第6話
「体調は大丈夫?」
「はい。もう大丈夫ですわ」
「それは良かった。じゃあ少し話をしようか」
「はい。喜んで」
優しいなぁ。王子様って感じ。
今のアルフレッド殿下もとってもかっこいい。けど、お兄様もお父様もイケメンだから慣れてしまっているのよね。
おかげで、ドキドキせずにお話しできるのは嬉しい。
「とりあえず、婚約者になった事だしアマンダと呼んでも良いかな?」
「もちろんです。どうぞお好きにお呼び下さい」
「落ち着いてるね。この間とは大違いだ」
う、確かに。
だって、声はユナ様だけど見た目は違うもの。
「……やっぱり前の姿の方が良い?」
そう言って、アルフレッド殿下は髪をかき上げた。ひゃ、ひゃああ!
似てる。めっちゃユナ様に似てる!
「ふぅん、やっぱりアマンダはこの姿の方が好き? ユナ様だっけ? どんな人なの? 教えてよ」
それからは、よく覚えていない。
大興奮してユナ様の事を語り尽くした記憶しかない。
「なるほど、そっかぁ。なら、俺はユナ様と似た姿でいる方が良いかな?」
なぜか、アルフレッド殿下はずーっと笑顔だ。笑顔で話を促されるから、ついついなんでも喋ってしまう。
アルフレッド殿下は、前世の事をわたくしが見た夢だと思ってるみたいだ。素敵な夢だねって微笑んでわたくしの話を一切否定しない。それどころか、どんどん話を進めていく。こ、これはまずい!
アルフレッド殿下は、ユナ様じゃないっ!
「確かにユナ様似ておられるアルフレッド殿下は素敵です! ですけど、アルフレッド殿下とユナ様は別人ですもの。お好きな格好をなさればよろしいかと」
「へぇ、良いの? たまには見たいんじゃない? だって、夢なんだから。現実でユナ様と会う手段は無いんだろう?」
「……それは」
そうだ。この世界にユナ様は居ない。彼の歌を聞く事はもう出来ない。
あんなに好きだったのに、ライブに行けないし音楽も聴けないし、DVDも見れないし……。
ああ、どうしたんだろう。まるで子どものように涙が溢れて止まらない。もう会えない、大好きな人。彼はアイドルだ。正直、ユナ様に本気で恋した訳じゃない。ただ、好きなのだ。ユナ様の声が、ユナ様の歌が、ダンスが……。彼のおかげで、毎日頑張れた。つらい仕事も、週末のライブを楽しみに乗り切れた。嫌な親との電話の後に、ユナ様の曲を聞いたら癒された。もう一度だけで良い。ユナ様のステージが見たい。でも、それはもう叶わない。
「……大丈夫?」
アルフレッド殿下は、そっとハンカチを差し出してくれた。ああ、ユナ様の声に似てるなぁ。
「待ってて」
アルフレッド殿下は、部屋を出て行ってしまわれた。嫌われてしまったかしら。……そうよね。婚約者が夢で見た男性の事で泣くなんて……。どうしよう。婚約、無しになっちゃうかな。それとも、貴族らしく形だけの夫婦になるのかな。
それは嫌だ。アルフレッド殿下との婚約を承諾したのは勢いだけど、こんな風に優しくしてくれる人と仲良くなれないなんて……。
「お待たせ。どう? アマンダの好きなユナ様に似てる」
え……?!
うそ……、ユナ様にそっくり……。衣装も、ほとんど同じ……! なんで! なんで!
「あなたの時間を、ほんの少し僕に下さい。最高の時間をプレゼントしますよ」
それは……何度も聞いた、ライブ開始時のユナ様の決め台詞。
「もう見れないと……思ってた……」
「ふふ、似てたかな? ねぇアマンダ。君の大好きなユナ様がどんな事をしていたのか、俺に教えてよ。歌ったり踊ったりするんだよね?」
「はい」
「じゃあ、どんな歌や踊りなのか教えて。アマンダに見せてあげるから」
「……どうして……」
「だって、好きなんでしょ?」
「けど……アルフレッド殿下は……」
「ユナ様じゃない。確かに俺はアルフレッド・キャンベル・クラークだ。けど、ユナになれるよ。俺は歌やダンスは結構得意なんだ。アマンダのおかげで面倒な城暮らしから抜け出せたから、少しくらい楽しい事がしたいんだ。だからね、アマンダの為だけじゃない。俺の為に歌やダンスを教えて欲しい。アマンダが夢で見た歌、ダンス……全て俺が現実にしてあげる」
この人は、どこまで優しいのだろう。
出会ったばかりの婚約者の為に、歌やダンスを覚えるなんて……。
この日、わたくしは生まれて初めて恋をした。前世でも恋なんてした事なかった。けど、分かる。ユナ様を好きな気持ちとは違う。
わたくしは、アルフレッド殿下が好きなんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます