第4章:それぞれの思惑4

 シグマ達はベアトリウス場へ入って行った。城なので、ノーシュ城のように豪華な作りではあったが、構造が少し違うようで、少し右へと進んだ。少し歩いたら、大きな門が目の前に現れ、それが直観的に謁見の間だと分かる。眺める暇もなく、聞くべき場所に、あっという間に辿り着いてしまった。

 そのままマキナが扉を開け、ギイィと音が鳴る。マキナが一人で先に入っていき、中にいる者達に事情を説明する。

「マキナか。遅かったじゃないか」

 ベリアルはマキナを見て声をかけた。だがマキナはそれどころじゃないとため息をついて、ぶっきら棒に返事を返した。

「……客だ」

「客……?」

「……!お、お前らは!」

 エドガーは肩を組みながら門の方向を見る。そして、そこにいる者達を見るなり腕をほどき、手を少しワキワキしながら驚いた。


「お初にお目に掛かります、シグマ・アインセルクです。大火事事件の再調査のため、皆さんベアトリウスの軍人を調べに来ました」


「チッ……」

「……」

 やっぱりここまで来たか、という感じで面倒な顔をするエドガー。それを見てシグマは、歓迎されていないのは承知の上だと、堂々と足を踏み入れる。

「マキナ、どういう事?それにアイカがなぜ彼らと行動を共に……」

 ネールは全く事情を知らないので、当然のようにマキナに質問をする。

「不本意だろうが、ノーシュは我々ベアトリウスを怪しんでいる。許可は出したんだから話ぐらい聞いてやれ。……ゼルガの一件があるから拒否はしにくいぞ」

「あたしは普通に過ごしてたら出会っただけ。 暇だったし、話を聞いて協力しているだけの事よ。そりゃあ、ネールからしてみれば不本意でしょうけどね」

「……」

 アイカの退職により、少しこじれた元同期の女三人組は、こうして意外な縁がきっかけで再会を果たす事になった。

「それより、聞かせてくれないかしら?あたしの後に入ったのが、このエドガーとベリアルの2人なわけ?」


「そうだ。だとしたらなんなんだ。自分で辞めておきながらのこのこ戻ってきやがって」


 目のまえに肘をついて鎮座している王。それが、ベアトリウスの帝王、ギウル。隣に息子のジェイドと父親のウーザンがおり、親子三世代が威圧を放つ。これでもかというぐらい、わかりやすい服装に、わかりやすい振る舞いをしていた。誰がどんな感想を抱いていようと、今はこいつがベアトリウスの王なのである。

「戻ってきてなんかいないわ。ただ聞きたかっただけ。エドガーなんてシグマとほぼ同じ年齢なんじゃない?そんな奴に任せられるほど酷い現状なわけ?」

「おい、お前何歳だ?」

「シグマだ。……18だよ」

「ッチ、19の俺と変わらねえじゃねえか……」

 ベアトリウス人なので、アイカは怯まずにギウルの質問に答える。エドガーは自分とそこまで年齢が変わっていないであろうシグマの年齢を聞き、やっぱりなといら立ちを膨らませた。

「本人が入りたいというのでな。面倒を見るついでに私も入った」

「あんたも誰よ?得体のしれない奴をほいほい招き入れる国ではなかったはずよ、ベアトリウス帝国は」

 アイカの質問はもっともである。こちらはエドガーの師匠という肩書きしか知らないのだ。

「(レドナール紛争の事は知られてほしくないが、言うしかないか……)」

 ベリアルは自分の過去について、どうか知られないようにと陰ながら思いながら、アイカの質問に素直に答えた。……シグマ達ノーシュ組が驚くと分かっていながら。

「……ノーシュから引っ越してきた。と言えば伝わるか?」

「という事は、あなたはノーシュ人!?」

「なんでノーシュ人がベアトリウス帝国なんかに……。下手したら売国奴扱いを受けるんやぞ!」

「ふんっ、なんとでも言ってくれ」

「(流石に自分が亡命した人間だとは言えなかったか。しかし時間の問題だ。私が直接過去を学べとシグマに言ったし、ベリアルの事は向こうの資料にきちんと残っているはず。ベリアルがレドナール紛争の人間だと知ったらシグマは……)」

