第5章:誰のために13

 シグマ達は、ベリアルに言われた通りウェイジ―地帯の東を進む。変わり映えしない風景が続くが、そのうち大きな川と開けた地形が見え、そこに一人の男が経っていた……。


「ゲルヴァ……」

「……」


 だんだん近くなっていき、きちんと姿を確認した男の容姿は、シグマ達がベアトリウス城前ですれ違った人物と同じ。そう、彼こそまさにゲルヴァであった。ようやく出会えた。

「来たか……」

 ゲルヴァはしみじみと、感慨深そうにシグマ達がやってきたのを歓迎した。それを聞いて、人を殺した悪なのに何を言っているんだろうかとシグマ達は思った。

「城ですれ違ったのを覚えているな?まさかあんたが大火事事件の犯人だったとは……」

 シグマは皆を代表して前に出て言った。こっちが忘れていないのだから、そっちも忘れているはずがないだろう?と。

「くく……。俺は俺を追いかけてくる奴がお前のような若造だとは思わなかったぞ。てっきり中年のおっさんか、もう少し若い30代の奴だと思っていた」

「シグマは大火事事件の当事者よ!家族が皆亡くなった。あたしも父親が……」

「なるほど?それで敵討ちに騎士になったのか」

 ゲルヴァの一言に、メイがつい怒鳴る。大火事事件の被害者をろくに知らないその口ぶりは、メイにとって許せる物ではなかった。やった犯人自身なのになんて無関心なのか。それぐらいどうでもよかったのだろうか?どうやら、ゲルヴァは火事を起こした事自体が重要でそれ以外はどうでもよかったらしい。実際、ゲルヴァ以外火事を起こす奴なんていなかったし、シグマやノーシュからしてみれば、こいつ(ゲルヴァ)さえいなければ平和だったのに……と思っている。ゲルヴァのこの一言は、予想外かつ、不愉快だった。


「なぜあんな事をした!なぜ急に罪もない人を殺したんだ!あんたもノーシュ人だったんだろ!」

「……」


 シグマが当たり前の主張をぶつける。生存者だからこそ、言わねばならないセリフだ。

「あんたには色々聞きたい事があんねん。ベアトリウスにベリアルっていうノーシュ人がいるのも、元々はあんたが勧めたからだと、ベリアルが教えてくれたで。レドナール紛争後ベアトリウスに亡命して……。大火事事件を起こして、何を企んでんねん!各地でテロでもやる気なんか!?」

「テロね……。まぁ、似たようなものか……」

「似たようなもの?」

 アリアもつい気になって口に出てしまう。ゲルヴァは、マルクに言われて自身の火事を起こした心境を振り返っていた。12年経った今、冷静に考える事ができる。ゲルヴァは自分は国に、世界に、何か影響を与えたかっただけなのだ……と、今更ながら思っていた。自分の生まれた時代はあまり良い物ではなかったし(昔と比べてとか関係なく単純に主観として)、どいつもこいつも自分の事しか考えていなかったのは事実だった。たとえ自分の周囲(環境)だけがそういう人が多かったにしても、何か罰を与えたかったのだ。上司に愚痴を言うとか誰でもできそうな事じゃなく、何か……自分にしかできない事を……。それがたまたまアレ(大火事事件を起こす)だっただけで。


「シグマとやら。俺が大火事事件を起こしたのは、ノーシュ国民が哀れに思えたからだ」


「なんだと!?」

 成人して二十年三十年見てきた奴と、成人したばかり(二十年)の奴の景色の質と量は違う。ゲルヴァはシグマにはっきりそう言った。シグマは大人から、上から叩きつけられた気分になった。

「騎士の苦労も知らず、のうのうと過ごしている。誰のおかげであの繁栄があると思っている?騎士団教育を受けたのなら、決して甘い生活ではなかったはずだ」

「そんなのただの逆恨みじゃない!休みたかったら休めばいいのよ!」

 昔はこうだったなんてどこでも誰でも話す話題だ。それを嫌だったという理由で、辛気臭くさせるのが嫌だからって、自分の中にため込む必要はない。大火事事件を起こす道を考え、歩んだのは他ならないゲルヴァ自身だ。言い訳は通用しない。

