第2話 アルバス、音属性の魔法書を探す

「これからどうしよう」


 僕はトボトボと歩く。


 屋敷を出ていく際、持ち出したのは数日分の生活費と魔法全書と呼ばれる沢山の魔法が書かれた魔法書、それとマジックバックという鞄型の魔道具だけだ。


「前向きに考えれば家に縛られて生きる必要はないっていうことだよね……よしっ!」


 いつまでもクヨクヨしていても仕方ない。


 これからは己の身一つで生計を立てていかないといけないのだ。


 魔法の名家出身だから、無属性の基本的な魔法は一通り使える。


 無属性とはいえ魔法が使えるということは文字の読み書きができて、魔力を持っていることの裏付けだ。


 そもそも魔力を持ってなかったり、読み書きが出来なくて魔法が使えない人だっているから、探せば仕事の一つや二つ見つけることはできるはずだ。


「先ずは王都に行こう。魔法大図書館なら音属性の魔法書もあるかもしれないし」


 音属性は四大属性以外の属性でも、滅多にいないのか魔法全書にもその記述はなかった。


 だが、王都にある魔法大図書館ならもしかしたら音属性の魔法書の一つや二つあるかもしれない。


 音属性がどんな魔法なのか分からないが、使えるようになればこの先、何かの役に立つだろう。


 僕はそんな期待を胸に王都へ向かう馬車を探す。


「すみません! 王都までの馬車ってまだ出ていますか?」


「今日は王都行きのお客さんが多いね。まだ馬車はあるよ」


 今日は王都行きのお客さんが多い?


 女神の儀が終わって王都で冒険者とか魔法騎士の試験を受けるためだろうか?


 でも女神の儀があって早々に旅立つ人なんているんだろうか……?


「じゃあお願いします。あと一つ聞きたいんですが、今日お客さんが多いって……」


「あいよ。ああ、出発まで時間あるから話してあげるよ。昨晩から王女様の声が出なくなったらしくてね、国王が王女様の声を取り戻した者には至上の褒美を与えると言って、我こそはっていう人たちが一斉に王都へ向かったんだ」