 他国の人間が、自分の国の役職に就く事はルミナス大陸にとって不思議な事じゃない。ただ、それがきっかけで国の乗っ取りが昔それぞれにあり、その影響で自分の事しか考えない、プライドもない売国奴にはノーシュもベアトリウスも厳しくなっている。マルクの言い分はごもっともで、シグマとメイはベリアルの事を知った以上ランドルフ達にこの事を報告しなければならない。

「大火事事件について答えるのは別に構いませんが、こんなに大人数で来る必要はあったんですか?」

「なに、ジェイド王子。何か不満でも?」

 アリアの鋭い視線がジェイドに突き刺さる。

「お久しぶりです、アリアさん。いえ、気になったもので。やけに警戒しているなぁと」

「その事ならこちらのセリフでもありますね。毎回6人でここで会議をしていたんですか?だとしたらうちも似たようなものです」

「なるほど……」

 シグマは自分もその中の一人に加わったとはいえ、ベアトリウスでも自分達と似たような会議方法をしているとは思わなかったので、護衛部隊がいかに城から離れられないかをジェイドに説明した。警戒心を解くために。ただ、話を聞いたり見た感じ、ベアトリウスはノーシュと比べて騎士相当の役職の者は自由に行動できるみたいだ。ただそれは、共通の認識がないとバラバラに動いてしまうという事でもある。シグマ達ノーシュはそれが嫌で、どんな事があろうと仕事ならば上司に報告する義務がある。これも昔はばらばらに動いて、壊滅寸前になったという歴史があるからである。

「それで……肝心の情報は?何を知っているのか、教えてもらえますか。——特にベリアル。いつからベアトリウスにいた?」

「シグマ……」

 シグマはベリアルのセリフに驚いていた。が、その事をうまく表に出せずにいた。意外だったし、話とずれてしまうから。大火事事件の犯人かと推測しても弱い。

「……大火事事件が起きる前からだ。ノーシュには20年近く戻っていない。だから大火事事件の事は知らない」

「だったらノーシュ人の友人は何人いる?大火事事件が起きた後は何をしていた!?」

「確かに友人と言える者はノーシュの頃は何人かいたな。だが今は連絡さえとっていない」

 まずはお前だと、話を聞いてヒートアップし、ベリアルに狙いを定めるシグマ。ベリアルはそうきたかと表情を変えず、質問に対し素直に答え続けた。

「……ああ、でも今もなお交流を続けている者が1人だけいたな」

 しかしそれは、ある人物の名を挙げるまでだった。


「……ゲルヴァか?」


「っ!!」


「レリクスに住んでいるハイネさんから聞いたんだ」

「ハイネだと?あいつ……」

「父さん、そのハイネという人はどういう人なんですか?」

「ベリアルと同年齢くらいのベアトリウス人だ。そこにいるアイカみたいに今は軍人を辞めている」

「そう……なのですか……」

 ギウルとハイネは年齢が近いので、必然的にハイネが軍人をしていた時代は顔見知りである。なんだったら、お互いに上司と部下だった時期もあるだろう。だからこそ、国に良く勤めてくれた懐かしい名を、シグマとかいうノーシュの若造が口にした事がギウルは許せなかった。よく勉強してきたなと思ってしまうから。馬鹿であってほしいのだ。大火事事件ごときに、真面目に付き合わないといけなくなるから。

「ハイネさんの事を知らないという事は、ベアトリウスの事はそこまで詳しくないみたいだねベリアル!大火事事件の事は本当に知らないのか!?知らないならゲルヴァの居場所はどこだ!僕達はハイネさんからゲルヴァなら何か知っているかもしれないと聞いてここに来たんだ!」

 シグマは強気にベリアルに質問し続ける。ゲルヴァをこのベリアルが知っているんだから当然だ。ベリアルはゲルヴァがきっかけで自分の過去もばれてしまうと感じ、感情がこもった声を出す。