「ああ、逆恨みだ。だが、俺の事を知り、資料やベリアルからレドナール紛争を知ったのなら、何が言いたいのかわかるはずだ。この世界は未だ、完全ではないとな」

「(サユリ……)」

 ゼルガの件。マキナの件。エドガーの件。ベアトリウスも問題でいっぱいだった。ノーシュも事前にスピアリアフォースが未然に防いでいるから平和に見えるのであって、そうではない。ゲルヴァはそう言いたいらしい。実際シグマとメイは、年齢相応の青春をきちんと十分にしたかと言われればそうじゃないし、明らかに苦労はしている。主に鍛錬という意味で、だが。

「俺も昔は若かった。この世界は素晴らしくて、色んな事が良くなり前へ進んでいる物だと思っていた。あの紛争が起こるまでは。騎士団に入ったのも、純粋に世界を良くしたいと思ったからだ」

 じゃなきゃ騎士団に入らない。ゲルヴァは素直にそう言わず、わかりきっている事をシグマ達に察しさせた。


「だがそれは違うとわかった!」


 だからやめた。今はゲルヴァの不満を言うターンだ。

「レドナール紛争後、俺は色んな所を旅した。そして気づいた。ノーシュも他と変わらないじゃないかと。隠したい事は隠し、うまくなんとかやっているに過ぎない。なのにあの都合のいい教育はなんなのかと。そう思った。哀れな洗脳教育を受けている奴らに、現実を教えて何が悪いんだ?ああ!?」

「洗脳教育、だとぉ……!?」

 セレナ親子やスピアリアフォースの皆が、自分に偽善で精神的なサポートをしたとはとても思えない。なにより自分は、シャラに言われて、シャラに頼まれて、大火事事件の謎を追おうと旅に出た。そして実際に今犯人が目の前にいる。それの何が悪いんだ?ただ騎士として、悪を滅そうとしているだけなのに。ただの勧善懲悪じゃないか。自分は何も間違えていない、なのになんで責められなきゃいけないんだ。言われてシグマは、ゲルヴァの事をエドガーのように嫌い始めていた。

「そのものじゃなくても、似たようなものだろう。騎士に入らないと何がどうなっているかわからないんだから。うまく仕事を回す事だけが正義なのか?たった30年前、他の国と似たようなものだったのに、ノーシュはあれ以降変わったんだとばかり宣伝している。貴様だって、ベアトリウスに来て俺やベリアルが亡命している事をようやく知ったただの若造に過ぎないではないか」

「……」

 若造なのはその通りだ。ただの、は違うが。シグマのような人が来た時のために訓練していたのか、ゲルヴァは口論もそこそこできるらしい。

「ベアトリウスでは餓死事件に山火事も起きている。だから似たような事をしようと思ったのさ。多少人が死ねば、ノーシュも少しは目が覚めるだろうってな!何も知らないからそう見えるんだ。少なくとも俺は、レドナール紛争後、大火事事件を起こしてよかったと思っている。12年掛かったが、きちんと俺をつきとめたんだからな!」

 火事をそもそも起こそうと思ったきっかけはベアトリウスで起きた事件を見たからだったらしい。だったら隣国が平和だったらしなかったのだろうか?シグマ達はそう思わずには言われなかった。

 この言葉は、当事者であるシグマでなければ、ランドルフとかが言われていたであろうセリフだ。誰かがそこそこ大規模な事件を起こすには、それなりの準備が必要だ。ちょっとしたルートを組んで、次々と火をつけていく。ベアトリウスで学んでしまった所もあるのだろう。


「復讐?したいならすればいい。したところで何も変わらないという事を教えてやる!」


「……んただって……。あんただって僕の事を何も知らないのに適当な事を言うなよ!僕は別に復讐のためだけに生きて来たんじゃない!」


 あんたのせいで自分の人生が半ば強制的に始まってしまった。普通の人じゃない人生を歩んでしまった。それをどうしてくれるのか。なぜこんなに怒っていても未だ堂々としていられるのか、シグマはゲルヴァの事が心底理解できなかった。

「セレナ王女、ナルセ女王、ランドルフ騎士団長にバリウス先輩、ミネアさん、ワイトさん……。皆の支えがあってここまで生きてこれたんだ!僕はあんたのせいで人生がめちゃくちゃになったのに、それを、国民が哀れに思えたから、だと!?僕達ノーシュ人は哀れなんかじゃない!」

 大火事事件は確かに起きた。死傷者も出た。でも今はきちんと普通の日常をシグマやメイも含め皆が謳歌している。たかが事件、されど事件。首都がちょっと火事が起きたぐらいで、何かを引きずるわけがない。シグマでさえ自分で大火事事件を終わらせるためにゲルヴァの前にやってきたのだから。


