第5章:誰のために12
キンキンッ!ザシュッ!ズババババッ!
自分達を発見したベアトリウス軍兵士達を迎え撃ち、気絶させるシグマ達。懸命にゲルヴァを探しているが、どこにいるのか見つけられていなかった。
「はぁ……はぁ……。流石に数が多い……!」
場所も相まって、目くらましのように見える。しかし奴は、マキナからの情報でこの戦場に参加している事が判明している。ノーシュと戦うためだけに。
「まだゲルヴァは見つけていないか……。しかし無駄に体力が削られちゃ困る。慎重に行くぞ」
「あいつ、必ずいるって亡命した時にマキナから言われたけど、どこにおんねん!向こうの陣地にいるんか?」
「それを想定して動いた方が良いでしょうね……」
「チッ……」
奴がかなり後ろから遠くを眺めているのは間違いないだろう。自分の存在がばれたから待っているのか。だとしたらベアトリウス兵士達を倒しながら進む以上、誰が生き残っているのか目立ちやすい状態となる。発見しやすいが、その分得体が知れないという事でもある。生き延びているという事だから。
「——見つけたぜ、お前ら!」
ウェイジ―地帯の奥(ベアトリウス側)に進もうとした時。聞き覚えのある声が聞こえた。
「お前は!」
「ベリアルにエドガー!」
「鉢合わせしちゃいましたね……」
自分達を見つけてわざわざやってきたらしい。似たような背景を持つ若者がそれぞれの国を代表して立っている。しかしお互いに戦う理由はない。どちらか死ねば大問題だ。
「……お前達とは戦う理由はないんだが、エドガーがどうしてもと言うんでな」
ベリアルが無心で答える。上司として仕方なくという事らしい。確かに、二人を見比べてみれば明らかにエドガーだけやる気満々で鼻息が荒いように見える。
「……ゲルヴァがノーシュの軍人だという事を、ハイネさんからレドナール紛争を語るついでに知った。城で会った時はまだよくわからなかったけど、ノーシュに戻って調べたらお前もあの紛争経験者らしいな、ベリアル!」
「……」
「……」
戦後の時代を代表する事件であるあの紛争は、ノーシュの若い人達でも社会的事件として多くの人が知っている。当事者として完全なベアトリウス軍人になっているノーシュ人(同胞)を知ってしまった以上、無視するわけにはいかなかった。たとえ今はゲルヴァの方を優先していたとしても。
「ああ……俺も当事者だったさ」
「師匠……言っちゃっていいんですか?」
「向こうが気づいてしまったのなら言うしかない。資料にはきちんと残ってあるから隠しても無駄だ」
「そうですか……」
エドガーは相手がノーシュ人であっても心を許した人なら連れ添うらしい。ベアトリウスであまり良い経験をせずに育ったエドガーは、話したら必ず内容を聞いてくれるベリアルをありがたい存在だと認識していた。
「ならなんであんたもベアトリウス帝国にいるんだ!そんな事する必要はないだろ!」
そう、そしてエドガーのベリアルに対するこの従順な姿勢は、シグマがランドルフに対する姿勢と似すぎている。ベリアルが本来ノーシュ人のまま、シグマとメイの上司だった可能性もあるのだ。シグマからしたらあまりいい気分ではない。
「ふんっ……何も知らない若造が」
「何!?」
ベリアルは過去を掘り返されたくないのか、シグマの話に不機嫌に返した。シグマは驚いたが、まだ怒りの方が強い。なんでそっちにいるんだ、と。
「当時の事を調べたならわかるはずだ。俺とベリアルは長く続いた戦国時代の最後の世代。丁度お前達が生まれたぐらいからようやく平和な時代になった。だが俺達からしてみれば、今も昔もそこまで大して変わっていない。人は相変わらず戦争をする生き物だ。それは
「確かに……ウェイザー前国王が亡くなったり、そのせいで娘のセレナ王女が王の座についたけど……」
レドナール紛争から大火事事件へは、直で繋がっている。登場人物を知らないと詳しくはわからないが、あの紛争のせいで、順調に復興していたはずのノーシュは少し国内の情勢に巻き込まれ、人もあまりない中自分達で立て直さなくてはならない状態になった。セレナも、ナルセ女王も、大火事事件が起きてシグマが精神的に回復するまで、忙しく働いたのだ。なによりシグマとメイは、当事者としてそれを近くで見ていた。子供の時は何も知らなくても、大人になったら知らなくてはならない。戦場へはいけない二人に代わって、ベリアル(とゲルヴァ)にはどうしても言いたい事があるのだ。
