第2章:調査と出会い2

 分担させていた、メイとマイニィの二人が戻ってきた。マイニィが見たサンバニラの倉庫は、半壊ならぬ、半盗という言い方が正しいぐらい、荒らされていて、数日間、数週間は間違いなくここに保管されていたであろう痕跡がいくつも見られた。

「う~ん……まさか夜に停電していたとは……」

「来てすぐ泊っただけの私達にとっては、町の事情が分からないのはこういう状況ではかなり不利ね。仕方のない事だけど」

「そうですね……」

 話を整理しよう。食料の盗難は事実だし、その時刻は夜中。たまたま村人が夜中にトイレに行く途中、ついでに確認したら事件が発覚したんだろう。犯人はさっと盗み、すぐに逃げた。証拠もなし。犯人像はわからない。

「深夜、寝静まってる間に何もかもを終わらせ、町の人達が起きればすぐにパニック。そして夜が明ける前に逃げた。完璧な犯行だよ」

「だとしたら、普通に周辺を探しても意味はないわね。他の町に逃げられたらもうアウト。余計に探す手間がかかってしまうし、その間に逃げ切られる。何かいい犯人の絞り方はないかな……」

「う~ん……」

 すぐに決断しないと逃げられる状況だが、昨日の今日なので、そう遠くまで逃げられるはずがないというのが鍵であり救いだ。なんとしてでも捕まえなければならない。しかしどのように……。



「……お困りのようですな」



 と思っていたら。シグマ達が通ってきた道から商人らしき老人が話しかけてきた。

「誰だ!」

 シグマは警戒する。

「わしはゲロニカ。この町で君達のように泊まっていただけの、旅商人じゃよ」

 散歩でもしていたのだろうか?と思い、シグマは警戒を解く。

「初めましてゲロニカさん。犯人に心当たりがあるんですか?」

「流石にそこまではわからんよ。ただ、情報提供に協力しようと思っての」

「それは助かります。でも具体的にどういう情報をくれるんですか?」

 自分達が知りたいのはそこだ。

「まあまあ。詳しい話は宿屋の中で話そうではないか」


「「「……?」」」


 そう言って、ゲロニカという謎の老人は宿屋に入っていった。




 ゲロニカは受付にお金を払い、荷物を整理し、自分の身をいつでも外に出られる状態にして、近くの椅子に座った。シグマ達も座って話始めるのを待つ。

「それで、詳しい話というのは?」

「うむ、実は、信じるなら割と深刻な話なのじゃが、同業者の友人が同じ同業者に命を狙われているらしくてな」

「命を狙われている!?」

 さっきからこんな事ばかりだ。マイニィちゃんが実際に命を狙われる経験をした後、盗難に殺害予告。盗難まではまぁよくある依頼だとして、こんな所で誰が誰を殺人しようとしているのか……。全然思いつかない。

「そんなことが……」

 マイニィちゃんも素直に驚いていた。どうやらこれは普通の盗難事件じゃないようだ。まだそう決めつけるのは時期早々か。しかしすぐ動き出さないといけない。

「命を狙っている男の名は同じ商売人の、ウェイラー。まぁ、わしも友人から最近ウェイラーの様子がおかしい、という事ぐらいしか知らんから詳しい事はわからんが」

「ウェイラー……」

 ゲロニカの口から、はっきり同じ商売人のという言葉が聞かれた。つまりこの老人は正真正銘の老人だという事だ。最初に思った商人っぽいは嘘ではなかった。

「その様子がおかしいというのは具体的に何を?」

 メイが言う。

「さあ?ただ、友人が言うには得体の知れない薬を集めたり、たまに自分を見る目が怖いと言っていた。恐らく友人に特別な恨みというよりはウェイラー自身に何かある」

「自身に何か……」

「わかったら苦労しない事じゃ。後は会って話でも聞いてみる事じゃ」

 その通りなのだが、その所在が聞きたくてこうして話しているんだ。

「ゲロニカさんは、そのウェイラーっていう人の居場所を知っているんですか!?」

 だから、こう聞き出すことになる。

「同業者で取引している以上、あやつの居場所くらいはわかる。丁度東の街道を通ってクレアドロンに着く所の道の途中に、あいつの隠れ家があるのじゃ」

「クレアドロン?」

 聞きなれない地名に、マイニィちゃんが首を傾げる。

「ここから東にある町よ。もう少し先にはベアトリウス帝国との国境があるルンバがあるの」

「そう、なのですね……」

 マイニィは旅に出るまで、シエルエールから離れた事がないし、離れられるわけがなかった。昔、両親がまだ生きていた頃ノーシュのマップを見た事があるが、どこになにがあるかなどは忘れた。マイニィは少し懐かしい気持ちになり、同時に復習しているような気持ちになった。

