第5章:誰のために16

「はぁ……はぁ……。急いで皆の元に戻らないと……」

 シグマがラムウェルと戦闘後、メイがゲルヴァをランドルフ達に引き渡した後。メイは皆からシグマが一人で今もベアトリウスの兵士と戦っているはずという情報を聞いて、ウェイジ―地帯の東へ走って追い付こうとしていた。


「やぁ、メイさん。久しぶりですね!元気にしてましたか?」


「誰!?」

 

 そんな時だった。ワイトと戦った(当然メイは知らない)ネイナスが現れたのは。


「って、あなたは……確か、ネイナス、さん?でしたよね?なぜこんな場所に」

「いやぁ、戦争があると騎士の友人から聞いてね?ノーシュは傭兵は募集していないけど、善意で戦おうと思ったのさ。同胞が傷つくのはみたくないからね」

「そうだったんですか……。じゃ、あたしはシグマ達の元に戻らないといけないので、これで」

 善意で戦ってくれるなんて珍しい。でも一般人なので、一緒に行動するわけにもいかない。メイはさっさとシグマの元へ追い付こうとネイナスから走り去ろうとする。


「ああ、待ってください」

「はい?」


 しかし、待たされる。


「大火事事件を解決したくてベアトリウスで旅をしていたんでしょう?あれ、どうなったんですか?」


「ああ、それはさっき犯人のゲルヴァをノーシュに連れて行かせた所ですよ!皆と一緒に戦って……。きちんとケリがついて良かったなぁ……。特にシグマはきちんと言いたい事を言って、カッコよかったなぁ」


「……へぇ?」


 単純な質問だとメイは受け取った。しかしネイナスは大火事事件の当事者であるシグマは今どこで何をしている?という意味で言ったのである。ゲルヴァの事は仮に死んでいようがどうでもいい、シグマの事が気になって質問したのだ。メイはシグマの事がよぎりつつも、大火事事件の事だろうと思い今まさにそれが終わったばかりだという事をネイナスに話した。


 致命的なミスだった。


「ちょっとその話、詳しく聞かせてくれます?」


 解決したから油断したのか。それはわからない。しかし何者かわからない相手にべらべらどう起きてどう終わったのかをメイが話したのは事実。

「シグマと会うまでならいいですよ。ネイナスさんもどこかに行くつもりなんでしょう?」

「ええ、このままベアトリウスの方まで。向こうの方が戦う相手がいそうですからね」

「じゃあ—―」


 メイがこのネイナスの目的がシグマに会うためだと気づくのは、実際にシグマに会ってから。すぐにやらかしたと気づくが、そうなるまでに

















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「……」


 シグマがラムウェルを倒した直後。これまたベアトリウスの兵士か傭兵らしき人間が、シグマが自分がいる方角へ歩いてくる様子をじっと見つめていた。

「……」

 シグマがその視線に気づいたのはそこから数分後。立ち止まって剣を構える。どうやら向こうは自分の事を一方的に知っているらしい。どのくらいかはわからないが。


「さっきの、見てたよ」

「!」


 予想外の言葉だった。


「兵士を説得させて去るなんて、やるじゃないか。ノーシュにも立派な騎士はいるんだね」


 傭兵らしき人物は、ラムウェルよりはフランクに話しかけてきた。なぜこんなにも危機感がないんだ。

「君も傭兵か?僕はただ時間稼ぎをしているだけだ。僕の中でこの戦争はもう終わっている」

 ゲルヴァを捕まえたから、とは言わなかった。まさかこの戦争がゲルヴァを捕まえるために起きた戦争だとは思うまい。仮に言ったとして、ここまで正直にお互いが進軍してきた以上、信じてもらえるとはとても思えないのだ。だから言わない。