 王女様の声が出なくなったというのは一大事だ。


 この世界で声が出ないというのはかなりの痛手である。何故なら、声がなければ魔法を使うことが出来ないから。


 王族や貴族は魔法が使えて当たり前。魔法を使い、人々の生活を豊かにしたり、他国や魔物と戦うのが王族、貴族の役目だ。


 そんな役目を全うしなくてはならない王族が、魔法を使えないなんてあり得ない。だから国王は何が何でも王女の声を取り戻させたいのだろう。


 最も人を治療したりするのは、四大属性の中でも生命に密接に繋がる水や土の専門。それ以外なら人を癒すことが得意で、四大属性に続いて魔法の数が多い光属性だろう。


 音属性の僕に出る幕なんてない。


「もしかして君も王女の治療かい?」


「いや、僕は別件です。僕の属性じゃ、助けになることなんて無さそうなので」


「そうかい。さ、馬車の準備が出来たよ。乗っておいで」


 僕は馬車へと乗り込む。


 僕が住んでいるグレイフィールド領から王都までは馬車で二時間程度だ。


 道中、僕は魔法全書を読んだり、小窓から外を眺めていた。荷車ではなく、人を乗せた馬車がやたらと多い。


「これ全部王女様の治療目的なのかなあ」


 王女様をこの目で見たことは一度もない。曰く、天使のように美しい美少女なのだとか。そんな女の子を治療すれば、沢山感謝してくれるだろう。


 国王様が至上の褒美を与えるとか言っている以上、可愛い女の子から感謝されて褒美ももらえるなんて一石二鳥だ。


「僕には関係ないか」


 そんなことを考えていると王都に到着する。


 王都は賑わっており、王女様の治療に名乗りを上げた人たちが多い。


「長年研究してきた水属性魔法を使ったポーションならば、王女様の治療ができるはずだ!」

「ふん! 水属性がなんだ! 生命とより密接に繋がっているのは土属性! 大地の生命を他人の治癒力に変換するこの魔法こそ王女様の治療相応しい!」

「馬鹿ね。全然分かっていない。神の力である光属性こそ、王女様の治療に最も相応しいと言えるわ」


 道ゆく人たちはみんな、土や水、光の属性を持っていて、それ以外に屈強な冒険者たちが冒険で拾ってきたポーションや魔道具などを持って王城に向かっている。


 僕はそんな彼らを横目に見ながら、王城ではなく大図書館へと向かう。


「回復魔法に関する書物はあるのか!?」

「声! 喉に効くようなポーションが作れる本を!!」

「精神的な問題もあるかも知れない! 精神系の魔法はどの属性の分野なのだ!?」


「ここもか……」


 大図書館の現状を見て僕はため息をつく。


 ここも王女様の治療のために、多くの人が血眼で書物を漁っていた。そのせいで静かなイメージの大図書館も、今日は騒がしい。


 受付にも人がごった返している。とてもじゃないけど、音属性の魔法書がどこにあるのか聞けるような雰囲気ではなさそうだ。


 数千万とある書物の中から探さないといけない。これはかなり骨が折れそうだ。


 といっても大図書館はジャンル別に書物が保管されているため少しは探しやすいだろう。


 僕は魔法書がある区画に行く。


「魔法書だけでもこんなに……!!」


 魔法書の区画に着いた時、僕はついつい声を出してしまう。魔法書だけでも一千万以上の書物が保管されており、魔法人形ゴーレムが管理作業を行なっていた。


 当然ここにも人は沢山いて、検索機能を持つ魔法人形の前は人が多い。検索機能に頼ることは出来なさそうだから、やっぱり自力で探すしかなさそうだ。


「四大属性の魔法書が多いけど、それ以外も中々多いんだな」


 四大属性以外の属性は沢山存在している。ハズレ属性って言われることもあるけど、それは単体で発現した場合の話。


 四大属性のどれかとそれ以外の属性ならば、組み合わせによっては四大属性複数持ちよりも大成することだってあるのだ。


 よって先人たちが残した四大属性以外の、魔法書の種類は僕らが想像するよりも多い。数多ある属性の中でも光と闇は四大属性に続いて多い。雷や氷、変わり種で言えば毒や金属みたいなものもある。


 でも音属性に関する書物は探しても見つからない。


「音属性ってそんなに発現した人がいなかったのか……」


 女神の儀でみんなが見せた反応通り、音属性を発現させた魔法使いはごくわずかなのだろう。


 全員が全員音属性の研究をするわけではないし、それを魔法書として後世に残そうとする人はさらに少ない。


 でも諦めるわけにはいかず、根気よく魔法書を探している時だ。


「クソッ! 回復系魔法なんか載ってねえじゃねえか!!」


 近くで魔法書を読んでいた人が乱雑に本を床に投げ捨てて去っていった。


 マナーがなっていない人だと思いながら見てると、意外と床に本が散らばってたり、山積みにされたまま放置されている。


「ああそうか、ゴーレムが別のことで忙しいから」


 王女様の治療の手がかりになりそうな魔法書を探しにきた人が、魔法書を元の位置に戻さず、床に置いたりするせいで散らかっているのだ。


 本来片付けるゴーレムも客たちの対応で片付けができていない。


「自分で出したんだから自分で片付ければいいものを!」


 流石にこの状態を見ていられなくて、僕は床に散らばった本を片付ける。


「ほとんどが四大属性の魔法書……。やっぱり王女様の治療目的なんだ」


 散らばった本を本棚に戻していく。幸い、四大属性の本が殆どだから、片付けはスムーズに進んだ。


 あらかた片付けて、床に散らばった本が少なくなる。残ったのはマイナーな属性の魔法書ばかり。僕はそのうちの一冊に手を伸ばす。


「音属性の魔法の全てか……。音属性ってどこら辺に……って音属性!?」


 驚きのあまり、僕は本を二度見する。

 

 それは確かに僕が探し求めていた音属性の魔法書だった。僕は慌てて魔法書を開く。


「す、すごい! 沢山音属性の魔法が載っている!!」


 その本は僕にとって宝の山だった。


 音属性の魔法がこれでもかと書かれた本。これを読むだけで丸一日潰せそうだ。


 長い時間粘って、魔法書が見つかって本当によかった。


「す、すみません! この本を借りれないでしょうか!?」


「あーこれは貸出不能図書になりますので、原本のコピーしか出来ませんね」


「じゃ、じゃあコピーで!! 全ページ!!」


 受付嬢は僕の様子をみてなのか、戸惑った表情で原本のコピーを作る。


 音属性の魔法書、そのコピーを手に入れた僕は読み漁るためにも近くの宿場に向かい、部屋を借りる。


 部屋の中で僕は音属性の魔法書、そのコピーをマジマジと見つめる。


「手に入った……!! 音属性の魔法書! これで音属性魔法を取得すれば!!」


 何かの役に立つかも知れない。僕は胸の中で期待を膨らませて、紐で綴じられたコピーを開くのであった。

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