第5章:誰のために5

 シグマ達がゆっくり休憩しながら戦争に備えている中、ベアトリウスの城下町では。


「……」


 とある青年が、掲示板に貼ってある紙の内容を読んでいた。


【ベアトリウス臨時兵士募集要項。成人もしくは貧困層かつ金に困っている人。ノーシュとの戦争のため数十~数百名募集】


「(昔も張り出されたという兵士の募集の張り紙か……)」

 数十年前の戦国時代、ベアトリウスではこの手の話がよくあった。いつどこで戦争をしてもおかしくない状態だったため、予備の兵士を良く募集していた。しかし、実際に戦ったのは集められた人のごく一部だけで、死んだ者もその中のごく一部に過ぎなかったという。当時のベアトリウスは、人材よりも武器などの材料の方が不足しており、皆そっちに行ったのだ。もちろん働いたら給料が出る。戦場にいない者以外、ベアトリウスは割と平和だった。

「(最近は国に仕える人も少なくなり、自分達の生活を優先した結果、全然集まらなくなったらしいけど、今でもやってるんだな……)」

 昔は強かった、とは中年以上のベアトリウス人が良く言う言葉で、ベアトリウスは盛者必衰の道を進んでいる。当然国が亡ぶ事を危惧しているのだが、止められない状態にある。


「(……どうせ行く当てもないんだ。ここで派手に活躍して、せめて名声だけでも……!)」


 昔から、貧困層は都合の良いかもになっていた。ならざるをえなかった。ベアトリウス人で生まれた以上は、頑張って商売するか、軍人という公務員をする以外、金に困らず生きていく方法はない。だから運よく別の国に出て生活している同胞がたびたびいるのだが……。


「いやぁ~、相変わらずベアトリウスは良い国ですねぇ!まさか暇つぶしで追いかけてみたら、人の成果を横取りする上司の姿が見られるとは!そんなの新人君に肩入れしたくなっちゃうじゃないですかぁ~。まぁ、あの後社長もグルだと判明して?修羅場になり喧嘩になったらしいですけど、ホント自業自得な出来事ほど笑ってみていられるものはないですよ」

 

 ネイナスは、そんな青年を可哀そうに眉を八の字にさせながらにまにまと笑っていた。彼にとって、青年のような存在は世界が産み落とした悲しい不幸に過ぎない。死ぬために生きているように見えるため、何で生きているのかがわからず、彼でさえ憐れむのだ。


「で、ベアトリウスはこの時期になって相変わらず戦争準備をしていると……。私は戦場の風景を楽しめられるから良いんですけど、ベアトリウスの国民はもう戦争に飽きてるし誰も来ないでしょ。何回やってるんだって話。……まぁ、それでもああいう人のように何人かは兵士になるんですが」

 ネイナスは己の素性を知らされてはならない立場にある。知られたら殺すか、口封じをする。そして、混乱が起きてはそれに必ず乗る事。世界をかき乱すのが彼の仕事である。自分のやっている事が人に嫌われる事だと理解しているため、どこに住んでいるかも教えないような生き方をしている。町にいるときは大抵宿屋に住んでいるが、日中殆どそこにいないのだ。

「でも彼らは金がないからなるという仕方がない事。まさか人を集めるために他の仕事よりもわざと給料を高くしているとは夢にも思わないでしょうねぇ……。——いやぁーホント哀れだなぁ~、何も真実を知らない人って!だから会って話して色々教えたくなっちゃうんですよ!」

 ベアトリウスは人に厳しい国なので、相手が貧困層ばかりだとわかっても、何名か兵士を募集する。その方が都合がいいからである。しかし、最大限死なないようにフォローはする。それでも志願する兵士は戦後の到来と共に年々少なくなっており、今はもう過去最低の人数になってから何年も経過している。減りはしても上がる事なんてもう無いのだ。


「そういえば、ノーシュの人がベアトリウスに来て、大火事事件の調査をしていたんでしたっけね。あれどうなったのかなぁー、気になるなぁ。 最近見ないし、きっとノーシュに帰ったんだね」

 

 そしてネイナスは、邪悪な計画を思いつく。


「……フフッ。良い事思いついちゃった」


「戦争が始まるまでノーシュで過ごそう!行けば大火事事件の調査がどうなったのかわかるはず!戦争が始まればどうせ私も参加するしね!いやぁー楽しみだなぁ、ノーシュとベアトリウスの戦い!お互いに仲は良くないからねぇ、これは良いものが見れそうだぞ!ぷくくっ。くく……。わ、笑いが抑えられない……。まだだ、お楽しみはこれからなんだ、最高の瞬間を見るまで我慢するんだ……」

 誰が死のうと捕まろうとどうだっていい。人々が激しい感情をあらわにしている事。それがネイナスの至上命題だった。彼はある意味、人が大好きな人間だが、同時にサイコパスでもある。

 悪事がばれたら、ネイナスが待っているのは死、あるのみだ。

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