第12話

最近、社交に行くと嫌な噂を聞く。アルフレッド殿下と、キャサリン王女がお似合いだと言う噂だ。


確かに、お似合いでしたよ!

そんなの分かってるよ!


アル様はかっこいいんだから!

キャサリン王女も素敵な方だった。たくさんお話をした。最初は無口だったけど、アル様に言われてキャサリン王女の国の言葉で話せば、心を開いて頂けてたくさんお話をしてくださった。優しくて素敵で、ユーモアもある素晴らしい王女様だった。しかも、めちゃくちゃ美人さんだ。


……お似合いに決まってる。


決まってんだろ。分かってるわ。アル様の魅力が広まったのは嬉しい。けど……婚約者としては複雑ですよ!


そりゃそうだろ!

なにが悲しくて婚約者が他の女性とお似合いだなんて噂を聞かなきゃいけないの?!


しかも、アル様からはキャサリン王女が帰るまで会えないって手紙が来た。しょぼん。キャサリン王女の滞在はあと半年。長い。長すぎる。


「アマンダ様、手が止まっておりますわよ」


おっとぉ!

しまった。今はレベッカ様と刺繍中だったわ。


レベッカ様はあれから週に1回くらいのペースで訪問して下さっている。結婚前でお忙しいのでは?

と聞いたんだけど、息抜きになるから良いと言って欠かさず来て下さる。し、か、も、結婚式に招待して下さったのだ! え、そんな急に招待客増やして良いの?! アリなの?! 何度も確認したが、真っ赤な顔でお友達の枠が余っているから大歓迎だと仰った。うきゃあ! 可愛い、美人さんの照れる姿、可愛い!


念のため、お父様やお兄様に行っても良いか確認したら問題無いって言って貰えた。けど、結婚式はエスコートが要る。アル様は無理だから、お兄様にエスコートを頼んだ。レベッカ様に確認すると、わたくしが来てくれるならエスコートは誰でも構わないってお言葉を頂いた。


お兄様が騎士団長様のお家にも確認を取ってくれて、無事わたくしの結婚式への参加は認められた。


レベッカ様は、初めて出来た気楽に話せるお友達だ。何故家に誘ったのかは自分でも分からない。なんだかこの人と仲良くなりたい。そう思ったんだ。


レベッカ様も、最初は対立している家のわたくしに誘われて面食らっていたそうだ。けど、ちょうど良いから弱みを握ってやろうと思って来たと仰っていた。


そんなの言わなくて良いのに、わたくしに嘘は吐きたくないって小声で仰ってくれた。レベッカ様は、めちゃくちゃ良い人だ。結婚する騎士団長様の話もたくさん聞いた。


レベッカ様は幼い時に助けてくれた騎士団長様が初恋のお相手なのだそうだ。政略結婚の相手として出会った時、これは運命だと思ったそうだ。


だよね!

それは運命ですよ!


わたくし、運命って言葉はあんまり好きじゃありませんけど、これは運命でオッケー!


なにその理想のカップリング!

最高か!


という訳で、わたくしはすっかりレベッカ様が大好きになった。お互いお家のことでは色々あるみたいだけど、お父様やお兄様、お母様達もわたくし達の交流は邪魔しないと言ってくれた。


けど、レベッカ様のお家は違うみたい。騎士団長様に協力して貰って、わたくしと会っている事は秘密にしているそうだ。


来月にはご結婚されるから、そしたらもっと自由に会えると仰っていた。今でも週一のペースは多めだと思いますけど……?


でも、嬉しい。


レベッカ様のおかげで、わたくしの刺繍の腕は上がった。アル様にお渡し出来るハンカチはたくさん出来たんだけど……お会い出来ないから渡せない。


「申し訳ありません。せっかく教えて頂いていたのに……」


「もしかして、先日の下らない噂を気にされているのではなくて? 安心なさい。アルフレッド殿下がアマンダ様との婚約を解消するなんてあり得ないわ」


「どうして、そう思われるんですか?」


最初はお母様が警戒していたけど、お家はともかくレベッカ様自身は清廉潔白なお方だ。


あまりお家に馴染めておられないらしく、家に居づらいのだそうだ。レベッカ様のキツい態度が災いして、お友達も少ないらしい。


わたくしもあんまりお友達は居ないけどねっ!

だって、打算が透けて見える人達ばかりなんだもの。実は家にご招待したのはレベッカ様が初めてだ。


レベッカ様は公爵令嬢なだけあって、わたくしに媚びる必要がない。真っ直ぐで、素敵なご令嬢。


そんなレベッカ様が仰るなら、きっと大丈夫。でも、あの日の夜会からずっと胸がザワザワする。どうすれば治るのか、全く分からない。


「もっと自信を持ちなさい! アマンダ様より素敵な令嬢をわたくしは知らないわ! アルフレッド殿下だって、あれだけ脅されたのに貴女だけは渡さないって……」


脅された?


レベッカ様が、しまったという顔をしている。


「……アル様が……脅されてる? レベッカ様、詳しくお聞かせ下さい」


「……言えないわ。貴女だって分かってるでしょ。わたくしの家と貴女の家は敵同士。わたくしはあくまでも貴女に刺繍を教えに来ているだけよ」


「そう……ですね」


「けど! お友達として、お友達として言うわ! アルフレッド殿下を信じなさい! わたくしはあの方は大嫌いだけど! でも、アルフレッド殿下は貴女の事をとっても大事にしているわ! お願い、それだけは信じて……!」


レベッカ様が涙目で訴える。


「わたくしが結婚したら、もっと教えてあげる! だからもう少し待ってちょうだい!」


「ありがとうございます。レベッカ様。大丈夫、わたくしはアル様が幸せならそれで良いんです。……たとえ……」


わたくしが捨てられても。

その言葉だけは、どうしても言えなかった。


言葉にしたら、本当になってしまいそうだったから。分かってる。アル様がわたくしを大事にしてくれているのは分かってる。


……けど、わたくしを愛してくれているのか……女性として好きでいてくれているのか。それは分からない。アル様は婚約者なのに、一定の距離を置いているような気がする。まるでアイドルとファンみたいに。


婚約をした時に手に口付けを頂いただけで、それ以降は手を繋ぐ事くらいしかしていない。わたくしはもう、大人なのに。


前世ならまだ子どもだからと割り切れるけど、この世界ではもう結婚出来る年なのに。レベッカ様だって、もうご結婚なさるのに。


あと2年は、長い。

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