最終話「Nobody knows」
その日はコルネリオにとって最悪の日となった。
騒動を見た人は虹色の竜巻を見たと言った。竜巻が火を噴き、滝のような雨を降らせ、風で人々を吹き飛ばし、岩で建物を削り取ったと。
竜巻は夜の街を破壊し、多くの住民を巻き込みながら移動した。そして、夜明け前に丘の上に着くと、そこに建てられていた豪邸を巻き込んで丘ごと一瞬にして消滅した。
街の地形を変えるほどの事件を住民達は忘れることは無いだろう。
しかし、彼らは知らない。この事件はたった1人の男によって引き起こされたということを。この事件によってヨーロッパ最大の犯罪組織が壊滅したことを。
* * *
「いやー、大変だったね。ドルバコ達は」
「まったくだ。まさか俺が魔法を使うことになるとはな」
ここはヨーロッパのとある街にあるカフェ。ドルバコファミリーと激闘を繰り広げた夜を乗り越えたエリスとカインはコーヒーを片手にテラスで小休止していた。
罪悪感が無いわけではないが悩んだ末に過ぎたことを悔やんでも仕方がないという結論になった。そういうところが2人の良さでもあるのだが、もしコルネリオの住人が居たならば助走をつけて2人を殴っているだろう。
おかげで昨夜の緊迫した表情も何処へやら。2人は完全にリラックスして昨夜の事も既に昔の事のように振り返っていた。
カインが怒り狂って魔法を発動させたまま乗り込んできた後、エリスは縄抜けの要領で拘束を抜け、自力で地下から脱出してカインと共にドルバコファミリーのボスの娘であるネイトと戦い、2人の力を合わせて何とか倒した。
「ナードには驚いたよね。まさか腕輪が魔法力を吸収する弓矢になるなんて思わなかったよ」
「ああ、エリスのサポートが無かったら俺も死んでいた。心から感謝してる」
そう言ってカインが右手で頭を撫でるとエリスは包帯が巻かれたカインの右手を取って頬に当て、早く治るように祈りながら掌に軽く口づけをした。
ネイトの弓矢でカインは右手に深い傷を負った。逃げる時にエリスが「医者に見せた方が良いんじゃない」と言ったが「エリスを守って出来た傷だから勲章にする」とカインは聞かなかった。しかし、そのままにしておくわけにはいかないため応急処置はしておいた。
エリスの行動にカインは少し赤くなる。どうやら昨日の事を思い出しているようだ。
ネイトを倒す為には上の弓矢が魔法を吸収する力を上回る魔法をぶつける必要があった。カインの魔法は感情が高ぶれば高ぶるほど強力になる。だから、エリスは咄嗟にカインの唇に口づけをした。魔法で自分も吹き飛んだが怪我もなくネイトも倒せて結果オーライだ。
「あれぇ? もしかして昨日のこと思い出してる?」
「……仕方ないだろ。本当に驚いたんだからな」
エリスが少しからかうとカインは少し不機嫌に返す。
カインは昨夜は大通りで守れなかったため、エリスが自分の事を嫌いになったと思っていたらしい。冷静に考えれば有り得ないことなのに。
「カインさえ良ければ毎日してあげようか?」
「え、それは嫌だ」
「どうして!? 本当は嫌だったの!?」」
キッパリと言われ驚いたエリスは捨てられた子犬のような表情で目には涙を浮かべながらカインに抱き付いた。もちろん演技である。
しかし、心配する必要はなかった。
カインは抱き付いて来るエリスを逆に抱きしめ、耳元でそっと囁いた。
「俺も出来れば毎日したいが、エリスが傷つくのは嫌だからな」
その言葉を聞いた瞬間、エリスは全身に電気が走った。
「うわ、今のすっごくキュンときた」
「そうか。じゃあ、今日から取り入れてみよう」
満面の笑みを浮かべるエリスを見たカインは冷静に耳元で囁くことをエリスを喜ばせられる方法として記憶する。
それから2人はコーヒーが無くなるまでの間これからの仕事のことや生活のことについて話し、不安を吐露したが最終的にはどれも2人で居れば大丈夫という結論に至った。
そして、コーヒーを飲み終えた2人はテーブル代金を置いて自分達の新しい相棒の元へ向かった。
2人の新しい相棒はサイドカーが付いた大型バイク。ドルバコ邸から無断で持ち出したものだが、こうして迷惑料替わりにはなっている。
エリスは先にサイドカーへと乗り込み、それからカインがバイクにまたがる。
「さて、次はどっち行こうかエリス」
「うーん、とりあえず東かな。東に行こう」
エリスがそう言うとカインは頷いてバイクを発進させる。
これから2人の新しい旅が始まる。何が起こるかわからない危険な旅だが、2人なら乗り越えられるだろう。
なぜなら2人は互いに良い相棒なのだから。
Nice Buddy!! ラヴィラビ @read_ralver
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