第7話
アルフレッド殿下と婚約してから、5年の月日が流れた。教育に来ていた家庭教師の先生は、教える事はないと半年で来なくなった。お母様と社交もこなしたが、まだお子様なわたくしは昼間の茶会に出るくらいしかやる事がない。貴族名鑑を暗記したり、隣国の言葉や文化を覚えたりとやる事は多いけど、表に出るのは茶会くらいだ。
結婚すれば未成年でも成人として扱われて夜会にも行けるけど、わたくしはまだ未婚。
成人する前に結婚する事も可能だったのだが、お兄様が大反対したので15歳の誕生日に結婚する事になった。……筈だった。
結婚し、子どもまで産まれたのにお兄様は相変わらず過保護で、結婚を先延ばしにしたのだ。
結婚は2年後に決まった。
わたくしは17歳。アルフレッド殿下は24歳の歳に結婚する。お兄様と結婚した侯爵家のご令嬢もわたくしに甘く、最高のドレスを作ると張り切っている。
この世界、服を作るのに物凄く時間がかかる。化学繊維なんてないからね。絹の場合、蚕を育てる事から始まる。
わたくしのドレス作りはもう始まっている。今は最高級の生地を作っている最中らしい。結婚が伸びたのも、ドレスの為の生地が見つからなかったからだ。見つからないなら作るとお母様が言い出して、結婚が伸びた。
ええやんドレスなんてなんでも。
そう思ったけれど、アルフレッド殿下にアイドルスマイルで説得されると頷くしかなかった。
「アマンダ、成人おめでとう」
そして今日、15歳の誕生日を迎えたわたくしの目の前に……推しが居ます。
「ありがとうございます。アル様」
ちなみに、アルフレッド殿下からの提案でわたくしは彼をアル様と呼ぶようになりました。ユナ様と呼び方が似てるし良いんじゃないかとの事です。
どこまで優しいのでしょうか。わたくしはすっかり、アル様のファンになってしまいました。もちろん、ユナ様の事を忘れたわけではありません。
「今日はお祝いに、たくさん歌やダンスを覚えたんだ。目を離さず、見ていてね」
推しが!
世界一!
かっこいい!!!!
みなさんあの方、わたくしの婚約者なんですよ?!
良いの?!
こんな幸せ、あって良いの?!
アル様は、拙いわたくしの説明をパーフェクトに再現して下さった。全ての曲を覚え、ダンスを踊る。今では毎月1回わたくしの為だけにパフォーマンスをして下さる。
ああ、今日の曲もダンスも素敵!
しかも、なんと今日はアル様がご自分で考えた新曲を歌って下さる予定なのだ。成人したわたくしへのプレゼントだそうです。
凄くない?!
作詞作曲までするのよ?!
アル様天才じゃない?!
間違いなく、アル様は天才だ。しかもかっこいいし、優しい。パーフェクト超人じゃないかと思う時もある。けど、アル様はひたすらに努力家なのだ。ダンスも歌もかなり練習しているみたいだけど、その姿を見せたがらない。
相変わらず王妃様には嫌われているらしく、社交に出るとちょいちょい悪い噂を聞く。そのせいで、婚約が決まっているのにわたくしに言い寄る男性もいた。
ないわー。
こんなに素敵な婚約者が居て、浮気するなんてないわー。
そう思ったわたくしは、満面の笑みで追い返していた。なんだかんだ言っても相手は前世の上司より若いお坊ちゃんだから、あしらうのは簡単だった。
そんな様子に嫉妬した面倒なお嬢ちゃんも湧いてきたから、茶会に行く時はアル様と一緒に行くようになった。
そしたら、お嬢ちゃん達はすぐにアル様に夢中になった。分かる、わたくしの推しは素敵でしょう?
わたくしは同担拒否じゃない。
存分にアル様の魅力をアピールしておいた。
そしたら何故か、国王陛下からお褒めの言葉を頂いた。貴族から慕われるようになったアル様を蔑ろには出来ないらしく、王妃様は比較的大人しくなったようだ。城に帰っても、以前のような危険はないだろうと国王陛下からは言われている。
それでも、アル様は我が家に滞在して下さっている。うちの家族とは、本当の家族のように仲良くなった。国王陛下が寂しそうだからと、たまにお城に戻られる事はあるけどほとんど毎日一緒に居る。
幸せ過ぎる5年間だった。
だけど、その幸せも今日まで。
アル様は明日、お城に戻られる。
我が家に滞在出来たのは、婚約者であるわたくしが未成年だったから。
わたくしは今日、成人した。前世の基準ではまだ子どもだが、大人びているしスタイルもそこそこ良い。顔も前より可愛い。胸はちょっと同世代の子に比べると小さいけど。けど、ウエストは細い。この世界、コルセットはあるけど身体に良くないからとお母様は付けない。もちろん、娘にも付けさせない。それでもお母様のスタイルはとても良い。コツを聞いたら、適度な運動と筋トレ、食事管理が大事だと教えて下さった。お母様の指導の元作られる食事や、運動や筋トレのおかげでわたくしのスタイルはすこぶる良い。こんな食事管理、前世での不健康な一人暮らしでは不可能でした。ありがとうお母様!
もう成人したのだから、早くアル様と結婚したい。だってアル様はどんどん素敵になっていく。ファンが増えたのは嬉しいけど、婚約者としては怖い。貴族のご令嬢はみんな可愛く、美しいんだもの。
結婚を延ばされているのは、お兄様のせいだけじゃない。アル様だって、結婚の延期に賛成した。もしかしたらアル様は……わたくしと結婚したくないのかもしれない……。
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