「いや、僕は傭兵じゃないよ」

 傭兵らしき人物は、首を横に振り自分が傭兵である事を否定した。


「僕はテロリスト、ソーム・スウェルだ!」


「テロリスト!?」


 そして、自分がテロリストである事をはっきりと言ったのである。わざわざ敵国に対してだ。


「僕は自ら進んでこの戦争に参加した!お前が戦った奴と違ってな!ベアトリウスの事を調べたならわかるはずだ、この国はおかしいってね!国がやった事に振り回され、蹂躙され、救える命があったのに救われなかった!そういう国さ。だから僕は、テロを起こそうと思ったんだ!この腐った世界に鉄槌を下すために!」


 テロリストのソームは、べらべらと自分の目的をしゃべり始めた。テロリストが戦争に紛れ込んだのか、それとも傭兵が自分の事をテロリストだと思っているのか、そのように自己紹介した方がインパクトがあると思ったのか。それはわからない。だが、ラムウェルと同じで、明確に世界に対して憎しみを抱いているのは間違いなかった。シグマはこの人もか……と話を聞きながら思っていた。

「この戦争が終わったら、首都でやるつもりさ!手始めに金を手に入れときたいだけだ!」

「(首都で!?ゲルヴァと同じ……)」

 たまたまである。シグマにとって、この戦場にいる事、この戦争が起きている事自体がイコールゲルヴァの事として一つの線で繋がっている。ゲルヴァが全く関係ない所でも、思うのは彼が今どうしているか、である。当事者であるシグマが一番言いたい事があるのは当然だが、シグマ自身考えすぎか?と、この時思っていた。


「そんな事ダメだ!」


 シグマはつい反射的に否定する。が……。


「説得なんて効かない!僕は既にそう決めた!僕は僕なりに、この世界に爪痕を残そうとしているだけだ!……邪魔をしようっていうなら、容赦はしないよ!」


「……」

 ソームの強い覚悟を見て、シグマは説得は無理そうだと判断した。だから無理やり阻止する事に決めた。

「僕の名前はシグマ・アインセルク。君もベアトリウス人だろう?傭兵じゃなくテロリストなら、自主的に戦わせてもらうよ!」

 ゲルヴァのようにテロとして無差別に何かをやってくるのなら、国同士のいざこざが、とかは通じない。巻き込まれ(せ)ないために、どうすれば阻止できるのか、自由に行動していい事になっている。ましてや正式に傭兵として雇われたかどうかもわからないんじゃあ、騎士として気遣う必要はない。


「僕はもう、大火事事件のような事を人々に起こしてほしくないんだ!ゲルヴァみたいな人を知りたくないんだ!だから君の野望は、ここで阻止する!」


「やれるものならやってみろ!」


 こうして、自分の事をテロリストと名乗った謎の青年、ソームとの戦いが始まった。









 ソームは遠距離攻撃をしてくる魔法使いだった。剣で近接してくるシグマとは真逆のタイプ。しかしソームは近接用のナイフを持っているようで、ある程度応戦ができた。持っている杖も剣で斬って壊れそうにはなく、いわゆる戦い方を知っている感じがした。

 事実、向こうは一定の距離を維持する事を心掛けているようで、シグマの方が一方的に距離を詰めなければならなかった。シグマは自分も魔法を放ちながら、様子を伺い近接攻撃をする。

「はぁ……はぁ……」

 移動している、つまり走っているという事なので、ある程度の息切れはする。体力差ではシグマに分があるようだった。が、シグマもこれまでの連戦の影響で、余裕があるわけじゃない。


「なぜそこまで人のために頑張れる!?人なんて期待するだけ損するだけだろ!僕はそれで散々な目にあっているのに!」

「……」


 急にソームがまた喋り始めた。どうやら向こうは自分のために戦っているとは思っていないらしい。

「世の中の成功者なんて、ただ運がいいだけだ。僕のような人間が大半さ。なのにお前はどうして笑っていられる!?必死になれる!?世界はお前のためにあるんじゃないんだぞ!」

 はて。自分は笑っていただろうか?言われてシグマは考え込んでいた。自分は確かに城に保護され、城で育ったが、王族としてなにか良い事をされた覚えなどない。周囲の人間は自分の事を王族としては使わなかったので、義理の王子だったという自覚もない。姉弟だったのは確かだが。

