第1話
歩道橋から落ちた私は死んだのだろう。オギャアと生まれ変わり、スクスクと大きくなった。あっという間に10歳の誕生日を迎え、幸せに生きている。
今世の親は優しく、私、いや、わたくしを溺愛してくれている。家は裕福で暮らしに困る事はない。親に、家族に優しくされる事がこんなにも幸せだとは知らなかった。
可愛い妹や弟、優しい両親と兄に囲まれて過ごすうちに前世の母の事を許せるようになった。だってもう会う事はないし。会わない嫌いな人の事を考えて過ごすより今の家族を大事にしたい。
貴族の勉強は、前世の勉強とは全く違っていた。でも、楽しい。やっぱりわたくしは勉強が好きだ。両親はわたくしの希望を聞いてくれて、たくさん家庭教師を雇ってくれた。この世界に学校はないから学ぶには家庭教師を雇うか家族から習うしかない。父も母も忙しいのにわたくしの為に時間を取ってくれる。家庭教師の給金は高いのに、優秀な先生を雇ってくれた。両親には感謝しかない。
先生には優秀だと褒められる事が多く、両親や兄も散々褒めてくれたので嬉しくて前世以上に頑張った。でも、わたくしが勉強を頑張ってしまった為に面倒な事になってしまったらしい。
「婚約者……ですか?」
貴族だし、結婚相手を親が決めるのは当然だ。まだ少し早い気もするけど、この世界にはユナ様は居ない。それなら、誰と結婚しても一緒だもの。
それに、わたくしの事を大事に思ってくれている両親が選んだ人ならきっと大丈夫だろう。婚約が決まったと父と兄から告げられた時、わたくしはあっさりと受け入れた。
「アマンダにはまだ早いと言ったのだが国王から押し切られた。だが、会ってどうしても無理なら断る事も可能だ」
「お父様、国王陛下のお申し出はお断り出来ませんわ」
「アマンダは賢いな。だが、問題ない。王と話はついている。アマンダに縁談が来ているのは第三王子のアルフレッド殿下だ。一度会ってお互いの相性を見る事になった。でないと……許せる訳ないだろう……」
父は公爵家の中でも強い力があるらしく、筆頭公爵家なんて言われている。貴族は王族に逆らえないと思っていたが、お父様くらいになると多少意見は通るらしい。大人達でどんな話し合いが行われたのか分からないが、そこまでしてわたくしを守ろうとしてくれる父には感謝しかない。前世の父は、母に逆らえず空気だった。怠け者で仕事をすぐに辞めてしまうから、母がカリカリしていたのは父のせいもあると思う。父は母が怒鳴り始めたら私に丸投げして数日家を空ける。その間サンドバッグになるのは私だ。ま、あのヒステリックな言動を聞いてたら逃げたくなる気持ちは分かるけどね。そんな父と違い、現世のお父様は素晴らしい人だ。優しく厳しい、理想のお父様。
わたくしの結婚がお父様の役に立つなら、誰とだって結婚するわ。
「かしこまりました。大丈夫ですよお父様。お父様がお認めになった方ですもの。わたくしは喜んで結婚致しますわ。アルフレッド殿下は、もう成人なさっておられますよね? わたくしは未成年で結婚する事になるのでしょうか?」
この世界は早熟で成人年齢は15歳。アルフレッド殿下は、確か今年で17歳。婚約者がいらっしゃったわ。お相手は伯爵令嬢だったわよね。王族と結婚するには少し身分が低いけど評判の良いご令嬢だった。まさか、ご病気とか?
けど、お父様が説明しない事は聞かない方が良いわよね。
お父様がお認めになったのなら、結婚して問題ないのだろう。未成年でも結婚する事は貴族ならよくある。でも準備期間があるから……2年後くらいには結婚する事になるかしら。妃教育があるだろうし、早い方が良いのかな?
「アルフレッド殿下の婚約は解消された。駆け落ちしたなどと不名誉な噂が回っているが、それは偽りだ。アルフレッド殿下と同世代の令嬢で婚約者が居ない高位貴族の令嬢はおらん。そんな理由でもなければ、アマンダに話が来る事はない……」
「会ったら婚約しないって訳にいかないと思う。だからねアマンダ、病気って事にして引きこもろう」
え、わたくしは結婚するつもりだったんだけど?! もしかして、お父様やお兄様は反対なのかしら?
「えっと……お兄様。もしかしてわたくしの結婚は我が家の益にならないのでしょうか?」
「アマンダ……まだ幼いのに家の事を気にするなんて……アマンダよりも年上なのに自分勝手な令嬢ばかりだと言うのに……。大丈夫だ! アマンダが嫌なら貴族の地位を捨ててでも断るから! アルフレッド殿下は王位を継ぐ事はない。それでも婚約者には厳しい教育が課せられる。だから元々嫌がる令嬢が多かったんだ。アマンダは勉強が得意だけど、妃教育は厳しい。15歳の令嬢が身体を壊したんだ。10歳で妃教育を受けるには早すぎる。会わなくて良い。安心しろ。兄様がアマンダを守ってやる」
アルフレッド殿下のお母様は元男爵令嬢。王が気に入って無理矢理側妃にして、アルフレッド殿下が産まれた際に亡くなったと聞いている。
他の王子や王女はみんな王妃様の子だ。側妃の子なのはアルフレッド殿下だけ。
なるほど。アルフレッド殿下のお相手が見つからない理由は理解したわ。
そして……お兄様の口ぶりから判断すると……わたくしが婚約を拒否すればアルフレッド殿下と婚約しなくて済む。でも、我が家は困るのではないかしら。
「お父様、お兄様。わたくし、アルフレッド殿下との婚約をお受けしますわ。アルフレッド殿下はお兄様と同い年でしたわよね。わたくし、年上の男性の方が好みなんです。それに、妃教育も楽しみですわ」
お兄様とは7歳差。歳が離れているせいか、お兄様はお父様以上にわたくしに甘い。だからわたくしが婚約を喜んでいると言えば、王家に逆らったりしない。
「アマンダ……! そんなに家の事を気にしなくて良いんだ! アマンダは良い子すぎる! もっと我儘になって良いんだ!」
お兄様、わたくしは充分甘やかされておりますわ。
「一度だけでもアルフレッド殿下と会わせて下さいまし。せっかくお話を頂いたのに、お顔も拝見せずにお断りなんて出来ませんわ。大丈夫です。嫌なら嫌とちゃんと言いますわ」
会えば婚約は確定だろう。
断れば王家に逆らったとして我が家は処罰されるかもしれない。
家庭教師の先生の話、お父様やお兄様の言動から察するに、今回の話は王家の罠かもしれないと疑っている。
お父様がわたくし可愛さに断る事を狙っているのかもしれない。
前世の上司もそうだった。
絶対出来ない無理難題を言い、反応を試す。
お父様が条件を付けた事で心象は悪くなってるだろうけど、まだ挽回出来る。
大好きな家族の足手まといになりたくない。わたくしは、アルフレッド殿下と結婚すると決意した。
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