第16話
幸せなレベッカ様の結婚式から、1ヶ月が過ぎた。
あれから相変わらずアル様には会えていない。それどころか、アル様は予定より早く帰る事になったキャサリン王女の付き添いで隣国に行ってしまわれた。
まだ婚約解消の申し出はない。でも、覚悟は決めておくべきだろう。
刺繍したハンカチも渡せないままだ。別れるかもしれないわたくしからのハンカチなんて、邪魔になるかもしれないもの。
レベッカ様は、新婚旅行中だ。戻って来たら会おうと手紙が来た。今後は堂々と手紙のやり取りをして良いそうだ。それは嬉しいけど、やっぱり気分が晴れない。
そんな折、わたくしを訪ねて来たのはマリオン殿下だった。家族はみんな外出中。わたくしに用があると言われたら断る術はない。
「アマンダ、僕と結婚してよ」
ストレートな求婚ですね。
なんて素敵なんでしょう。
って、んな訳あるか!
舐めんな!
確かにわたくしはアル様に振られるかもしれないけど、アル様がわたくしとの婚約解消を望む事はあっても逆はない!
マリオン殿下がこんな事言ってくるって事は、アル様とキャサリン王女の婚約は既定路線なのだろう。ここでマリオン殿下の求婚を受ければ、わたくしへのダメージは最小限。でも知らん!
わたくしが信じるのはアル様の言葉だけ!
「わたくしは、アルフレッド殿下の婚約者です」
「婚約者を放っておく男なんてやめて、僕にしときなよ」
「マリオン殿下なら、婚約者になりたいと望む令嬢はたくさんいらっしゃるでしょう?」
「そりゃあね。けど、アマンダ以上に条件の良い令嬢は居ない」
「条件……ですか?」
「まず、筆頭公爵家で年が近く、賢く美しい。君以上に適任な女性は居ないよ。アマンダと婚約すれば、王位に手が届く」
「わたくしは妃教育を僅か半年しか受けておりません。王妃になんて、なれませんわ」
「やっぱりアイツは教えなかったんだね。妃教育をしなかったんじゃない。必要なかったんだよ」
「必要なかった?」
「そ、最近ようやく判明したんだけど、アマンダは妃教育どころか王妃教育の基礎も出来てるんだ。王家だけにしか教えられない事柄もあるけどそれは基礎が出来てればすぐ覚えられる。だってアマンダ、何カ国語喋れる?」
「……」
「黙って誤魔化しても駄目だからね。隣国の言葉は全て通訳無しで話せる事は調査済みだよ。王家の影を舐めないでよね」
「でしたら、わたくしがアルフレッド殿下を心からお慕いしている事もご存知の筈ですわ」
「それが分かんないんだよね。なんでそんなにアルフレッドを慕うの? 良いとこ無いじゃん」
はぁ?!
よ、び、す、て?!
しかも、アル様に良いとこが無いだと?!
んな訳あるかぁ!
って……落ち着け。相手は王族。しかも、わたくしは一応まだアル様の婚約者。わたくしの失態は、アル様の失態。感情的になったら負けだ。
落ち着け、落ち着くには……そうよ!
マリオン殿下に、アル様の魅力をお伝えすれば良いんだわ!
「アルフレッド殿下の魅力を知りたいという事ですわよね。承りました! まずアルフレッド殿下はお優しいです。マリオン殿下はご存知ですか? アルフレッド殿下の以前の婚約者様の話を」
「ああ……知ってるよ。元婚約者の結婚相手を斡旋したんだってね。しかも、地位の低い男だったからわざわざ手柄を立てさせたんでしょ? しかも、過去の功績までぜーんぶ調べ尽くして、誰にも文句言えないようにして結婚式までしてあげたんでしょ。ほらほら、アマンダ一筋みたいな顔して酷いと思わない?」
「そこまでなさったのですね! なんてお優しいのでしょう! しかも手柄を取らせるだけでなく過去の功績まで調べ尽くすなんて! きっと手間も時間もかかった事でしょう! ああ、やっぱりアルフレッド殿下は素晴らしいお方ですわ」
「ちっ……! 優しいだけじゃ王族は務まらないよ」
「もちろんその通りですわ。ですが、アルフレッド殿下は王位を継ぐ事はありません。それなら、アルフレッド殿下の優しさは王家の求心力を高める為にも必要なのではありませんか?」
「けど! アイツより僕の方がかっこいい!」
ほほう。見た目ですか。
つまり、他にアル様に勝てるところがないと暗に認めておられるのですね。
よろしい、その鼻っ柱、へし折ってやりますわ。
「わたくしは、アルフレッド殿下よりかっこよく、美しい殿方を知りません」
暗に、マリオン殿下よりもアル様の方がかっこいいと言っている。これはさすがにね。断言はできない。人の好みはそれぞれだし。マリオン殿下も綺麗な顔立ちをなさってるし。
けど、本音を言うならアル様の方が100倍、いや、1000倍かっこいいわ!
「……なんで……みんな僕の方がかっこいいって……」
「外見の好みは人それぞれですが、わたくしはアルフレッド殿下の見た目も中身も大好きです。それに、わたくしとアルフレッド殿下の婚約は王命。王命を覆す権限は、いかにマリオン殿下が王子様でもお持ちではありませんよね?」
最初からこう言えば良かった。突然の訪問で、冷静さを失っていたわ。婚約を王命にして下さった国王陛下には感謝しかない。
「はぁ……、本当に君は賢いね。アイツの不在時に押し切ればいけると思ったのに。ねぇ、アルフレッドが王になる事はないって言ったね。本気でそう思ってる?」
「違うのですか?」
それは間違いない。何度も聞いてるし。
「その顔、本当に知らないんだ。アマンダに言ってないなんてあり得ないし……あーあ、じゃあ母上の勘違いか。確かに、父上もそう言ってたし……」
ブツブツ五月蝿いわね。
アル様の悪口を言う男なんて顔も見たくないわ。
わたくしは強引に、マリオン殿下を追い返した。
それなのに……わたくしは何もしていないのに……ちゃんと、お話する時は使用人を控えさせていたのに……。
アルフレッド殿下はキャサリン王女と結婚するから、わたくしはマリオン殿下と婚約すると……噂が回り始めてしまった。
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