「……ラムウェルとの話を聞いていたなら、僕が大火事事件の犠牲者だってわかってると思うんだけど。それでもテロをやめるつもりはないのかい?」

「当たり前だ!そんなの所詮持っている者と持たざる者の話じゃないか!僕達持たざる者はこういう事でしか存在を示せない!人から認知されないんだぞ!?そんな事、許せるわけがない!なのにお前はなぜそんなに余裕をもって堂々と……!僕達は殺しあっているんだぞ、わかっているのか!?」

 大火事事件の被害者だと理解しても、容赦なく攻撃してくるのはさすが戦争、と言った感じだ。向こうにもなにかしらの戦う理由があるから戦場にいる。ただそれだけだった。ただそれだけなのに、こんなにも衝突するのだ。


「もちろんわかってるよ」

「ならなぜ!?」


 ソームは自分がシグマからラムウェルと同じように扱われている事に気が付いていた。だから腹が立った。


「……それは僕が、ただ単に皆の事を信じているからだよ。なんとかしてくれるはずだ、ってね」


 でもそれは、シグマが優しい事はもちろん、ノーシュが掲げている死者0人を達成するためだからである。何も知らない人間にとってはバカにされていると思われても不思議じゃない。


「信じられるんじゃないよ。信じたいから信じてるだけだよ」


「信じている…………だと!?」


 ゲルヴァがきちんとノーシュの牢屋に連れられているかはわからない。逃げていて現在再逮捕中の状態になっていてもおかしくない。ランドルフ達のグループが本当に死者0人を達成したのかも、こっちじゃあ確認しようがない。戦争が終わるまで、お互いがやるべき事をするしかないのだ。信じるしかないのだ。

 これは、傭兵として個別に戦っている人間には理解されない事である。騎士団なのだから、同僚に仲間意識があるのは当然。


「……んなの……」


 それを聞いてソームは、全身をわなわなを震わせ、叫んだ。


「そんなの僕だって信じたかったさ!明るく楽しく生きられるならな!だけど子供の時から人の卑しさばかり見てきて!たまに良いのを見ても、成人する頃には当たり前のようにテロリストを志すような人はどうすればいいんだよ!?僕には何もない!でもお前は僕が欲しい全てを持ってる!不公平じゃないか!だったら少しは僕に分けてくれてもいいだろうがああああああ!」


 ソームが泣き叫びながら突進してきた。もちろん魔法を放ちながらである。ソームは自暴自棄になっていた。金をもらう、ただそれだけの事に、命を懸けなければならない国と、その必要がない国。生き方が違う、ただそれだけだけど、隣国なのだ。お互いの国柄が、それぞれに影響を及ぼす事はたびたびままある。

 シグマはソームをどう受け止めるべきか悩んでいた。自暴自棄になっているとはいえ、相手は一丁前に自分を攻撃しているのだ。どこかで落ち着かせなければならない。


「うあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」


 ガキィン!杖の攻撃を剣で守る。なんともおかしな構図だ。


「(僕は今まで、ずっとゲルヴァを探すために生きてきた。旅をしたのもそうだ。皆に動かされ、騎士になって……なのにやっと出会って、話してみたら、ただの世界に絶望していただけの人だった)」

 避けるという考えはなかった。受け止めなきゃいけない気がしたのだ。わざわざ苦手であろう近接をしてきた事もあって。

「(もちろん怒りや憎しみがないわけじゃない。だけど……彼は僕達に捕らえられたはずなのに、僕はどこか納得いかないもやもやを感じている……。ベアトリウスの事は旅で少し知ったけど……。まさかここまで当たり前のように若い人を戦わせる国だとは。僕は自分の境遇はきちんと理解している。必死に訓練をして今がある。とはいえ……彼らは本当に僕やノーシュが戦わないといけない相手なのだろうか?僕はノーシュ人……彼はベアトリウス人……。ただそれだけの理由で……もやもやの正体はこれなのか……?)」

