第5話
「一生の不覚だわ……!」
アルフレッド殿下があまりにユナ様に似ていた為、すっかり我を失ってしまった。婚約はするつもりだったから問題ない。けど気を失うとは思わなかった。
「……かっこよかった……。ユナ様にプロポーズされてるみたいだったわ……」
いや待て、落ち着け!
アルフレッド殿下とユナ様は別人!
何度唱えたか分からない呪文を心の中で呟き、ベッドから降りる。どうやら、あまりに推しにそっくりなアルフレッド殿下に婚約の証に口付けを頂いたら、キャパオーバーで気絶したみたいだ。
「お嬢様、お目覚めになられましたか?」
メイドのアンリが心配そうに部屋に入って来た。わたくしがゴソゴソと動いたので起きたと判断したのだろう。10年の歳月で慣れたけど、メイドさん凄すぎる。決して主人の邪魔をせず、いつでも助けられるように待機しているなんて集中力が必要よね。アンリ、いつもありがとう。
「おはようアンリ。もう大丈夫よ」
「ようございました。皆様とても心配なさっておられたんですよ。すぐに皆様いらっしゃるでしょう。さ、今のうちにお着替えを致しましょう」
そう言って、アンリは手早くわたくしの着替えを済ませてくれた。
「わたくし、どのくらい寝ていたの?」
「2日でございます」
「ふ、2日?!」
「はい。2日でございます」
2回繰り返された。うっそぉ。そりゃ心配するわよね。
「アマンダ!!!」
着替えが済んだら早速心配をかけたであろう人が現れた。お兄様だ。どうやら部屋の前で待っていてくれたみたい。
「お兄様、心配かけてごめんなさい」
「ああ……こんなに痩せて……そんなに婚約が嫌だったのか? 安心しろ、兄様がなんとかしてやるから」
あ、まずい。
お兄様が完全に誤解している。
「違うのですお兄様。アルフレッド殿下との婚約は嫌ではありません。むしろ……嬉しいです」
だって別人とは言え推しとそっくりな王子様よ?!
しかも、お父様や国王陛下の話を聞く限り性格に問題はなさそうだもの。たとえ多少性格が悪くても、あの見た目なら許せる。
別人とは言えユナ様を間近で眺められる特権を誰にも渡したくない。
「嬉しい? アマンダはアルフレッドが好きなの?」
「まだお会いしたばかりですから性格は分かりませんが、お美しい方だと思います」
「ユナ様と似てるから? アルフレッド殿下との顔合わせでアマンダが言ってたって聞いたけど、そんな名前の人知らないよ。アマンダ、詳しく教えて」
ひぇぇ! お兄様の圧が凄い!
「いくら兄でも、病み上がりの令嬢に迫るなんて良くないぞ」
「くっ……! アルフレッドか……!」
「アマンダ嬢、体調はどうだい?」
「あ、アルフレッド殿下……?」
初対面の時と、ずいぶん見た目が違う。髪が下ろしてあり、目が隠れている。今のお姿もかっこいいけれど、やっぱり最初にお会いしたお姿の方が良い。でも……おかげで冷静に会話が出来る。声はユナ様と同じだからドキドキするけど、普通に話す分には大丈夫。これなら、うっかり気絶する事もないだろう。
「そう。あなたの婚約者であるアルフレッドだよ。アマンダ嬢はまだ幼いからね。私と会う為にわざわざ登城させるのは負担が大きいと国王陛下が判断なさったんだ。教師は公爵家に派遣されてくるから安心してね」
「わたくしは登城しなくて良いのですか?」
「むしろしないで欲しいな。君はもう分かってるみたいだから言っちゃうけど、私は王妃様に疎まれていてね。君が城に行ったら余計なちょっかいをかけてくるのは間違いないんだ。それで前の婚約者は潰れてしまったしね。だから、君が大事でたまらないお兄様は私の事を歓迎してくれないんだ」
えー……お兄様、過保護。もう決まった婚約を覆す方が問題でしょ。それに、アルフレッド殿下の婚約は2回目。わたくしが辞退したらアルフレッド殿下に次のお相手が見つかるか怪しい。
だから、わたくしはアルフレッド殿下と結婚出来る。多分。きっと。メイビー。
前世では恋人なんていた事ないし、今世は政略結婚をする覚悟をしていた。だから、アルフレッド殿下は理想のお相手! 主に見た目が! あ、いや見た目だけじゃないけど! あーでも中身を知らないし……やっぱり見た目かぁ。ごめんなさいアルフレッド殿下。
そうだ、アルフレッド殿下には婚約者がいらっしゃったのよね。その方は今どうされてるのかしら? 王妃様にいびられたって仰ってたけど、伯爵令嬢じゃ王妃様に睨まれたらひとたまりもないんじゃ……?
