第4話【アルフレッド視点】

やっと売れてきたって時に、事故でうっかり死んじまった。


しかも、よく分からねえ世界で王族とやらになっちまった。母親は俺が産まれた時死んだ。


それから俺は、ひっそりと生きた。父親は国王で、母親は身分の低い貴族だったらしい。母の忘れ形見である俺を父は気にかけてくれた。


表向きは冷遇された王子。目立たないように気を付けて生きた。ちょいちょい助けてくれた父親のおかげでなんとか成人する事が出来た。


見た目は前より良い。メイクしなくても鼻が高いし目もデカい。以前と同じ位置に黒子があるのはなんだかおかしかった。あんま目立つと面倒だから最低限の身だしなみを整える程度だったが、それでも前よりだいぶ整っている。婚約者が出来たのでもうちょっと気を遣おうと思い見た目を整えると、前世でアイドルをしていた時とそっくりな見た目になった。


俺は自分の身支度は自分でしている。信用出来る人が少なすぎるからだ。男の服は大抵ひとりで着られるし、メイクだって前からしてたんだからお手のものだ。父は心配していたが、その方が命の危険がないと言ったら受け入れて貰えた。父に目立つからあんま会いに来るなと言ったらしょんぼりとしてやがった。


婚約者は父が探してくれた。身分が高いと王妃に目をつけられるので力のない家の伯爵令嬢。見た目は地味だが賢い子で、妃教育もすぐに身に付けてくれた。穏やかな性格でこの子となら上手くやっていけると思った。だが、王妃は彼女の賢さが気に入らなかったらしい。


教育と称して、彼女をいたぶるようになった。


彼女は俺に知られないように隠していた。俺が気が付いた時には王妃の行動はエスカレートしており、彼女が壊れるのは時間の問題だった。俺は急いで父に婚約の解消を申し出た。もちろん彼女の実家が不利にならない条件で。


俺の我儘という事にして貰い、婚約解消は無事済んだ。


最後に挨拶をする為に伯爵家を訪ねると護衛の騎士に殴られそうになった。なるほど、いいお相手がいるじゃねーか、そう思った。


それならと、ちょっくら小芝居をして2人をくっつけた。冷遇されてても王子だからな、出来る事はある。2人はあっさり結婚した。祝福されて喜ぶ元婚約者の笑顔を見て、良かったと思ったもんだった。


けど、彼女の為にちょっとばかり動いたら周りの評価が上がってしまったのだ。俺は王妃に睨まれるようになった。


やたらと絡まれるようになり、自分の部屋でゆっくり過ごす事も出来なくなった。しかも、勝手に俺の婚約者を決めようとしやがった。


あのクソババア。


喉元まで出かかった言葉を飲み込み、公爵と組んでなんとかすぐに婚約が整わないようにした。


10歳のガキが城に来て教育を受けるなんてキツいだろ。妃教育は、1年程度。王太子妃ならもっと期間が必要だが、俺が王太子になる事はない。成人すんのは15歳なんだからもうちょいデカくなってからで充分だ。


そう説明したのに、賢いアマンダ嬢なら俺に相応しいと連呼する王妃の目はヤバかった。ありゃ、アマンダ嬢をいびる気満々だ。アマンダ嬢が耐えられずに婚約を辞退すりゃあ、俺は2回も婚約者に逃げられた男って事になり評判は最悪。誰も結婚してくれねぇだろう。最初の婚約者はともかく、公爵令嬢に逃げられたとなれば俺に近づく貴族はいなくなる。テイラー公爵と王妃の実家は仲が悪いが、まだ幼いアマンダ嬢なら厳しくしてからちょっと優しくすりゃあ手懐けられる。俺と結婚してもアマンダ嬢だけは味方に取り込める。どっちにしても王妃に損はねぇ。


公爵の機転で婚約はせずに済んだが、顔合わせは必ず行えと命令されてしまった。幸い日程の約束はしなかったので、帰って来たばかりの父を捕まえて事情を説明し、王妃が不在の時に顔合わせをする事にした。


顔合わせさえしちまえば気が合わなかったと断りゃ良いと思っていたが、父は婚約を歓迎した。その手があったか、なんて呟いてやがった。俺を公爵家に避難させたいみたいだ。婚約者なら、滞在しても問題ねえ。アマンダ嬢はまだ幼いからなおさらだ。批判される事なく、俺を守れると言っていた。まぁ確かに、最近は城に居ても落ちつかねぇもんな。


国から逃げようと思って留学の準備をしていたが、王妃にバレて潰されたからなぁ。


俺の立場は結構危うい。留学も出来ねえなら、アマンダ嬢と婚約するのがベストだと分かってる。けどよぉ、10歳のガキは無理だって。


そりゃ、この世界では問題ねぇって分かってるよ。テイラー公爵の人柄も信用出来る。けど、俺はロリコンじゃねぇんだ。どちらかっつーとボンキュッボンな美女が好みなんだよ。


せめて15歳……この世界で成人してる子を連れて来てくれよ……。


だからわざと時間に遅れて行き、心象を悪くする事にした。公爵がアマンダ嬢を溺愛しているのは有名だ。こんな男に娘は任せられない。そう思って貰えるよう振る舞うつもりだった。


なのに、アマンダ嬢は出会った瞬間俺の昔の名を呼んだ。なるほど、10歳なのに大人びていてしっかりしているという評判はそういう事かと理解した。


この子は俺と同じだ。しかも、以前はどうやら俺のファンだったらしい。


わざと一人称を戻すと、目を輝かせていた。


必死で違う、別人だと心で言い聞かせているのが分かる。オタオタとしている姿が愛らしい。


わざとアイドルらしく話すと耳まで真っ赤に染まった。前世の事がバレると面倒だから、混乱しているアマンダ嬢を言いくるめて夢の中で会った人に似ている事にした。嘘は吐きたくない、そんな顔をしていたから彼女に嘘を吐かせないように振る舞った。


俺は嘘を吐くのはお手のものだ。


背筋を伸ばし、ユナという仮面を被る感覚。久しぶりだったが、目の前にファンが居るなら演じられる。


ああ、俺はやっぱりアイドルという仕事が好きだったんだな。生まれ変わってから初めての充足感を味わいながら、完全にパニックになっている少女を言いくるめて婚約を整えた。


10歳のガキは対象外だが、中身が大人なら話は別だ。


パーフェクトな礼儀作法、妙に落ち着いた様子から察するにアマンダ嬢になる前はそこそこ歳はいってただろ。すげー年上の女性だったとしてもそれはそれでアリだ。今の見た目はガキだしな。身体の成長を待てば良いだけだ。


何が起きているか理解していない可愛らしい少女に今のところ恋愛感情はないが、せっかく見つけたファンを逃したくはない。


そのうち、大人になりゃ良い感じになるだろ。


彼女の前なら俺はユナに戻れる。それはつまらない今の人生で見つけた、唯一の楽しみだと思えた。その為には、彼女の事をもっと知りたい。

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