 何かトラブルがあって、誰かを殺してしまうのはどこの国でも起こる事である。しかし戦争は大義の名のもとに容赦なく自国民や外国人を殺せるのだ。そんなさも当然に殺せる事なのだろうか?必死に戦争になる事を避けてきた場合も人もあ(い)るだろう。シグマは今のこの状況、命がけで戦っていることそのものに、当事者として疑問を感じていた。感じるのは、殺さなきゃという使命感よりも、どうか生きてくれという願いだった。


「ソーム。君にもきっと体感できる事だ。僕達は、誰かに祝福され、誰かに支えられ生きている事を」

「……」


「僕と君は、まだ他人で、今後しばらく他人のままだ。だけどいつか、またどこかで出会えたなら、君を大切に思う日がくるかもしれない。確かに僕は独りじゃない。でも君は独りだというのなら……。ラムウェル同様、僕でいいのなら友人になってあげるよ」


 シグマはまだソームの攻撃を受け止めている。受け止めながら、ソームを説得し始めた。

「僕はまだ、テロリストなんかをするよりも、良い人生がきっとある、ぐらいしか言えない。でもそれだけじゃまだ足りないんだろう?君の心は動かないんだろう?」

「(……そうだ)」


 ソームが何かを期待しているような目でシグマを見つめる。


「なら、少なくともテロはしちゃだめだよ。処刑されて死んだら、なんの事だかわからなくなっちゃうよ。僕は全ての悪を吸収できるほど強くはない。きっと闇に覆われるだろう。でも酒場で愚痴を聞くぐらいならできると思う。皆がいるんだ、だからいつでもノーシュに来てくれ!」


 カキィン!シグマは剣で振り払い、バックステップをして距離を取る。


「(皆……)」

 

 ソームはシグマがもたらすであろう人との出会いに、文字通り期待していた。持たざる者から、持つ者に変わるために。


「生きていたら、何か変わる?」


 急にソームがふるふるとすがるようにしゃべり始めた。シグマは目を丸くしたが、すぐに何を言っているのかを理解し、ゆっくり両手を広げようとする。


「僕の人生は良くなるのか?僕と君は分かり合えるのか?この戦争への参加は無駄じゃなかった?」

「……多分」

 シグマがうなづく。ソームは両手をシグマに伸ばし、掴もうとしていた。腰が曲がった老人がわずかな食料を捕まえるかのように、必死にゆっくり歩み寄って来る。


「君が良くなる事を願っているよ」


 もうあとわずかでシグマと触れ合う。そんな時だった。




 闇が訪れた。




「——何言ってるの?テロリストなんだから処刑されて終わりでしょ(笑)」


「え?」


 ドォウォーン。


「がはぁっ……!」

「ソーム!」

 ソームがシグマの後ろの方から放たれた黒い球に当たり、数メートル吹っ飛ぶ。

「おい、ソーム!しっかりしろ!」

 シグマはそれを見てすぐに走って駆け付け、状態を確認する。


「いけませんねぇ、この世界の真理を忘れるとは。悪は滅ぶ。戦争に参加してテロを起こそうとしてるんでしょう?そんな奴はそっこく死刑ですよ死刑。無罪なんてありえません。ねっ、シグマさん。あなたもそう思うでしょう?」


「あ、あなたは……!」

 

 ネイナス。ベアトリウスであった謎の冒険者。ネイナスは出会った当時のように、けらけら笑っている。少し眉毛が八の字によっている気がするが……。


「こんな死ぬべき当然のむしけらと、大火事事件を解決するため頑張ってきたあなたでは、何もかもが違う!仲良くなったらどんな悪知恵を吹き込まれるかわかったものじゃないですよ!さぁ、帰りましょう!皆が待っていますよ!」

「……」

「どうしたんですか?そんな顔して。ああ、私の事なら傭兵として参加したんですよ。あの時はベアトリウスにいましたけど、やっぱノーシュだなぁ~って思いまして!(傭兵になったのはベアトリウスでだけど)」

