第2話 書きかけの原稿

 一週間後、急にまた見せたい原稿があるからと言って友人が私を訪ねてきた。

「小説はちょっと今書けそうにないから遊び半分こんなの書いてみたよ」彼はそう言って原稿を私に見せてきた。

「笑える哲学書みたいなのを書いてみようかなと思って」とはにかんで、さらにこう付け加えた。

「哲学書というか自己啓発本?それともエッセイ?まあなんでもいっか、要はおもしろいかおもしろくないかだもんね。これもまだ書き途中だけど、これ書き終わったら次からはまともな小説を書こうと思ってるんだよね。本当はこれを物語で表現したいんだよ。でも現時点ではこんなのしか書けないみたい」


 この友人の書きかけの原稿を紹介して、物語を結ぶとしよう。

 彼は、世間的に、一般的に、どんな人間かはわからない。

 ダメな奴かもしれない。

 でも私は、この友人が好きである。



~~ひねくれ者かく語りき~~


 まずは最初にこれを言っておかなければなるまい。

 小生はひねくれ者である。

 超が付く天邪鬼である。

 はたから見ればどうかしているだろう。

 何もそこまで、そう思うだろう。

 しかし残念ながら、それが小生なのである。


 みんなが綺麗な舗装道路を歩くなら、小生は汚れたドブ川をずぶずぶ歩く。

 みんなが雨を嫌うなら、小生は雨を誰よりも愛する。

 台風が来た時こそ小生は表に出歩く。

 暑い時には熱いものを食べ、寒い時には冷たいものを食べる。

 犬を嫌い、鴉を愛する。


 もう分かるだろうが、小生の言う事は当てにならない。

 しかし、こんな小生が言うのもなんだが、いや、こんな小生だからこそ言うのだが、敢えて言う。

 世の中の常識というものも中々当てにはならないものだ。

 普通、一般的、そういう言葉でごまかされている真理というものがある。

 隠された物事の本質。

 そういうものは確かに存在するのだ。


 だから小生がこれから、その真理というものを賎民に教えようという訳ではない。

 小生は馬鹿である。

 何もわからない。

 何かを人に教えるなどとてもじゃないができない。

 なので小生という人間を一切信用しないで頂きたい。

 常に疑いの目を持って接していただきたい。

 もちろんこんな小生でも、客観的な視点を持ち、様々な角度から物事を分析し、俯瞰から冷静に判断し、相対的に考えた上で、ものを言っているつもりだ。

 しかし、それでもなお、それもまた少なからず小生の主観の制約を受けたものであるだろうし、こう言っている事もまた所詮、小生の主観なのかもしれない。

 ただ、それを小生は「自覚」しているつもりである。


 つまり、小生が何を言おうが所詮は人それぞれ、各々の主観である。という事を小生は「自覚」した上で言っているのである。

 人それぞれでいいのである。

 違くていいのである。

 だってその違いが個性なんだしキャラクターなんだし。


 なんだかくどくどとややこしくなってしまったが、要は「馬鹿なりにもちゃんと考えてからものを言っているんだぞ」という事をまず最初に示したかったのである。

 そんな事をくどくどといちいち示しておかなければ気が済まないのは、小生のつまらない自尊心のせいかもしれないが、まあ「許してちょんまげ!」である。


 のっけから「どうかご勘弁遊ばしまし」という心持ちだが、とにかく小生が今からこの書で語る事は、人格者、所謂世の大人達はあまり言わない事だと思う。それを小生という馬鹿野郎が言うのである。

 だからなんだという感じだが、とりあえず面白そうだから書いてみた、それだけである。

 まあ、移動中、待ち時間、そんな時のちょっとした暇つぶしにでもなればこれ幸いである。

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