「亡命してノーシュの今をどうわかっているって言うんだ!大火事事件が起きた時、既に王位はセレナ王女が即位していたんだ!」


「何ッ!?」

「シグマ……」

「(あの娘が?ウェイザーの子だというのはなんとなくわかったが、王になっているのはてっきりナルセの方だとばかり……)」

 ゲルヴァはシグマから予想外の一言を言われて驚愕する。少し引いて、狼狽えたかのように見えたが、すぐに冷静さを取り戻す。

「(チッ……カモフラージュか。まさか6歳の小娘が王をやっているなど、馬鹿馬鹿しくてありえないものな……)」

 ナルセが女王としてサポートしているのは当然。しかし王という特権かつ特殊な立ち位置だからこそ、今のノーシュのような国の運営をする事ができる。大火事事件が起きる前から戦後の時代を他の国々から金や物資をもらいながら何とか生きていたノーシュは、行き詰まっている事が目に見えたいたため、それをなんとかするためにいずれ【国家改編計画】を実行する事が当時から噂されていた。それをウェイザー国王の時代に、【国家改造計画】へと改め、実行に移した。たまたま、大火事事件と重なってしまったが。

 ほんと、あの事件さえ起きなければ、ノーシュの新たな戦略も表に出ず、裏で着実に進んでいたはずなのだ。こうして表に出てしまったのは、ウェイザー国王から任されたランドルフにとっては惜しい事だろう。3年間で調査を急に打ち切ったのも、この計画を進めるためだった。

「僕も教えられたから偉そうな事は言えないけど!そもそもセレナ王女を早めに王に即位させる計画を考えたのは、ウェイザー前国王だ!大火事事件を起こした後、すぐに消えたあんたがあの後どうなったのかなんてわかるわけないよな!?」

「ウェイザーが!?(あいつ……レドナール紛争の後始末で体を壊したのに、そんな計画を練る余裕があったのか?てっきりまた数年は混乱するものと思っていたのに……)」

 国家改造計画の原案自体は、レドナール紛争が起きる前からウェイザー国王と数名の大臣の間で話されていた。きちんとした計画書にするには、そこからまた数年が掛かった。発表と同時に行われるこの計画は、一般人は知る必要がないため、騎士団だけがその存在を認知していた。辞めて去ったゲルヴァは、知らなくて当然なのである。もう少しいたらきちんと説明を聞く事が出来たのだが。ただでさえレドナール紛争のせいで、計画を早めようとウェイザー国王は思ったのだから。

「補足しておくと、確かにウェイザー前国王が亡くなられた後、今後のノーシュを心配する声はあった。そして実際、最初の3年はうまくいってるかどうかよくわからなかった。ナルセ女王がウェイザー前国王の代わりに王権を握っていたのは確かやしな。だが、数年後はごらんの通りや。あんたこそ何も知らないやないか。大火事事件は、そもそもランドルフ騎士団長が、シグマ本人に再調査させるためにわざと途中で打ち切ったんや」

「(ランドルフ……。ベリアルがたまにいう、俺の後をついだという奴か……)」

 ベリアルはノーシュの情報を、ベアトリウスの新聞や伝書鳩などで入手している。今のノーシュが若い奴らしかいないという情報は、ベリアルにとっても斬新な事として受け止められていた。

「もちろん、調査そのものはきちんとやった。犯人は逃してしまった。しかしベアトリウス帝国にいるのは間違いない。実際その通りだったやないか」

 12年前の当時の調査は、ノーシュの実力不足ではなく、きちんとベアトリウスに逃げたという情報を認識した状態でランドルフが中断という決断を独自に行った。だからこそ、12年ぶりの2回目のこの調査はうまくいったのだ。殆ど表に出てこないとはいえ、ランドルフはここまで想定済みだろう。それぞれの感情的な反応も含め。

「……。くくく……なるほど?確かに俺がベアトリウスで隠居している間、ノーシュは変化をしていたようだな」

 ばれない事を優先に今まで生きていたゲルヴァは、シグマ達の話を聞いて、初めて少しだけ後悔した。


「だが、それでも甘い!この戦争で、ベアトリウスの貧困層の何人かは金欲しさに一時的に傭兵になった。彼らが死ぬ事を良しとしていいのか?」


「……は?ベアトリウスでは普通の民間人を徴兵しているのか!?」

「……」

 アリアがばつが悪そうな顔をしてシグマから目をそらす。それを見てシグマは、すぐに本当の事なのかと理解する。

「また人がいないからって最もらしい理由で補給して……ね。わざとなのよ。生きて帰ってこれたらたくさん金をやる。それで自由に生きろ。その代わり少しは国のために働け。人が逃げてるのをうまく隠しつつ、どうしようもない人に戦いに行かせているだけよ」

 説明できないアリアの代わりに、退役軍人として問題を直視した事があるかもしれないアイカがシグマに言う。

「最近はその事がバレて数こそ少ないけど、それが気づいていない人は引っかかってしまう。特に子供は世の中の事が良くわからないから、搾取の対象になりやすいしね」

「それを教えてどうするっていうんだ!僕は自分の意志で騎士になったんだぞ!」

 無理強いしているわけじゃない。だからなにがおかしい!とシグマが言う。


「ふん、これだから成人したばかりの若い奴は……」


 それを聞いて、ゲルヴァがやっぱりわかっていない、とシグマの評価を心の中で下した。

「その傭兵と、お前達は戦う事になるし、現に兵士は戦っているだろう。そんな事もわからないのか?ベアトリウスだけじゃない。自分達の国の問題を、なんとかして解決したいが、解決できない現状がある。色々な理由でな。そして解決できないからこそ、諦めたり、代替したり、一時しのぎをしている。……お前のように諦めない奴も確かにいるな。俺は哀れで無駄だと思っているが。知りたいならこの戦争が終わった後で、旅でも何でもすればいい。好きなだけ調べろ。だが、決して俺の事は馬鹿にできなくなるぞ。俺はそれで絶望したんだからな」

 ゲルヴァが旅をして見て感じたものは、ノーシュがとかベアトリウスがとかじゃなく、全ての人間の問題である、人の限界についてだった。政治と戦闘と慈愛。これらを併せ持つ人などそう多くいない。だからこそ数だけは多く持とうとしているが、それだと結局質には勝てない。全員が全員都合よく動くわけじゃない。ゲルヴァの感想は今更で、そしてある意味当然だった。


「絶望したからって……犯罪を犯していい理由にはならない!あんたにはあんたの正義があったとしても、支持されなければなんの意味もない!僕は強くなって、皆を助け、救う!それが亡くなったシャラとの大切な約束だ!皆のために生きる、それが僕の選んだ道だ!僕は世界の絶望なんかに負けたりしない!」


「威勢は良いな。だが、その威勢は現実を見てから言う物だ!口でならなんとでも言える!」


「いいえ、まずは口に出す事からよ。昔決意した事は、そう簡単に忘れる物じゃないから。ましてや人生に影響を与えた物ならね」

「そうよ。こんな茶番な戦争なんて、本来あってはならない。私達はあんたを捕まえるために戦争に参加したなんて思いたくない。私達はシグマという大切な友人のために参加したんだから」

「なんのためにフェルミナ教があると思っているんです。私達は昔から現実をしっかり見ています。あなたからわざわざ言われる必要はありません」

「俺はお前に何かされたわけではないから、恨みはない。だが、目指すべき理想は同じなのに、たまにお前のように絶望して道を外れたり、悪を憎んでいるはずなのに悪に染まる奴がいる。それはちょっと違うんじゃないかと俺は思っている。お前が少しでも理想を想い、考えた事があるなら、簡単にあきらめちゃいけない事だってわかると思うんだがな。俺達は同じ人間。味方になれたかも知れないのにそれが叶わないのは、ただただ悲しい事だ」

 恋人(サユリ)がゼルガに殺されても、アリアのために協力し、今のシグマに協力しているルーカスが、だからこそ言える言葉をゲルヴァにぶつける。もっとも、ゲルヴァはルーカスのサユリの事など知っていないのだが……。

「大人として言いたい事があるのはわかった。わいも情報屋や、世の中の事は良く知っとる。だからシグマみたいな純粋な奴を見てると、まぶしいって思うんや。そしてそのまぶしさをどうかずっと保っていてほしいって思うんや。お前はどうやら、悪を見すぎたらしいな。この世界で大切なのは光という名の希望なんや。諦めなければ道は開ける。その馬鹿馬鹿しい理想論を信じられるかどうかから始まるんや。シグマは信じてるで?もちろん、わいもな」