「ほう?今ノーシュはそうなっているのか」
「しまった!」
つい自分達の情報を言ってしまって、悔しがるメイ。昔はノーシュ人(同胞)でも今はベアトリウス(外国)人だという事を忘れてはいけない。
「何も知らないのなら教えてやる。愛国者教育を多少受けたようだが、ノーシュもベアトリウス帝国と大して変わらん。たまたま平和な時代にお前達が生まれただけだ」
「それじゃああんたがベアトリウスにいる理由はなんなんだ」
完全に心がベアトリウス人に染まったかのような言葉だ。実際そうなのだが、全然自分達に配慮しない本音の言葉を聞いて、シグマも心の中でこの人には遠慮は必要ないと決断しようとしていた。
「はんっ、そんなの、ノーシュよりも過ごしやすいからに決まっている。俺はゲルヴァと違って完全にノーシュを捨てたわけじゃない。お前達から見れば売国奴当然だろうけどな」
「ええ、売国奴ですよ。だってベアトリウス軍にいるじゃないですか」
イリーナが正論を言う。ベアトリウス人として生きているのに何をほざくのかと。全くもってその通りである。
「ああ、そうさ。軍人さ。 俺はあのレドナール紛争を経験して、自分のつくべき職は騎士ではなく、軍人だったと気づいたのさ。だからノーシュから消えた」
「やっている事は同じなのに国で呼び方が違う理由に、きちんとした意味があるって言いたいわけ?」
「(ゲルヴァが大火事事件を起こしたのは解せないが……)」
ベリアルがシグマ達に説明していない事。それは、ゲルヴァが起こした大火事事件がベリアルにとって全く予想外の出来事で、これに関してはゲルヴァの事を完全に非難している事だ。あんな理不尽で腹が立つだけの事、善良な市民(騎士)として生きてきたベリアルにとって許されるものではなかった。だからシグマにゲルヴァの事を言われて、狼狽したのである。
「——大火事事件を経験したならわかるはずだ。国の騎士なんてものは、元々愛国者にしか務まらないという事を。そして、そうであるがゆえにその努力を踏みにじられたら激しい怒りを覚えるという事な!」
「何か、あったと?」
シグマの言い方が優しくなる。ベリアルはレドナール紛争で経験した事を嫌々思い出しながら、シグマ達に自分の言い分を主張していた。もちろん、せっかく気持ちよく忘れていた事を思い出させやがってと思いながら。
「……。俺自身の事だ。お前には関係のない事さ」
そして一息はいて、自分が冷静である事を確認した後、ベリアルは話を続けた。
「——ゲルヴァはあの紛争後元々辞めるつもりだった。しかし俺は、
「ノーシュの話はそれで終わり?じゃあ今度はあたしからよ」
シグマはあの件とは?と思ったが、近くにいたアイカがベリアルに話しかけた事で、そっちに意識が言ってしまう。どうしても言いたかったようだ。
「マキナが亡命した事はそっちも聞き届いてるはずよね?ネールはどうしたの!?あたしの友人になんて事させるのよ!」
ベアトリウスの軍人なら誰でもよかったようで、同じベアトリウス人として当然の感情をベリアルにぶつける。まさか大火事事件の決着の仕方がこうだとは退役軍人のアイカでも思っていなかったようだ。
「そいつは災難だったな。だが、全てはゲルヴァのせいだ。文句は奴に言え。俺もエドガーも、行けと言われたから戦場にいるに過ぎん」
なんで個人的な引き渡しに自分達がいいかなくてはならないんだ、とは向こうも思っていたらしい。好戦的な奴が多いかと思っていたが、冷静に考える事はできるようだ。しかしなぜ戦う事に対して肯定的なのか。実際に戦場に出てきてみれば、エドガーのように個人的な理由で戦おうとしている。これがベアトリウス人だと言われればそれまでだが、相手が死のうがどうでもいいと思っているのは憤慨だ。やはりベアトリウス軍は独自行動が多いように感じる、とシグマ達は思っていた。
「はっ、拒否権無いのは流石帝国って感じやな」
「……」
ベリアルは拒否はしたのだが、と言いたかったが結果的には同じなのでややこしくなる事は言わない事にした。
「愛国者というのは都合よく国に利用されるものだ。むやみやたらと
今のベアトリウスの軍人の中で一番まじめに働いているのは間違いなくマキナなので、基本冷静なベリアルは同情して自分の居場所であるベアトリウスに対して少し嘆いていた。
