第2話
「お初にお目にかかります。テイラー公爵が娘。アマンダ・オブ・テイラーと申します」
お母様に叩き込まれた挨拶をする。
「あ、ああ……面を上げろ」
ここで上げてはいけない。
「よい。面を上げろ」
「アマンダ、顔を上げて良いよ」
お父様の声がする。そこでようやく、わたくしは顔を上げた。1回目で顔を上げてはいけないと習っていたから上手く対応出来た。
「……本当に10歳か?」
「アマンダは間違いなく10歳の令嬢です。赤子の時に会いに来たでしょう。忘れてしまったのですか?」
「いや、分かってはいたのだが……あまりにその……大人びておるので……」
「アマンダは優秀ですから。で、肝心の主役は何処に行ったんですか?」
「すまん。今呼んでおる」
「アルフレッド殿下は今回の縁談を嫌がっておられのですかな? 年下の娘など好みではないのでしょう。殿下のご意向に逆らう訳には参りません。アマンダ、失礼にならないように帰ろう」
「ま、待ってくれ!」
「待たん」
国王陛下に不敬じゃない? 大丈夫なの? お父様!
「お父様。もう少し待ちませんか?」
「アマンダ嬢は良い子だな! お前とは大違いだ!」
「アマンダが良い子なのは当然だろ!」
お父様と国王陛下は、ずいぶん仲が良さそうだ。まるで戯れあっている子どものように見える。
「あの、お父様と国王陛下は……旧知の間柄なのですか?」
「そうなのだ。アマンダ嬢の父上は凄いんだぞ。ワシの侍従の中でも、とびきり優秀だったんだ」
「お父様が?」
「侍従がどんどん辞めたから仕方なくやったんだ!」
なるほど。お父様が今回を話を嫌々ながらも受けた理由が分かった。王家の罠かもしれないなんて、考え過ぎだったわね。
「大体、お前は王の癖に脇が甘い!」
「すまん……。まさか王家の名を使ってアマンダ嬢に婚約を打診するとは思わなかったんだ……」
「私が王に直接確認すると言わなければ、押し切られるところだったんだぞ! 今回だってうちの優しい優しいアマンダが会ってもないのに断るなんて失礼だと言うから来たんだ! 今日じゃなければ、顔合わせなんて来なかった!」
「王妃が確実に不在だからな。安心しろ。今日の事を知っているのはワシと信用出来る者だけだ」
「でなければ来なかったと言っただろ! 王の不在時に王子の婚約を打診するなんて分かりやすい事を許す体制がまずおかしい! 早急になんとかしろ! 王妃様は、私が断っても受けても益があると考えたのだろう。上手くかわしたから良かったが、我が家の跡取りはお冠だぞ。自分の妻の動向くらい把握しておけ」
えーっと……この会話から察するに、わたくしの予想はあながち間違ってなかったみたいね。国王陛下は違うけど、王妃様とお父様はあまり親しくはなさそう。
王妃様のご実家は公爵家。あまり貴族の人間関係は知らないけど、競い合っていて仲が良くないのかもしれない。
「今日は王妃が里帰りしているから邪魔される事はない。単刀直入に言うぞ。王妃が珍しく良い仕事をしたと思っておる。ワシは、アルフレッドとアマンダ嬢の婚約を望んでいる」
「今の王家にアマンダは任せられん。妃教育の為に出仕させるなら、常に私が付き添う」
「婚約が整えば、アマンダ嬢の安全を第一に考える」
「口ではなんとでも言える。きちんと案を出せ」
「アルフレッドを公爵家で預かってくれぬか? テイラー公爵家なら警備も万全だし、城に居るより安全だ。教師はワシが手配した者を派遣する」
「確かにそれが一番安全か」
「王命を出す準備は出来ておる。王妃が言い出した縁談だ。文句は言わせん。まさか、アルフレッドもアマンダ嬢も城に来ないとは思っておらぬだろうがな」
「ふん。どうせ妃教育だと言ってアマンダをいびるつもりだったんだろう。アマンダを登城させる時は私か妻が付き添わない限り認めん。それが嫌ならさっさと今の現状をなんとかしろ。それから、いくら王が連れて来た家庭教師であっても調査をするぞ。見張りも付ける」
「あいわかった。王妃には情報を秘匿するし、家庭教師も見張りを了承する者を手配する。安心してくれ。教師はワシが選ぶ」
「あまり安心出来ん。こちらでも対処させて貰う。婚約が整うかどうかはアルフレッド殿下の態度次第だ」
「……それは」
「婚約者を放り出したのはアルフレッド殿下の意志だろう? アマンダは我が家の至宝だ。守れそうにないから放り出すなんて認めん。アルフレッド殿下がアマンダを託すに値する人物か、きちんと私の目で見極めたい」
「何故……それを……」
「伯爵令嬢では、王妃様と渡り合うには少し荷が重かったな。いびられているのを見兼ねたアルフレッド殿下が婚約を解消したのだろう? 王妃様はこれ幸いとアルフレッド殿下の悪い噂を流しているみたいだが、私はそんな噂に惑わされん。でなけれは、今日ここに来ておらん」
「相変わらず優秀だな。どうして辞めてしまったのだろうな……」
「父が急死して、私が公爵を継いだからだな」
「そうだったな」
お父様、国王陛下に塩対応過ぎない?
でも、これで分かった。アルフレッド殿下は、お父様が見極めたいと仰るくらい良い方なんだ。
申し訳ないけれど、わたくしにとって特別な男性はユナ様だけ。それでも、アルフレッド殿下に嫌悪感はない。虐められていた婚約者を逃すくらい優しい方なのだからなんとか上手くやっていけるだろう。
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