「せっかく整った婚約ですし、出来れば今のままが良いですわ。ところで、アルフレッド殿下の婚約者様は今はどうされているのですか?」
「今はアマンダ嬢が婚約者でしょ。前の婚約者は幼馴染の騎士と結婚して幸せにやってるよ」
え、もう結婚してんの?!
早くない?
「アルフレッドのお膳立てでな。ったく、余計な事をするから王妃様に睨まれるんだ」
「そうは言っても、俺のせいで巻き込まれた子が不幸になるのは見たくないだろ」
えー! アルフレッド殿下、もしかしていい人? いい人よね?! お兄様が反対したのも頼りないって理由でしょ? お兄様は本気でアルフレッド殿下を嫌ってるように見えない。むしろ仲良いわよね? よっしゃ! この婚約、大成功じゃない?!
「アマンダ、本当にアルフレッドで良いのか?! コイツは王子の癖に色々甘い! アマンダを守り切れるとは思えん! 年上が好きなら、兄様がもっと良い相手を探してやるぞ!」
「ひっど! 無礼だー! 訴えてやるー!」
棒読み!
お兄様とアルフレッド殿下は、仲がいい。間違いないわ! お兄様は、背も高いし目鼻立ちも整ってるし……まぁ要するにイケメンだ。
そして、アルフレッド殿下もイケメン。
2人が楽しそうに笑い合っている姿は物凄く絵になる。ドラマのワンシーンみたいだわ。
前回お会いした時と多少見た目は違うけど、アルフレッド殿下はユナ様の面影がある。
あー……もう一回あの髪型にしてくれないかなー。ちょびっとだけど、メイクもしてたよね。メイクしたらユナ様になるのかなぁー。
ってぇ!
ダメよ! アルフレッド殿下はユナ様じゃないんだから!
何度目か分からない心の叫びを抑えようとしたら顔に出てしまっていたらしい。お兄様とアルフレッド殿下が、わたくしの顔をじっと眺めている。
やっば! お兄様とアルフレッド殿下のやりとりが尊くてニマニマしちゃってたかも!
「アマンダ、どうした?」
「な、なんでもありませんわ! お兄様、わたくしお腹が空きましたの」
秘技! 話題逸らしっ!
「そうか! ずっと寝ていたものな! すぐ食事にしよう! 豪勢にするよう伝えてくる!」
普通は効かないんだけど、優しいお兄様には効いたみたい。
お兄様は部屋を出て行きアルフレッド殿下とアンリだけが残された。
「アンリだったよね? 暴走したリチャードを追いかけてくれるかい? アマンダは2日も寝たきりだったんだ。いきなり豪華な食事をしたりしたら身体を壊してしまう」
「かしこまりました」
「ああそうだ、婚約者とはいえ2人きりはまずいからね。扉は開けておくように」
紳士!
アルフレッド殿下の発言に、アンリは嬉しそうにわたくしに目配せしてきた。この視線は、いい人と婚約しましたねって言ってる。
アンリに目配せを返して、ニッコリ微笑む。
そうよね! この婚約、大成功よね!
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