第14話

「それで、キャサリン王女はどうしてお一人で街に?」


なんとか我が家にキャサリン王女を招き入れ、城に連絡を入れる。この辺は全部お兄様とお父様にお任せだ。たまたまだけど、2人とも家に居る日で良かったわ。


連絡も、色々面倒なのだ。


アル様は王女の案内役なので、王女が居なくなった事が公になればアル様は責められるだろう。だから直接お兄様が伝えに行った。


わたくしの役目は、アル様が来るまでキャサリン王女を誰にも会わせない事だ。


「この紅茶、美味しいわ」


意味わかんない。会話しろよ。大方、勝手に城を抜け出したんだろうけど……王女様なんだから、手厚く歓迎されてるでしょうに何が不満なのよ。


ああもう! 駄目!

アル様に会えないのはキャサリン王女のせいじゃないのに、つい目の敵にしてしまう。


「さようでございますか。我が家は安全です。安心して下さいませ」


「ねぇ、アルフレッドは来る?」


なんでアル様の名前を出すの? なんか会話が通じない。なんで? もしかして、キャサリン王女の母国語じゃないから? けど、夜会ではちゃんと会話出来てたわよね?


あーもう。分かんない。とりあえず、キャサリン王女の母国語なら会話は通じるだろう。


「兄がアルフレッド殿下を呼んでおります。アルフレッド殿下は、必ず来ます」


「そう。良かった」


ふざけんなよ。良かったって言うならなんで勝手に抜け出した。責められるのはアル様なんだぞ。


「恐れながら申し上げます。どうして勝手に街に出たのですか? アルフレッド殿下に相談すれば、街中に行く事は可能です。きちんと準備をして、護衛も連れて行けば安全です。どうか今後は、このような勝手な事をなさいませんようお願い致します」


ぶち切れたわたくしは、キャサリン王女にお説教した。淡々と冷たく言った言葉は、彼女を傷つけたようだ。


「……だって、城はつまらないんだもの……」


つまらないって知るか!

アンタ外交で来てるんだろ?!


もっとあちこち視察するとか、王族や貴族と仲を深めるとかやる事あんだろーが!


半年も滞在するくせに、アル様にべったりで何やってんのよ! だからお似合いなんて噂が立つんだろうが!


「キャサリン王女は、どうして我が国へ?」


「結婚相手を、見極める為よ」


胸が騒つく。嘘でしょ?

婚活に来たって事?!


……それじゃあ……第一候補は……。


「アマンダ! ありがとう!」


アル様が、部屋に入って来られた。息を切らして、急いで来られたのが分かる。


ああ、急いで髪を振り乱したお姿も美しい。


わたくしとは会えないのに、キャサリン王女の為ならこんなに急いで来るんだ……。


黒い感情が、心を支配する。


「アルフレッド! 待ってたわ!」


「マジふざけんな。何やってんだよ馬鹿王女! なんで勝手に抜け出したりした!」


「だって、あの王妃様しつこいんだもん」


「気持ちは分かるけど、逃げたりしたら余計ややこしくなんだろ! 今日だってアマンダが保護してくれなきゃどうなってたか……」


「あ、そうだ。アマンダがコレ買ってくれたの! 可愛いでしょう?」


「金、持ってねえよな?」


「アマンダが払ってくれた!」


「頼むから俺の婚約者に迷惑かけんな。もうちょっとでキャサリンの希望は叶うから、大人しくしてろ!」


「分かった! なら一緒にうちに来てくれるんだよね?」


「行く! 行くよ! 俺の願いでもあるんだからよ! けど準備ってモンがあんだろ! 来月まで待ってろ! 良いな!」


……願いでもある。うちに行く。


そっか。アル様は……キャサリン王女が好きなんだ。キャサリン王女は一人娘。伴侶が王配になる。


隣国に行けば、王妃様の手も届かない。


それに、アル様はわたくしに怒鳴ったり、叱ったりしてくれない。キャサリン王女とは、こんなに親しそうに話すんだ……。


わたくしは、覚悟を決めた。

アイドルが結婚した時に祝福するファンであろうとずっと思っていた。


推しの幸せが、わたくしの幸せ。


アル様が婚約を解消したいと言えば、笑顔で受け入れよう。それが、わたくしに出来る事だから。

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