「私達もです」

「……っ」

 マイニィでさえ、強がる事はできる。この、良い連帯ともいうべき現象を見たのは、ゲルヴァは騎士団時代の新人の時以来だった。だがゲルヴァはまだたったこれだけの事で、国家改造計画が成功した事を認めたくはなかった。

「ランドルフ騎士団長に会ったら、色々話してみるといい。あの人はノーシュの今の全てを知ってる。昔の事もだ。僕にはまだ寄り添えない事も、あの人なら多少あんたに配慮した事を言ってくれるだろうさ」

 今の自分を作り上げたのはランドルフ。今こうして自分があんたの前にいるのもランドルフ。後は本人に言ってくれ。シグマはシャラのためにここにいる。だから後はあんた(ゲルヴァ)を倒して捕まえるだけだ。


「だからそのために!事情聴取をするという意味でも、ゲルヴァ!お前を倒して、ノーシュに連れて帰る!全てを話してもらうぞ!」


「こっちこそ教えてあげるわ!あたし達はあんたに狼狽えるほど甘ちゃんじゃない。きちんと教育は受けている。この戦争さえ終われば晴れてスピアリアフォース入りなんだから。ノーシュのためには思っていなくても、世界のためには思っているのなら、その役目、あたし達が引き継ぐわ!だから安心して、牢屋に入れられなさい!」

「(自分がもう少し若ければ、少しは心に響いたのかもな……)」

 ゲルヴァは大火事事件を起こした後悔が少し強くなった。自分が持っていた部下は、こんな事いう奴らじゃなかった。どいつも良くも悪くも普通だった。だからこそ面白くなかったのだろうか?自分はただ覚醒している人を見たかっただけなのだろうか?ゲルヴァの自答は続く。


「事情聴取は興味あるが、それは牢屋ではなく、謁見の間でだ。言いたい事はわかった。ならば勝って証明して見せろ!」


「言われなくても!皆、行くよ!」

「「「うん!」 」」

「これで、大火事事件は終わらせるんだ!」

 シグマ達とゲルヴァの、戦いが始まった。










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 ゲルヴァとの戦いは、初めから前衛と後衛に分かれた戦いになった。ゲルヴァは常に距離を測りながら、走り回って立ち回っている。数の振りを立ち回りでカバーしようとしていた。

 マイニィやイリーナなどの魔法を放つメンバーはゲルヴァにやられないよう自身もたまに攻撃を回避しないといけない時がある。流石騎士団経験者、その実力は本物だった。持ってきた物資も十二分に使い、全然体力が減っているように見えない。ダメージは与えているのに……。

「どうした!?その程度か!」

「なにを……!」

「魔法の規模がそこそこ大きいのが厄介やな……森の中だっていうのに容赦ない」

「やっぱり最初から本気か……」

 マルクとルーカスが作戦を考えている。攻撃しない事はあっても、歩みを止める事はできない戦闘は皆初めてだった。

 しかし人間には死角というものがあり、どうしても気配だけで察知しなければならない範囲がある。アリアが背後を、アイカが弓で応戦し、マルクやルーカスだけに意識を向けずに分散させる事に成功していた。

「ちっ……。良い協力者を持ったなぁ、シグマとやら」

「……」

「お前の方が弱くて助かったよ」

 エドガーにも言われたセリフだ。自分の相手をするのは容易いと。そんな単純な攻撃はしていないはずだが、どうしても見切れてしまうらしい。そこでシグマは、自分も大技を放つ事に決めた。今まで皆を巻き込みたくなくて自主的に封印していた事だ。戦場である事や相手が大火事事件の犯人である事、森の中でも比較的広い事から、文字通り爆発して火事になる心配はないと見た。

「(なにかすごい事をしないと舐められるっていうのなら……やってやる!)」

 シグマはバレないように、しばらく戦いながら様子を見ていた。


 戦闘中盤、シグマ達も物資を使い始める。ゲルヴァはその物資を使い物にならなくするために破壊しようと後衛を中心に狙っていた。特に魔法は遠距離から位置を指定できるので、前衛だろうと意味がない。

「くそ!こんなに魔法を放っているなら魔力が切れてもおかしくないはずなのに……!」

 明らかな戦術の差が見て取れる。マルクとルーカスが戦闘し始めから作戦を練っていたのは正解だった。マルクとルーカスはゲルヴァの相手をするため本人に接近。剣と銃で牽制をする。それをゲルヴァは何度も応対してきたので、何度目かの封殺をする。そこにアリアとアイカの迎撃があるのだが、そこに今回はマルクとルーカスも加勢した。

「なにっ!?……ぐあっ!」

 単純な戦略だった。火力を上げるために自身も参加する。条件はできるだけバレずに行う事。マルクは小さい魔法弾を銃に込め連射し、ルーカスは自身の剣を投げてまで、肉弾戦を仕掛けた。

「よし!前よりはダメージが高いはずだ」

「……やるな。だが!」


 ゴゥワッ!