「ゲルヴァとは今はあまり連絡を取っていないと言っているだろう!」

「じゃあ最後に連絡を交わしたのはいつなんだ!」

「……詳しく覚えておらん。少なくとも数年前だ」

「数年前……」

 大火事事件の前か後か。どっちでもいいが、事件の前後に会話していた事が発覚した。これはゲルヴァが犯人である事を強める発言である。時期が時期なのだから。亡命する前から、このベリアルは同じノーシュ人であるゲルヴァと顔見知りなのだ。

「ゲルヴァと何を話した?」

「……俺もそっち(ベアトリウス)に行くとだけ」

「……」

 こういう時、言い方が重要になる。ベリアルは都合の悪い事は言いたくない。しかし、素直に答えなければならない。嘘を言っているようなそぶりをしたら思う壺なのである。だからこそ、ベリアルは端的に、わかりやすく、事実である事を少しだけ、相手(シグマ)の質問に答えた。これ以上掘り下げられたくないから。

「肝心の住む場所は?」

「知ってたらこっちから会いに行くさ。それが友人というものだろう?」

 これまたごもっともな発言だ。しかし、結局ゲルヴァは自分の居場所を友人でさえ伝えていない事になる。これで、犯人を捜すという目的とゲルヴァを探すという、二つの目的ができてしまう。ゲルヴァはベアトリウスにいるなら家があるかないかなどどうでもいいようで、なんでそんな生活をしているんだとシグマは思った。普通にどこかにいてくれよと。この友にさえ居場所を説明しない事は、ゲルヴァ犯人説を強めるが、あくまで状況証拠に過ぎない。ゲルヴァと会話した時、彼からアリバイを言われたらその時点で無意味なのだ。こちらがどんなにそうであってほしいと思っていても。【】は【()】ではない。

「(ハイネさんも居場所は知らない、しかし家に上がらせたと言った……。という事はゲルヴァの方からやってきている……?まぁ人間だからどこかしらに移動しているのは当たり前だけど、行動歴がきちんとあるのは後々の良い材料になりそうね……)」

「他は?ネールにギウル帝王!後……」

 シグマはベアトリウスの軍人一人一人にきちんと向き合い、発言しながら体をひねる。後はエドガー、そう言おうとした時だった。


「ウーザンだ……」


「ち、父上!?お体の方は……」

「少し、良い……」

 よぼよぼの爺さんで、なんで立っているのか不思議なくらいの容姿をしているウーザンは、シグマの情熱的な質問に感化されたのか、シグマの質問に割って入り、自分もいるぞとわざわざ声をかけた。

「シグマ、と言ったか。よくその年齢でここまで来れたな」

「……褒めなくていい。僕が聞きたいのは知っているのか知らないのかだけだ」

「そうか……」

 ウーザンに話しかけられた事もシグマは驚いている。しかし今は状況が状況で、こちらが質問をしている最中だ。相手が帝王の父親で前提王だからなんだと言うのか。シグマは御託はいいと怒る。間髪入れずにびしばし話しかけているから、少し止まってほしいと内心思っていたのかもしれないが。

「なら答えてやるが、わしは見ての通り老いぼれていてな。数年前からあまり活動出来ていないのだ。大火事事件が起きた12年前も何をしていたのかは覚えているが、詳しくは記憶が薄れて語れるほどじゃない。政治も完全に足手まといだから息子と孫に任せている。……すまんな、力になれなくて」

「いえ、情報ありがとうございます」

 ウーザンからはかつての栄光が感じられなかった。しかし、体が、オーラが教えてくれている。昔好き勝手やっていた事を。そのせいで痛い目を見た事を。ギウルの帝王としての接し方を見るに、ベアトリウスは息子に帝王の座を譲ってから10年も経っていないらしい。どうりでギウルもどこか典型的なそぶりをしているわけだ。

