第20話

わたくしは、予定通りアル様と結婚した。

お城の小さな離宮で暮らしている。小さいと言っても、前世基準では大豪邸だ。


国王陛下も、王太子殿下ももっと大きな離宮を建てると言ってくれたが固辞した。その分のお金を、民の救済に回して貰った。


台風で川が氾濫して、100件ほどの家が流されたのだ。幸い死者はいなかったが、家の建て直しには莫大なお金がかかる。


国からもお金を出したが、足りない。だから離宮の為のお金を半分回して貰った。それでも少し足りない。


これは、チャンスだ。

わたくしは一計を案じた。


「アマンダ、今日は新曲をやるよ」


まだ建設中の離宮には、小さなステージを作って貰っている。表向きはわたくしやアル様が楽器を演奏する為。本当はアル様がアイドルのステージをする為。


ステージだけは出来ているから、今日はふたりきりのライブ。アル様はそう思っている。


いつものようにアル様が歌い、踊る。演奏が終わると、ステージには多くの人が詰めかけていた。


「アルフレッド!! 素敵だったわ!」


先日から滞在しておられるキャサリン王女は、ご結婚なさって幸せそうだ。久しぶりにお会いした時に、色々話を聞いた。王女は実は我が国の言葉をあまりご存じなかったそうだ。アル様がずっと付き添っていたのは、こっそり通訳をする為。アル様は、キャサリン王女と伴侶のクリス様の仲が認められる為に協力していた。


え、アル様相変わらずめちゃくちゃ優しくない? うちの旦那様、最高かよ。


王女はアル様に恩を感じている。だからちょっと、協力して貰う。


「アルフレッド……こんなに歌が上手いとはな……これは確かに……良いかもしれん」


王太子殿下が、アル様の歌に感動しておられる。王太子殿下は良くも悪くも保守的で、王族が歌や踊りをするなんて簡単には認めてくれない。


だから少しずつ意識を変えて貰った。


まず、アル様の曲をオルゴールにして流通させた。アル様とお兄様がやっているお店で売ったら、大人気になった。もちろん、アル様の許可は取った。自分の曲が流行るのは嬉しいと仰っていたから、やっぱりアル様はユナ様で、アイドルなんだと思った。


オルゴールが王都の外でも流行り始めた。


これで、第一段階は完了だ。


「凄いでしょう! わたくしがこのオルゴールが好きだと言ったら、アル様が歌を付けて下さったんですの」


「アルフレッド……確かにお前は音楽の才があったものな。きちんと教師を付けてやれば、もっと伸びたかも知れぬのに……すまなかった……」


罪悪感いっぱいの国王陛下の説得は簡単でしたわ。アル様の歌を広めたい、そう思った時に最初に味方になってくれたのは家族と、新しい家族になった国王陛下でした。


「お父様、きっとアル様は音楽の神の申し子ですわ」


「その通りです……こんな……こんな素晴らしい歌……初めて聴きました……!」


感動のあまり涙を流しているのは、音楽神の神殿の神官長様。今回のキーパーソンだ。


実は、台風で壊れたのは個人の家だけではない。いくつかの神殿も被害にあった。この世界、いろんな神様がいて信仰心が高い人も多い。


わたくしは王族になってから、神殿に寄進したりボランティアに行ったりして関係を築いてきた。贔屓にならないように平等に行ってきたが……音楽神の神殿ではアル様の曲のオルゴールを寄付しておいた。音楽神を信仰してるだけあり、オルゴールはアッという間に国中の神殿に回った。


これで、第二段階がクリア。


このまま神官長にアル様の歌を聴かせようと思っていたら、災害が起きてそれどころではなくなった。作ろうとしていた離宮の予算を削り、離宮を作る予定だった職人を復興の為に派遣した。


そして閃いたのだ。


王族が派手な歌やダンスをするのは駄目。けど、民の為なら?


神官長は喜んで受け入れてくれた。国王陛下の許可も取れた。


あとは、王太子殿下。すっかり仲良くなった王太子妃様も巻き込んで、一度で良い、アル様の歌を聞いてくれと頼んだ。


歌い手でもないのに、人々を慰めるなんて出来る訳ない。そう言って頑なだった王太子殿下も、妻に説得されて一度だけアル様の歌を聴くと約束してくれた。


歌を聞いて貰えさえすればこちらの勝ちだ。アル様の歌はみんなを元気にする。


王太子殿下のように保守的な人への対策も完璧だ。聞いた事のない曲はなかなか受け入れられない。だから、オルゴールにして曲を流行らせた。


こうすれば、前世で言うところクラシックを少しアレンジしたもの。くらいの扱いになる。


「王太子殿下! アル様は民の為に歌おうとなさっておられます。どうか、お願いします」


「アルフレッド、お前の歌は民を元気にする。もし良ければ、演奏会をしてみないか? 収益を被害者の為に使うというアマンダの案も悪くない」


「アマンダ……いつの間に……そんな案を……」


「アル様の歌は、もっともっとたくさんの人々に届けるべきですわ。わたくしだけで独り占めするなんて勿体ないです」


「そうですぞ! こんな、こんな素晴らしい歌……初めて聴きました!! 踊りも芸術です! アルフレッド殿下、どうか! どうかもう一度お聞かせ下さい!!!」


あ、予想以上に神官長様の心にクリティカルヒットしちゃったみたい。むぅ、なんだか悔しい。


「神官長様。アル様のファン第一号はわたくしです。誰にも譲りませんわよ。でも、ファンが増えるのは大歓迎です。アル様の魅力を国中……いえ、世界中にお届けしますわ!」


見た事のない歌を歌い、見た事のないダンスを踊る王子がいる。彼は家の無くなった民の為、一度限りの演奏会を行った。そのあまりの素晴らしさに民は魅了され、再び聴きたいと王に嘆願した。


優しい王子は民の為に歌い、踊った。


得られた利益は全て貧しい者達の為に使われ、彼を目指して歌や踊りの研究をする若者が増えた。王子の国は音楽の都となり、新たな文化の発信基地となった。


王子は王弟になってからも定期的に歌や踊りを民に魅せてくれる。チケットは争奪戦で、貴族であっても簡単に手に入らない。


伝説と呼ばれる王弟の演奏会は、指定席が存在する。彼が溺愛している妻の為の席だ。彼女は誰よりも嬉しそうに、幸せそうに演奏会を鑑賞している。

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