「あたしが言いたいのは少しでも手助けしたって事よ!あたしは辞めた方が良いって思ったから辞めたのであって、マキナの負担を増やすために辞めたんじゃないのよ!」
そしてそれは元同僚であるアイカにとって、なにもしてあげなかったのかというメッセージとして受け止められた。
「もちろんしたとも!」
言われてベリアルはすぐに否定する。ベリアルは軍人としてベアトリウスに迎え入れてもらった以上、きちんと仕事はするのをモットーにしていた。じゃないと首にされるだろうし、なにより自分の良心が許さない。
「ならなんで……。なんで亡命なんかするのよ!ベアトリウス帝国がどうなると思ってるの!」
「……」
「アイカさん……」
昔の負の歴史を知っているからこそ、なるべく無駄な死傷者は出さないように努めて来たのではないのか。働いていた時(マキナは今もだが)、もう昔のような時代ではないと、何度帝王に言ってきた?それが今このように現実として否定され、阻止する事が出来なかったというメッセージを受け止めなくてはいけなくなったアイカは、わかりやすいぐらい悔しがった。
「まぁ、だからあたしやルーカス、そしてアイカは、ベアトリウスの事を知ってるからこそ、こうやって軍には所属せず自由に生きているわけだしね。その結果、ノーシュ人を手助けする事もあるわ」
ポンポン、とアイカの肩をゆすって慰めながらアリアが言う。ベアトリウスは二分化されている状態だった。
「戦争なんだ。後の事は戦いながら話そうじゃないか」
「ふっ、確かにな……」
今まで本題とは違う話をしていたな、と今更ながら思ったベリアルが、ルーカスの言葉を聞いて剣を抜きシグマ達に向ける。
「シグマ……だっけか。お前に言いたい事がある」
「……」
エドガーがベリアルよりも前に出て、なによりシグマ個人の方を向いて急に話し始めた。
「俺はお前のような皆で仲良くうまくやっていこうって思ってる、平和主義優男が大っ嫌いだ。俺と正反対だからな。世の中はやるかやられるかだ。強さこそ全て。それ以外の物は、後でどうとでもなる。だがまずは強くなきゃ意味がない!だから俺は軍人になり、ベアトリウス軍に入った」
ダグラスで人が死ぬか、犯罪者になるか、おびえて暮らすかの三択しかない状況で生きてきたエドガーは、子供時代の時は何としてでも成人になるのが目標であり目的だった。合間に剣で鍛錬をしていたが、日々生きるのに精いっぱいであまりできていなかった。ベリアルに指導されているのは軍人として相応の実力を持つべきだから、というのもそうだが、個人的な理由で早く馬鹿にされない状態になりたい、という気持ちもあった。
「お前はどうなんだ、ええ!?言いたい事は言った。次はてめーの番だ」
「……」
それを、ある日城でシグマ達に出会って、自分は城の中できちんと教えられえました、大火事事件も精神的にサポートされました、なんて言われたら一人孤独に生存戦争をしていたエドガーにとって、似たような事情で育った同類でも温室育ち扱いになる。あんな奴が自分と互角か、環境的に少し上かなんて、エドガーは認めたくなかった。
「エドガー。僕もお前の事は嫌いだよ」
言われてシグマは、自分も近づくべきだろうと思い、少し皆から前に出てエドガーと対峙した。剣を構えながら。
「話し方、上から目線、自信過剰で、低俗だ。もしあんたが典型的なベアトリウス人なら、正直あまり関わりたくないね。短所がたくさんあるのに、ベリアルっていう自分よりも上の人間にはプライドも無く媚びへつらって……。わざと怒らせたいのかと思ってるよ」
「……はっ。やっぱり当初から認識のずれはないみたいだな」
こんな場所で本音を言い合うのは癪だが、それでも言えてよかった、と二人は思っていた。喧嘩しそうになるのをぎりぎり抑えられた二人だ、まだまだこの程度じゃないだろう。今のうちに言えるだけ言わなければ。お互いやるべき事があるのだから(ゲルヴァと鍛錬)。
「お互い嫌いな事がわかったらなおの事だ。これで容赦なく攻撃できるだろ。お互いにな。派手にやろうじゃねえか、戦争なんだからよぉ!」
「僕達はゲルヴァに用があるんだ。こんな所で立ち止まってるわけにはいかない!」
ヒャハハハハハァ!と生存力ともいうべきエドガーの恐ろしいまでのエネルギーを感じ、威圧されるシグマ達。だが皆一歩も引いていなかった。そう、のまれたらいけないのだ。
「負けたら事情聴取されるつもりはあるんだろうな?」
「約束しよう。だが、奴(ゲルヴァ)一人だけで充分のはずだ。全てを知っているからな……」
「そうか……」
年上として、冷静に対応を心掛けているルーカスとベリアルが、戦い後の話をちょろっと取り付ける。二人を死なせるつもりはないのだ、どこかで強制的にやめさせなきゃならない。しかし少しの間は、好きにさせよう、とルーカスとベリアルは思っていた。
ベリアルとエドガーの戦いは、思ったよりも苦戦する羽目になった。エドガーの猪突猛進な攻撃を、経験豊富なベリアルが的確なサポートで補い、荒れ狂う嵐のように二撃目三撃目と襲い掛かる。マイニィやイリーナの遠距離メンバーの魔法攻撃は殆ど交わされ、近づけないようにルーカスやアイカが止める形になっていた。
ベリアルはシグマ以外のほぼ全てを相手にしているため、戦力差では不利なのに近接ができる時はきちんとしてこようとするので、注意しておかなければならない。向こうが放つ魔法攻撃も基本シグマ達は避けるので、結果的に戦い方が似る形になった。理由はもちろん、シグマとエドガーの一騎打ちをしているからだ(たまに支援攻撃あり)。
「うぉおおおおおおおおおお!」
「くっ!」
剣と剣が重なり、音がなる。どちらも引こうとしない。距離を取ったのはシグマの方、魔法で火の玉を放った後、居合斬りの構えになってダッシュ攻撃をした。しかし避けられ、近くにあった岩と木を使い、高く跳んだエドガーがシグマに魔法と落下攻撃を放つ。魔法は避けたシグマだったが、落下攻撃は最初からシグマ目当てだったようで、ベリアルの支援の風魔法も乗っかり、方向もずれず、速度も上がってやってきた。
「やあああああああ!」
シグマはそれを大ぶりの一回転横切りで対処し、片手でもう一度魔法弾を放つ。エドガーはもろに食らったが、ぴくりともしない。肉を切らせて骨を断つ。バーサーカー状態だった。
「全く腹が立つ事だぜ、甘ちゃんなくせに力はるなんてよぉ!」
「そっちこそ、ベリアルさえいなければそこまで強くないくせに!」
手数が多いのはシグマ達の方。長期戦になっても回復できる。それをわかっているからこそ、ベリアルとエドガーはお互いに定期的に大技を放ってくる。シグマ達以外はベリアルをシグマに行かせないようにするので精一杯だった。ただでさえ奴(ベリアル)はシグマとエドガーの方を見ながら戦っていたから。
間違いなくこの中で実力が一番あるのはベリアルで、二人対八人なのにこっちが微有利という状況。たった一人でどのくらいの戦力を補っているのか、シグマ達は考えたくはなかった。もちろん騎士と軍人を経験している現役と、新人、協力者、退役の玉石混合では互角になってもおかしくはだろうが……それでもだ。
「はっ、たあ!っせぁ!」
シグマは今まで覚えた魔法と剣技を駆使して、エドガーに立ち向かっていた。頭の片隅にあるゲルヴァの事を少し忘れてしまうぐらいには、エドガーとベリアルは手ごわかったし、熱中した。
しかし、この戦いでも終わりがやって来る。途中から明らかにエドガーが脱力してきたからだ。
それを見て、シグマ達はエドガーに集中攻撃し、途中から止めに入ったベリアルであったが、最終的にエドガーが倒れ、四つん這いになり、気絶寸前になった所で、シグマ含む皆が静止した。
「僕達の、勝ちだ」
自分達はこれからゲルヴァと戦うのだ。体力は残しておきたい。しかし、前哨戦だというのにかなり減らされたのは事実だった。持ちこたえる事はできるだろうか……。
「……ゲルヴァの居場所を知っていたら教えてもらおうか」
「……奴はもう少し北東に行った。ここからだと北よりも東の方が遠い」
ベリアルは素直にゲルヴァの居場所を話した。探してもいなかったが、これで本番に望める。
「本人からか?」
「ああ。準備している時は何もなかったのに、今日この戦場で会って一言だけな……」
「……」
ばったり会って、一緒に行こうと提案しようとしたら、一方的に自分の待機場所を言って去っていったのだ。ベリアルはそれを見て、悪い意味で相変わらずだなと思っていたのだ。
「行こう。この戦争の目的は奴と出会い、勝つ事なんだから」
「ええ。まだ始まってもいないわ」
「……。それじゃ、また……」