「大火事事件なんて、なんでこっちまで来なかったのか不思議に思っていたくらいよ。私は協力する事前提で待っていたわ。この時点で白だと思うけど?」

「ネールとは同期だが、えこひいきはしていない。ネールの事は信頼していいと思う」

「後の人は若いから……」

「自動的に白……。候補から外れる……」

 エドガーは自分が聞く前に答えた。そしてここで、ウーザンとネールが否定する。その事が何を意味するかは、自分が一番良く理解しているので、終わったと思い、力が抜けそうになる。

「——ベリアルがゲルヴァと友人だとわかっただけでも、いやしかしっ!くっ……」

「……(困った表情)」

 目をつむり、拳を握り、悔しがるシグマ。それを見て、なんとかなったか……と一人焦っているベリアル。シグマ達はなぜベリアルがあんな表情をしているのか、気にはなりつつも質問できなかった。どうせはぐらかされるだけだろうし、素直に質問に答えた以上、それ以上のものを教えてくれそうになかったから。

 帰るしかないのである。シグマの大火事事件の再調査の旅は、今ここで、終わった。二人の否定によって。

「(あの反応……本当に悔しがらないと出ない表情……。シグマの言う事が正しいのなら大火事事件は本当に起きた事なのか……)」

 ジェイドは初めて何かの事件に巻き込まれた被害者と当事者を見た。事件が起きた人を見るのは日常茶飯事なのでこれが初めてではないが、数年事件の謎を追いかけている人を見るのが初めてだった。

「ようやく国の人間にまで手を伸ばしたのに、肝心のゲルヴァの事はわからずじまいね……」

 ベアトリウスにいるのに、なぜ居場所がわからないのか。それがシグマにとってとことん意味不明だった。今まで見たいに探せと言うのか。自分が出来る事はとっくに過ぎている。なんとしてでも自分の手で解決したかった。が、帰るしかない状況になってしまった。犯人はわからなくても、少なくともゲルヴァという人物は目の前なのだ。なのに……。

「……パトロール中でもいいのなら、各地にいる兵士に多少の捜索をさせてみよう」

「お願い」

 マキナがシグマを慰めるために元から決まっていた事をわざわざ口にする。アイカがそれについて代わりに返事をした。


「さっきからゲルヴァゲルヴァと……。そんなに奴の事が気になるのか?」


「!知っているのか?」

 ギウル帝王は、ずっと目の前にいるシグマという男が嫌で嫌で仕方がなかった。昔の友人をとにかく口にするから。出会ってもいないのにだ(ハイネとは会った)。

「立場上、色んな奴と会うのでな。たまたま皆が仕事でばらばらだった時に、一人になっていた俺に直接会いに来た奴がいて、そいつがゲルヴァと名乗っていた……。怪しい奴だったから要件を聞き流してさっさと帰らせたがな。とにかく交流してこちらの情報を聞き出そうとする胡散臭い奴だった」

「ちっ、こんな所で繋がっていたんか!」

 なぜずっと黙っていたのか。いや、そもそもわざわざ教える義理なんてないからそのままスルーしようとしていたのだろう。しかしシグマは父親であるウーザンが否定したので、ギウルも当然知らないと思っていた。その認識が、結果的に間違いだった。シグマは目を丸くし、危ない所だったと話を聞きながら震えだす。

「ゲルヴァの事は俺もよく知らない。ノーシュを捨てたようだが、それこそ俺よりもお前達の方が気になるだろ?気になるならぜひ会うといい。俺は奴には興味がない」

「……」

 ジェイドは父親の事をなんで今更、というような目で見つめた。気になるなら会えばいいなんて皆思っている事なのだ。第一帝王として調査許可証を出したのはあなたでしょうと。つくづく、シグマの質問から逃れないとわかったからやむをえず発言したのだとジェイドは思った。

