第3章:見えてきたもの4
「つ、ついた……!」
そこは、見渡す限りの人と建物。自分の国でよく目にするいわゆる都会。シグマ達はベアトリウスの首都アギスバベルに、ついに到着した。
「ここが……ベアトリウス帝国……」
「あんたらにとってのレオネスクやな」
マルクはシグマが今まさに思っていた事を口にした。
「さて、と。ついた以上はさっそく話を聞きたい所なんだけど……目立つかしらね?」
「そ、そうですね……」
まぁ、こればっかりは仕方ないだろう。
「国の人間以外に、自分達の事を国の人間だと言う必要はないだろう。俺達は事情が事情だからな。正体も隠しておいた方が無難だ」
「わかってます」
どこにいても、余計な事はなるべくしない方がいいのだ。ましてや外国。手助けをする前に現地の騎士達は何をやっているんだという話だ。
「仕事熱心でなによりディス。ただ、しつこく言うようで悪いんですが、もう既にベアトリウスの国の人間と出会っているのなら、私達がここに来るまでに城に情報が行き届いているはずディス。動くなら今日中にした方が良いディスよ。2、3人大火事事件について聞くだけでもベアトリウス人がどういう人間かわかるはずディスから。
「そういうあんたらもベアトリウス人だけどな」
マルクが茶々を入れる。
「やだなぁ、違いますよ。ベアトリウス人なのはアリアのお嬢とファルペとルーカスだけディス。ゲロニカと私はノーシュ人ディスよ」
「そうなの!?」
メイが驚く。
「……恋人がノーシュ人でな」
「商人として既に会ってるわしからすれば、何を今更な話じゃな。そりゃ大人として仕事などでベアトリウスに行っているノーシュ人だっているはずじゃろうて」
「俺達の事はあくまで今も住んでいる、住んだ事がある程度に思っておいてくれ。少なくとも俺達はベアトリウス帝国とは距離を取っている。俺達がなんで帝国と距離を取っているのかも、その時になったら話す。今はまだ早い。気になるのならお前達が自分の目で確かめろ」
ルーカスがフォローした。シグマは話を聞きながら、アギスバベルを見渡していた。
「(見渡す限り、普通の国民に思える。確かに首都だからか活気があるし、賑わっているように見えるけど、このベアトリウスにいったい何があるんだろう……)」
「(立て続けに出会い、言わされた、ランドルフさんとマルクとレバニアルの人達の忠告……。いったいどういう事?これから何が起こるというの?)」
本人達も仕事で来て真面目にしなきゃいけないのはわかっているが、当のベアトリウス人であるルーカス達から言わせれば、ノーシュとベアトリウスの違いは空気感だという。だから初めて来た人には入念に忠告をする。
「(流石にまだ状況は呑み込めていないか。だが仕方ない、俺もアリアも当事者だ、俺達が言わないとこのベアトリウス事はきちんと目に映らない。いかにベアトリウスが隠蔽しているか、思い知らせてやる)」
「おい、邪魔だ!どけ!」
「あっ、すいません……」
それぞれ、少しばかり感傷に浸っていた時。とあるベアトリウス人がシグマ達の横を通りかかった。そして、たまたま彼の一番近くにいたシグマは性格もあってつい反射的に謝ってしまう。……それに、他の皆が食いつかないわけがなかった。
「はあ!?なに急いでるねん、少し門の近くにいたぐらいで……」
「うるせえ、結果的に占領していた事に変わりはねえだろうが!」
「大人数で移動するくらいあるやろ、ここ首都やぞ!」
「それがなんだ、俺達だって仕事しているんだ、邪魔だけはしないでもらおうか?外に行く用事があるのに無理やり通れってか?」
典型的なヒートアップ。あっというまにどちらかが手を出してもおかしくない状況になってしまった。
「わいならそうするで?めんどくさいし」
「ああ、そうかい。だが俺はそうしないんだ、わかったらさっさとどいてもらおうか」
「話のわからない奴やなぁ、わいは自分の意見を言っただけで――」
「も、もういいです!僕達が悪いでいいですから……」
一連の会話を最初こそ黙ってみていたが、シグマはマルクが喧嘩になりそうなのを見ていてもたってもいられなくなり、無理やり止めさせ、通行人の言うとおりにした。
「すいませんでした、どうぞ……」
「ふんっ、お前は話が――……なんでもない」
こうして、通行人は去って行った。
その後。
「ちょっと、なによあれ!」
「ひどい奴もいたものです!」
メイとイリーナは当然の反応をする。
「そうやでシグマ、お前何譲っとんねん!」
「えっ?だってなんか嫌な雰囲気だったし、事を荒立てたくなかったし……」
「恐らく今のでお前がノーシュ人だってことバレたで?ここベアトリウスでは舐められたら終わりだって、あれほど言ったやろが!
「なら舐められてていいです。僕達が集団化しているのに国民に配慮しなかったのが悪いんですから」
「お前なぁ……」
「……」
これが、シグマである。自分が一歩後ろに下がる事で、丸く収まるならそうするのだ。それが何を意味するのかも、全て知った上で。
「……お嬢様(ヒソヒソ)」
「ええ」
「どうやら、私達が何を言っているのか、そう時間が掛からずに理解できそうディスね」
「そのようじゃの」
「ふっ、シグマ。お前は本当に優男なんだな」
「優男?僕が?」
ルーカスに突然言われて、シグマは首をかしげる。
「ああ、優男だ。ここベアトリウスではマルクの返し方をするのが多数派だ。あの商売人は今頃、時間が掛からずに道が開いてラッキーだと思っているだろうよ」
「そんな……僕はただ自分の良心に従っただけで……」
「それが有難迷惑っちゅう話や。ベアトリウス人はお前達ノーシュ人よりも、国に依存せず独立しているんや。もちろん、その分保護されることもない。制約よりも自由を取っているってわけや」
あくまで比べたらの話である。
「ふ~ん、そうなんだ……」
「あ、あれ……?反応が思ってたのと違う。そんなに驚かない……。わいらがあんだけ言ってたからか?」
マルクはシグマの反応を見て少し残念がっていた。
「忠告どうもマルク、どうやらあたし達が城で施された教育は実を結びそうよ」
「わいが思ってるほどぬるま湯につかってないってことか?はぁ~、だとしたらそりゃあすまなかったな」
「ベアトリウス人がどういう人達であるかも気になる所ですけど、今日はこれからどうするんですか?宿屋にとまるんですか?」
「そのつもりでいるわ。もちろん、あんた達が満足するまで大火事事件の事を聞いて回った後で、だけどね」
「それなら日が暮れないうちにしてしまいましょう、しばらくここに滞在するんですから」
「わかってるわ、安心しなさい。ちゃんと協力はするわ」
「とにかく、ここベアトリウスはさっきのような事が起こる所だ。油断だけはするな」
「何度目かわからないご忠告どうも……」
「では、さっさと情報収集を始めてしまいましょう。かなり人がいますから、情報の質もばらばらなはずディス。
「(これからどうなるんだろう……)」
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