
その後、相手の内部で超振動を起こして内側から敵を破壊するという結構エゲツない魔法だ。
「これは人間相手には使えないね。威力の加減も効かなさそうだし……」
血液とか内臓とか脳みそが超早くシェイクされるといえば凶悪性が分かるだろうか。
こんなもの人間に打ったら即死だ。これはなるべく使わないようにしよう。
「それにしても上手くいって良かった〜〜!! 無詠唱もちゃんと機能しているね!!」
僕はポンポンと心臓を叩く。
そう、音属性魔法が無詠唱で、魔法名を唱えるだけで魔法を使えるのは心臓に秘密があるのだ。
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