「——残念だけど、一旦帰るしかないわね。特定の個人を探すなら、今までのやり方はしないで手あたり次第になっちゃうから」

「そうですね、本人が捜索中だと知ってしまったら余計に隠れるのかどうかでも変わってきますし……」

「シグマ……」

 アリアが泣きそうなのか喜んでいるのかよくわからないシグマにはっぱをかける。

「……わかってます、僕達にはもうできる事がない……。やるだけやった、一旦城に戻ります……」

「ゲルヴァの事はこちらでも捜索する。安心してくれ。そいつはノーシュ人なんだろう?」

「ベリアルやハイネの言う事が正しいならそうだな」

「……。ふんっ……」

 マキナは今回誰が一番戦犯、もしくは戦犯的扱いをされたのか一人で心の中で反省会を始める。そしてエドガーの隣にいる男に、結論という名の視線をぶつけた。

「(墓穴を掘ったか?いやしかし、まさかゲルヴァの名をあいつから聞かれるとは……。レドナール紛争……。あの忌々しき出来事からは逃れられないのか……)」

 シグマ達が帰るのを見て、さっさと行ってくれと心の中で思うベリアル。どうせ自分の事が奴らにバレるのだから、静かにさせてほしい。

「では、僕達はこれで帰ります」

「ああ、ランドルフによろしく」

「はい」

 マキナに大火事事件の再調査を引き続き協力する確認をしたシグマ達は、もうする事がないと城を出て、ベアトリウスを後する。区切りがついたので、嫌でも帰らなければならない。すがすがしい気持ちで帰ったのか、それともゲルヴァという男に夢中なのか、マキナはシグマ達が帰る姿を窓から見送りながら心の中でどっちか賭けていた。

「……お前ら、このまま終わりだと思っていないだろうな?」

 帰るなり、今さっきの発言の反省を皆にぶつけるマキナ。

「まさか。あなたからシグマ達の事を知らされてから、こうなる事は目に見えていましたし、今更ですよ。……しかし、流石に私もゲルヴァという人物がキーになるとは思いませんでした……」

「……」

 ジェイドが父親のギウルを見ながらそんなに責めなくても、という顔をする。全ては自分の父親のせいだと。しかしこれは責任を他人(父親)にぶつけたようにも取れる。ジェイドはベアトリウスの軍人から、まだ半人前だと認識されており、本人もそれは理解していたが、こういう無責任な所が父親譲りだとつくづくマキナ達は思っていた。もちろん、教育された以上同情もしているが。

「はぁ……」

 ようやく落ち着けると、ベリアルが冷静さを取り戻す。

「師匠、ゲルヴァとはどういう関係で?」

「本人に会ったら教えてやる」

「本っ当、こういう時部外者っていいわぁ。怪しまれずに済むんだもの」

 ベリアルとギウル帝王。今回の戦犯的存在。責める事こそしないものの、それはないだろうという空気が流れていた。

「(別れる前に、ベアトリウスが一枚岩ではない事をノーシュに見せる事が出来ただけでも良かったと思うか……。しかし、私が満足するほどじゃないな……。この件、もしかしたらシグマ達の方に協力した方が良いのかもしれない……」

「……ZZZ」

「(っち、こういう時にまた寝やがって……。過去を知っているのは俺よりもあんただろうが!)」

「(流石にゼルガが犯人は繋がりがなさ過ぎて無かったのか。俺もまだまだ精進しないといけないようだ……)」

 ギウルは若い時までウーザンと同じ未来を望んでいた。この糞親父から、徹底的な帝王学を学ばされたから。しかし、ジェイドが生まれ、マキナ達が入ってきて、若い世代の話を聞くうちに、当時のギラギラした感じは潰えてしまい、今となっては堕ちていく国をなんとか立て直そうとする時間に忙殺される哀れな国家経営者だった。

 ギウルはそれが許せなかった。自分だけは老いぼれになってしまったから。帝王の座という自由を手に入れたが、同時に責任もついてきた。

 ギウルはそれが許せなかった。昔自分が眺めて笑っていた事を、経験して真顔になってしまったから。

 静かな老後を望めると思うなよと、実の父親を呪う日々をギウルは送っている。そんなギウルを、ジェイドは自分はああいう風にならずに済んでよかったなと思い感謝すると同時に憐れんでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る