 シグマは目の前のこのネイナスから出されたむしけらや死刑、悪知恵という言葉が引っ掛かり歩みを止めていた。この当たり前に人を馬鹿にする感じ、人を価値があるかどうかで判断する姿勢、生き方、どうも鼻に付く。さっきから聞いていもいないのにこう思っていますよね?とべらべら話しかけてくるのだ。


「嘘をつくな」

「!」


 だからシグマは言った。お前は何を言っているのかと。今のあんたの言葉は偽り(にも程がある)だろうと。

「ノーシュはここ数十年ずっと、傭兵の募集なんてしていない。なぜきちんと勉強しているノーシュ人なら簡単にバレる嘘をつく?」

「……」

 ネイナスはシグマの話を聞きながら、きちんと説明すればよかったなこのお花畑平和主義者には、と思っている。

「それに僕はソームをむしけら扱いなんてしていない。普通に会話をしていただけだ。もう少しでテロをやめてくれるかもしれなかったのに、お前にとってはむしけら当然なのか!?」

 ネイナスに言葉をぶつけながら、シグマはだんだん怒りが込みあがっていた。それを聞いて満足したのか、だんだんネイナスの口の端がゆっくりと吊り上がる。


「ええ、むしけら当然ですよ!私はただ死ぬべきものは死ねと言ってるだけです!テロを起こすとわざわざ宣言したんですよ?なら戦争に参加している以上、殺してもいいではないですか!」


「それは違う!必要以上の殺人なんてノーシュは求めていない!昔とは違うんだ!」

 ノーシュはもちろん、ベアトリウスも。


「いや、違うのはシグマさん、あなたの方です!クズはクズのうちに殺しておくようになっただけですよ!だから周囲を見れば平和なように見える!実際は違いますけどね!」

「それはお前が勝手にやっている事だろ?少なくとも僕はもうソームに殺意を向けてはいない!出会って戦った時だけだ!というか急に出てきてなんなんだ!?何がしたいんだ、ネイナス!僕に何の用があって来た!」

「……ニィ」

 その言葉を待っていた。この心境はシグマには伝わらなかった。距離があったから。今回は出会った時からニタニタ笑っていたので、それがより躊躇に表に見えるようになったぐらいじゃあ、今の怒り心頭なシグマには心境の変化は伝わらない。


「答えろ!」

 だから叫ぶ。この後起きる事が何なのかを予想もせずに……。


「恋心ほど、見てわくわくするものはない。そう思いませんか?」


「急に何を言って……」

 一瞬、違い話題を出して油断させる作戦なのかと思った。


「シグマさん。あなたにはメイという女性の同期がいますよねぇ?」

「メイに何かしたのか!」

 当然シグマはメイの事を心配する。もちろん隣に倒れているソームの事も。

「まさか。少し会話しただけですよ。あなたはシグマさんの事が好きなんでしょう?とね」

「……は?」

 なおさらネイナスの言っている事が理解できなかった。メイと何の話をしていたんだこいつは……。


「シグマ……」


 そう思っていた時。メイがとぼとぼ歩きながらネイナスの後ろから姿を現した。どうやらランドルフ達に会い、ゲルヴァの引き渡しが終わって自分の元へ戻ろうとしていたみたいだ。そんな時にネイナスと会った……?シグマは思考を巡らせる。


「あたし、シャラちゃんが死んで良かったなんて思ってない!ライバルがいなくてよかったなんて思ってない!「あたしはただ、純粋にあなたのそばにいられればそれで……」


 メイの口から出た言葉は、恋する乙女のそれ。戦場という緊張感あふれる場所で、アウェーの空間が生成されつつあった。シグマはそれに、飲み込まれつつあった。

 さっきから驚いてばかりだが、向こうにばかり主導権を握らせてはならない。メイから何を言われようと、ネイナスを倒す。本能的にさっさと倒さなきゃまずいと、シグマは思っていた。


 シグマを含め、皆が後で思い知る事になる。このネイナスがどういう存在なのか……今まで何をしてきたのかを……。

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