王太子視点 その後 2

アルフレッドが有名になった事で、アルフレッドは自分の血筋を知った。国に帰って来ないかと誘われたアルフレッドは堂々と母の母国に乗り込み、自分の血筋を公表し、たくさんのステージをこなし、大量の取引を纏めて帰って来た。


血筋をアルフレッド自らステージで公表し、国に残ると宣言する事であちらの出鼻を挫いた。散々私を褒め称え、兄の為に国に尽くしたいと涙ながらに訴えたらしい。


私は世界一寛大で素晴らしい為政者として各国の新聞の紙面を飾った。私の事を心から尊敬しているアルフレッドは、今後も国の為に歌い続ける。と締められていた。


これはもう、あちらの調査不足としか言えない。よりによってあのアルフレッドに、アマンダを捨てて帰って来いと誘うなんて馬鹿だとしか言えん。


私の前で取り繕う事をやめた弟は、乱暴な口調で母の母国を非難した。


「あの国に行ったら歌うことは禁じられるって匂わせといた。ま、嘘だけどな」


「そんな嘘を吐いて大丈夫なのか?」


「大丈夫、ハッキリ言ってねぇし。俺はただ兄上が寛大だから歌う事を許して貰えてるって言っただけ。普通なら王族がこんな風に歌うなんて許されねぇ、兄上に感謝してるって言いふらしただけだ」


「そのあとに自分の血筋を公表したら、誤解を招くだろうに」


「嘘は言ってねぇぜ」


「まるで私の弟だから特例で歌えていると言ってるみたいではないか」


「そう思って貰えるようにしたんだよ。俺だって自分の歌がどれだけの人を魅了してるかは分かってる。俺の歌が聞けないって事になりゃそこそこ反感は買うだろ。俺のファンには、王侯貴族も多いんだしさ。少しだけ植え付けられた拒絶反応は、後々効いてくると思わねぇ? 堂々と政治に介入する訳にいかねぇし、結構上手くやったろ」


「上手くやり過ぎだ。下手したら恨まれて命を狙われるかもしれんぞ」


「表向きは穏やかに過ごしたんだから大丈夫だろ。俺が死んだら疑われて自分達が損する事も分かってるから手は出して来ねえよ。本当はもっと色々やろうと思ったんだけど、アマンダが止めるからこれくらいにしておいた」


アマンダ、よくやった!

アルフレッドはアマンダに関する事は容赦しない。アマンダを蔑ろにされたと怒っていたからこの程度で済んだのなら僥倖だ。正直、満面の笑みでアルフレッドが出かけて行った時はどうなる事かと胃を痛めていたからな。


褒美にアルフレッドの衣装を作ってやろう。私が出来るアマンダが最も喜ぶ褒美だ。アマンダのドレスやアクセサリーは全てアルフレッドが手配しているから、私が王であっても手を出せん。


アルフレッドの言う通り、いかに大国でも数多くの国の反感を買うリスクは負わないだろう。特にキャサリン女王はアルフレッドの大ファンだ。あの国の密偵は恐ろしい。アルフレッドが死んだら死因を調査して、もし暗殺だった場合は世界中に公表するくらいはするだろう。


それは、強力な抑止力となりうる。アルフレッドを害しても損しかない。それなら血筋を盾にたまにアルフレッドを呼んで歌ってもらう方が得だ。


アルフレッドは、母の故郷でまた歌いたいと言い残して帰って来たらしい。抜かりがない事だ。


「絹織物は衣装で使ったから宣伝しておいた。木材も質が良いものが取れるようになったから、ステージで使ったぜ。他にも色々、売れそうなモンは営業しておいた。アマンダが頑張ったんだぜ」


「いきなりあちこちから取引が増えたのはアルフレッドのおかげか」


「営業を頑張ってたのはアマンダだから後で褒めてやってくれ。それより兄上、このリストにあるやつらを調べてくれ。特に一番上の女! 香水臭え香りを漂わせて今日のステージに上がって来たんだ。俺に抱きつこうとして、避けたらキレてアマンダに唾をかけやがった。すぐ兄貴が追い出してくれたけど、絶対許さねぇ。名前は分からなかったんだけど、絵が上手いスタッフが似顔絵を残してくれたんだ。多分偉いヤツだと思うんだけど……悪い、俺は知らなくて」


「これは、例の国の公爵令嬢だ。他も取り巻きだな。一度だけパーティーで会った事がある」


「またあの国かよ。なぁ兄上、もう潰そうぜ」


「物騒な事を言うな。国がなくなれば戦争になる可能性もある。アマンダが怖い思いをするかもしれんぞ」


「それはダメだな。あーくっそ、なんで俺はこんなめんどくせぇ血を引いてんだよ! どうでも良いだろ血筋なんてよぉ!」


私が羨ましいと思ってしまった血筋を、あっさり面倒だと切り捨てるアルフレッド。


「なぁ、アルフレッドの大事なものはなんだ?」


「アマンダに決まってるだろ。あとはやっぱ歌だな。……最近はまぁ、兄上達も大事だぜ。俺が自由に歌えるのは、偉大なる国王陛下のおかげだしな」


「勝手に私を偉大な王にするのはやめろ。私は即位したばかりの未熟な王なんだぞ」


「そう言ってるから、兄上は信用出来るんだよ。我は偉大な王なり! なーんて言ってるのは無能の証だ。王は世界一過酷な職業なんだから、助けは多い方が良いだろ。俺の歌は、兄上の助けにならねぇか?」


「なってるよ。アルフレッドには感謝してる。私だってアルフレッドの歌が好きなんだ。だから、今後も自由に歌ってくれ」


「へぇ、そんな事言うの初めてだな。なら、これからもしっかり歌わせてもらうぜ」


くしゃりと笑う弟は、ステージの上では見せない無邪気な笑みを浮かべていた。

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