第6話 ザカリー、魔力装置が止まり執事から退職届を出される

 アルバスがトレインを解決させた頃。グレイフィールド家では。


「なんだと!? 魔力装置が止まっただと!!?」


「は、はい。今朝から魔力装置の魔力が足りなくて……」


 ザカリーの執務室に怒声が響く。父のザカリーは今にも怒り狂いそうな雰囲気であった。


 そんなザカリーに老齢な執事はビクリと肩を震わせる。


「魔力を注げる人間はいないのか!? そもそもどうして急に止まったんだ……!!」


「そ、それが我々使用人には魔力を持つ者も少なく……。以前まではアルバス様がお一人で魔力を注いでおりました」


「アルバスだと……!?」


 自分が追放した無能な息子の名前を聞いて、ザカリーはさらに怒りを表情ににじませる。


「私の前であの無能の名前を出すな!! ええい!! 誰でもいい魔力量が多い魔法使いは雇えないのか!?」


「そ、それが。グレイフィールド家はなんとか赤字にならない程度に回すのがやっとで……。魔力量が多い魔法使いを雇う余裕なんてグレイフィールド家にはありません!」


「なんだとお……!?」


 アルバスみたいに大量の魔力を持って生まれる人間は、貴族の中でも稀だ。


 大量の魔力を持った魔法使いは貴重な人材であり、何かしらの組織に属していることが多い。まず見つけてくるのも困難だし、雇うとしたら莫大な金が必要となる。


「魔力装置が動かなければ、ライフラインを確保できません! 何とかしてアルバス様を呼び戻すことは……」


「そんなことできるか!! あいつは俺の顔に泥を塗ったんだぞ! お前にわかるのか!? パーティーに出る度、他の貴族どもから嫌味を言われる俺の気持ちが!!」


 ザカリーは昨夜にあったパーティーを思い出す。


 魔法使いの名家で名が通っているグレイフィールド家。魔法使いの貴族にはライバルが多い。常に嫌味や蹴落とし合いなどが繰り広げられるのが、貴族の世界だ。


 期待し、自慢していたアルバスがハズレ属性を発現させた。たったそれだけのことで、他の貴族達はここぞとばかりにザカリーに嫌味を言う。


 それはザカリーにとって耐え難い屈辱だったのだ。


「いいか、今の俺の体裁はな、期待していた優秀な息子でさえも不要とあらば切り捨てることができるという魔法使いらしい合理的な思考と行動ができることで保っているんだ!

 それなのにアルバスを呼び戻す? それこそ貴族共に何を言われるのかわかったものではない! 私のプライドのためにも、あいつを呼び戻すことなんて絶対にやらないからな!!」


 ザカリーにとって一番大切なのは自分のプライドだ。


 追放した息子が、実は家のために必要不可欠な存在だった。だから呼び戻す。そんなことをした日には、ザカリーのプライドはズタボロだ。


 だからザカリーは決してそんなことはしない。


「ええい、二人、三人でもいい! 取り敢えず魔法使いを雇え! それまではお前達使用人が死ぬ気で魔力を注げ!! 分かったか!?」


 そう威圧的にザカリーが口にした瞬間だった。執事は胸ポケットから何かを取り出し、そっとザカリーの前に置く。


「なんだこれは……退職願だと!?」


「はい。今は亡き奥方様に拾われてから、この家のために尽くしてきましたが、ザカリー様のやり方にはついていけませぬ。今日をもって私は退職させていただきます」


 執事はそう言って、スタスタと執務室を出て行く。


 ザカリーは突然起きた出来事に歯を食いしばりつつ、拳をわなわなと震わせている。


「ええい!! 出ていきたいやつは出て行くといい!! 無能はこの家には不要だー!!!」


 ザカリーの怒声がグレイフィールド家の屋敷に響くのであった。

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