 周囲のあらゆる無機物有機物が光の玉となってゲルヴァの元に集う。それをゲルヴァは吸収した。パワーアップしたのだと誰もが理解した。

「こんな方法が?」

 驚きながら、ゲルヴァの物資が底をつきかけているのをアイカは確認する。それを皆に言おうとしたら――

「ッ!」

 ドンッ!ゲルヴァがアイカの元へ接近し剣で一閃しようとした。

「!?」

 アイカは全速力で避ける。なんとかギリギリの所で回避したようだ。多少体は切れて血が出てしまったが。

「マナによる回復だとあそこまで強くなるんか……限界突破しとるやろあいつ」

 甘く見ていた。まさか相手が裏技を用意していたとは。何度もやられるわけにはいかない、早期決戦をしようとシグマ達は一斉攻撃をし始める。それをゲルヴァは避けながら攻撃してくるので、自ずと防御と攻撃同時で行える、武器による阻止が中心になった。アリアは魔法による属性付与で肉弾戦もしている。

 攻撃は防げるが、こっちの攻撃は避けれてしまう。たまに範囲魔法が当たるが、それだけだ。そこまでダメージを与えられていない。

「このまま長期戦に持ち込まれたら構わん、こうなったらこっちも大技や!」

「でも魔法は急には放てないでしょ!まず何をするつもりなのよ!」

「んなもんフィールドや!わい達全員が影響する事をするんや!」

 ゲルヴァは攻撃してくる人を優先的に狙い、阻止してこようとする。待ちのように見えるが、どっちも攻撃攻撃のオフェンスなのだ。避けているからダメージも食らっていないという、攻撃は最大の防御を自身の身で表している。

「フィールドって……」

「……」

 言われてメイ達は、雷、風、雨、滑る氷を生み出し、障害物のように周囲に地帯としてばらまいた。これでゲルヴァは上空以外で自由に移動できることはできない。

「わい達も動きにくくなるが、少なくとも攻撃される頻度は減るやろ」

 この状態で大技を放たなくてはならない。幸いな事に、その準備(各属性地帯)はできている。これを大きな球なり連射弾なりすれば……。


 ガラガラガガガガガガ!!!


 ゲルヴァが皆が作った罠地帯を魔法で壊し始めた。時間がない。

「くそっ、やるしかない!」


「「「や(は)ああああああああああああ!」」」


 ゲルヴァが魔法で罠地帯を打ち消すのを阻止するために、こっちも魔法でその攻撃を阻止する。あらゆる攻撃の魔法が一か所に集まった結果、空中で爆発し、そこを中心に大きな衝撃風が吹く。

「くっ、どうなった!?」

 ルーカスが何とか前に出ようとする。

 その時だった。


「メテオストライク!」


 シグマの声。シグマは爆発が起こった現場から少し離れた所にいた。川の近くにいる。シグマの真上、かなりの高さにある直径3メートルぐらいのそこそこ大きい岩が、炎をまとってゲルヴァに追突しようとしていた。

「なにっ!?」

 ゲルヴァは爆風で身動きが取れていない。皆が設置した罠地帯もまだいくつか残っている。これは!

「皆、今よ!」

 勝機!アリアの合図で各自できる攻撃をする。隕石が落ちるぎりぎりまで近接で殴る者、ちょっとした魔法弾を放つ者、回復をする者……。ゲルヴァがその場からあまり動けなければいい、隕石が当たるまで持ちこたえれば……!


 隕石と衝突したかどうかの所で突如ゲルヴァと隕石の周囲が光る。必然的にで目をつむる事になったシグマ達は、ゲルヴァがきちんと隕石に当たったかどうか、よく確認できなかった。



 

 そして、爆風が収まり、砂煙や嵐雲も去って鎮まる森の中、一人……気絶して倒れていた者がいた。


 ゲルヴァだった。

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