第15話

「アマンダ、お手をどうぞ」


な、なんでアル様が……。


「今日は騎士団長とレベッカ嬢の結婚式だろう? 招待を受けているのではなかったの?」


「けど……エスコートはお兄様に……アル様は、お忙しいから……」


「今日は大丈夫。あの我儘王女様は部屋から出ない。絶対にね。だから今日は、可愛い婚約者のエスコートをさせてくれ」


「……嬉しい……嬉しいです」


ああ、せっかくお化粧をしたのに……涙が止まらない。


「まだ時間はあるから大丈夫。ごめんね。寂しい思いをさせて。あと少しだから……待っていて」


そうか。あと少し。


「あと少しで……アル様の望みは叶うのですか?」


「ああ。あと少しだ」


「……わたくし、アル様の幸せを望んでおります。その為なら……なんでもしますわ」


アル様が幸せなら、婚約を解消されても良い。また涙が出そうになったら、アル様に頭を撫でられた。


初めてだ……。嬉しい……。


「こら、簡単にそんな事言ってはいけないよ。お化粧を直しておいで。待ってるから」


そうだ。アル様と一緒に居られるのは今日で最後かもしれない。


アル様は優しいから、わたくしに最後の思い出をあげようとしてくれているのかも……。


わたくしが出来る事は、アル様に罪悪感を抱かせないように、笑う事。


「はい! アル様と一緒に結婚式に行けて嬉しいですわ」


馬車の中でも、アル様はずっとわたくしに優しかった。幸せだ。また泣きそうになったけど、駄目。


笑うんだ。


アル様の望みが叶うまで、笑うって決めた。


「アマンダ! 来てくれたのね。ごめんなさい……会いに行けなくて……」


「謝らないで下さい。レベッカ様、とってもお綺麗ですわ。ご結婚、おめでとうございます」


「「ありがとうございます」」


「まさか、アルフレッド殿下がいらっしゃるとは思いませんでしたよ」


騎士団長様が、驚いておられる。けど、嫌な感じはない。やっぱりアル様は、お城で頑張っておられるのね。


「今日の私はアマンダの付き添いです。王族として来ている訳ではありません。私はおふたりの結婚を心から祝福します」


「今日という日を迎えられたのは、アルフレッド殿下のおかげです。それなのに、堂々と招待出来ず申し訳ありません」


「お互い立場もありますからね。アマンダはレベッカ様の友人として参列しただけ。私はアマンダの付き添いで来ただけです。誰にも文句は言わせませんよ」


「ええ。正式な招待状をお持ちですからね。私はアルフレッド殿下をご招待しておりません」


「わたくしは、親友のアマンダを呼んだだけですわ」


「親友……」


レベッカ様は、わたくしを親友と呼んで下さるのね。嬉しい。


「何よ、違うの?」


くっ……!

ツンツンしてるのに縋るような目で見るなんて可愛い!


「違いません! わたくしもレベッカ様の事を親友だと思っておりますわ!」


「そ、そうよね! 親友を結婚式に呼ぶのは普通の事だわ!」


アル様も、騎士団長様もクスクス笑ってる。


「騎士団長様、レベッカ様は本当に可愛らしい方ですわね」


「レベッカの魅力に気付いた方が増えて嬉しいよ。今後もレベッカと仲良くして下さい。彼女はもう、自由ですから」


「アマンダ様、またお家に伺って良い?」


「もちろんです。お待ちしておりますわ」


レベッカ様はとっても幸せそうだ。

いいな。羨ましい。


わたくしはこんな風に笑える未来はないんだろう。それでも良い。アル様が幸せなら。

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