四つん這いになって、何とか倒れず耐えているエドガーを横目に、二人に別れの挨拶だけを言って、シグマ達は去っていった。勝った以上、考えるべき事はゲルヴァの事だ。エドガーとはまた何かあるかもしれないが、今はどうでもいい。
「師匠……。俺……悔しいっす!絶対勝てると思ってたのに……!」
自分がベリアルというブーストを使っている事ぐらい理解している。しかしそうじゃない。戦場で戦っている以上、勝ちは勝ち。相手を倒させればいいのだ。不利なら逃げていいのだから。初めての戦場で、初めての合法的な相手との戦い。傷がついたって構わないその姿勢は、眺めた奴じゃないと良さはわからない。エドガーの純粋な子供っぽいがむしゃらは、幼稚だけどもどこか可能性をベリアルに感じさせていた。
「まぁ、もし俺達が勝ててもシグマだけは行かせてただろうしな……」
ベリアルにとっては、良い発見しかなかった戦いだった。今はもう完全にベアトリウス人だというのに、ノーシュは今でも新人をきちんと育て上げる国力がある。自分は見ての通りエドガー一人で精いっぱいだというのに。なにより、ここ数年部下の育成しかやってこなかったベリアルにとって、自分の事をあそこまで動かし(てくれ)た協力者達には感嘆の思いだった。良い運動になった。
「次こそは!次もし戦う時はタイマンで!勝つ!」
「お前のその純粋さだけは褒めてるよ……」
ベリアルはエドガーを肩に担ぎ、空を見ながら、清々しい気持ちで、拠点へと戻っていった……。
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一方、ランドルフ達やシグマ達がベアトリウスの軍人達と戦っている最中、ワイトの方は。
「見つけましたよ」
「!」
「ここで何をしているんですか?なぜあなたはこの戦場で戦うわけでもなく、うろうろしているんです?」
近くではっきり見た事で、相手がノーシュ人でもベアトリウス人でもない事がわかる。完全に部外者だ。しかし、服装が村人っぽくない。どこか戦闘向けだ。この見た目の情報だけで、相手が多少戦い慣れている事がわかる。もちろん、自分より上かもしれないという可能性も考えなけれならない。
「……やだなぁ、僕はただのベアトリウス人で—―」
「とぼけないでください。私はノーシュ人ですよ?なら私と戦うべきでしょう、今は戦争をしているのですから」
「……ニヤァ」
ワイトは対峙している相手の口の端が吊り上がった事を確認できなかった。とてもゆっくりだったから。
「もう1度聞きます。あなたは何者なんですか?そもそも何人なんですか?どこから来たんです?」
バァン!
「!?」
「——あなたのような人がたまにいるんですよねぇ」
突如、相手はワイトに攻撃してきた。ワイトは避けたが、なんだこいつ!と警戒心を瞬時に最大限まで上げ、後ずさり距離を取った。
「私は
そしてワイトと対峙した者……ネイナスは、いつものテンションで自己紹介をし、己の欲望を満たそうとしていた。
「人が命を懸けて戦っているんですよ?観察したくなるでしょう。レドナール紛争、大火事事件……。ああ、ベアトリウスでは確か餓死事件も確かあったんじゃないですっけ。まぁあなたノーシュ人なら知らないと思いますけど。ハハッ!」
「(こいつ……)」
気持ち悪い言い方だ……と明らかにそっち方面だと理解し、粛清対象にカテゴライズするワイト。できればランドルフに報告しないで倒すのが望ましいが、不意打ちをなんとか避けれたばかりだ、一人だけでできるだろうか。
「そんなに戦ってほしいなら戦ってあげますよ!ただし……私が負けるとは思いませんけどねぇ!」
シグマ達はこの後すぐにゲルヴァと戦う。しかしワイトは一人、紛れ込んできた不穏分子であるネイナスと戦うはめになった。名前だけは判明したが、ネイナスなんて聞いた事もない。なぜレドナール紛争に大火事事件を知っている?やっぱり同じ国の人間か?ベアトリウス人か?でもベアトリウスの餓死事件の時のあの他人行儀な言い方……明らかに別大陸の人間だろう。
得体のしれない存在を暴れさせるわけにはいかない。沈めなければ。
ワイトは本能的な恐怖を感じながら、全く実力が未知数なネイナスと一騎打ちの勝負をし始めた。
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