「なんでただの商人が隠れ家なんか……」

 シグマは聞き手に徹し、注意深く話を聞く。ゲロニカに当然の疑問をぶつける。

「それも本人に会って直接聞いてみるといい。いるのは事実だ、あそこに行った事があるからな。ウェイラーは、同業者に自分の情報をあまり言わない事で有名なんじゃ。じゃから、怪しいと思った友人はこの町周辺にさえ近づいておらん」

 交流もかねて行った事があるが、結果はごらんの通り。ゲロニカはちょっと残念そうに、つまらなさそうにウェイラーの事情を喋り始めた。

「わしがなにか探っていると思ったのだろう。もしウェイラーが同業者を殺している事が事実なら、自分の身を守ろうとするのは当然の事じゃからな。……証拠はわからないが」

 自分が言えるのはどうやらこれまで。ゲロニカの顔はそう告げた。確かにこれ以上は騎士の役目だし、商売人を証拠もなしに、あくまで噂でしかないものを犯人を決めつけるのは無理だ。自分達がわかったのは、ウェイラーという男の生活と、友人から怖いと相談を受けた事のみ。隠れ家に住んでいるらしいし、後は行って直接聞いてみるしかない。

「あの、ゲロニカさんは怖くないんですか?どうして私達にこんな情報をくれたんですか?」

 ここまで助言をしてくれると、ゲロニカ自身にもなにかあるのではないか。そう思うのは自然だ。

「……正直、君達が出てこなかったら自分で本人の家に尋ねて、真相を聞いてみるつもりじゃった。じゃが外の犯行を見て考えを改めた。今回の犯人は間違いなくウェイラーじゃ」

 ゲロニカは確信して断定する。

「じゃが、わしが行ったところで殺されるじゃろう。一応わしも護身術くらい多少は身に着けているが……それでも、同業者のわしよりも君達が行った方が警戒心は薄いじゃろう。頼む、行ってくれないか」

「……僕達でよければ」

 シグマはゲロニカに「貴重な情報、ありがとうございます」と礼を言い、椅子から立ち上がった。

「よし、二人とも。ウェイラーの所に行こう!」

「は、はい……」

「でも、行くのは良いけど、そう簡単にうまく行くかしら?会ってもまずは犯人かどうかを確認しないといけないじゃない」

「わかってる。未解決にはしないよ。きちんと話は聞かないと。まぁこれも向こうが話してくれることを願うしかないんだけど」

「一応戦う事を覚悟していきましょう」

「はい!」

 シグマ達は宿屋から外に出て、街道に向かいウェイラーの隠れ家を探して歩き始めた。





 シグマ達がゲロニカと出会う数か月前。

「なあ、ベロニカ。少し相談があるんだが聞いてくれないか」

「なんじゃ、ノール」

 ベアトリウスの南の町、レリクスの酒場。

「ウェイラーから殺されそうな気がするんだ……」

 ベアトリウス人の商人、ノールは自身の不安を友人のゲロニカに吐露していた。

「殺されそうな気がする!?」

 ゲロニカは突然の言葉に、驚愕の表情をした。

「ああ。出会った当初はわりと明るかったのに、最近は真顔でどこか感情がなさそうに取引するし、怪しい品を取り扱う事も増えたんだ……」

「……」

「それだけじゃない、俺の事を遠くで睨んでいるような所も見たし、他の奴の話では、遠い地域では商人が何人か謎の死を遂げたという事もあったらしい。皆ウェイラーの、【商人に恨みがある】という噂だけは知ってるっていう状態だ。……俺が商人をして30年、歴史の本を読んでもそのような事件はなかった。だから……」

「ついに自分も襲われそうだと?」 

「ああ。商人仲間の皆あきらかに奴が犯人だと疑っているし、俺もそう思ってる。何よりこの件を知って以降、皆ウェイラーに近寄らなくなった……」

「う~ん……証拠がない事には動けないが、睨んでいる事は気になるのう」

 商人同士の付き合いはあるが、いわゆる自分ルールを決めて独自に商売をしている人はあまり少なかった。ゲロニカは商人界隈の中ではいわゆる温厚派と言われる立場で活動しており、波風立てず、客第一で商売をしていた。だからこそ多少資金繰りに困る事があり、そういう時はノールなどの友人の手伝いをしてなんとかしていた。それでうまく生きて行けてたのだ。それがウェイラーという謎の同業者をきっかけに崩れようとしているのだから、真面目に聞いて、対応しなくちゃいけない。

「ほら、最近商人の謎の行方不明者が増えてるだろ?ウェイラーに殺されたんじゃないかと思うと、仕事にならなくて……」

 この話は、事を大きくしないために国の一部の人間か、同業者の商売人達のみが知っている。しかしそろそろ対処しないと表に出て人々が混乱しそうな頃合いでもある。当事者である商人達とっては、間近で見聞きした事だから。

「わかった。わしが本人に話を聞いてみるよ」

「ああ、気をつけてな……」

 だからゲロニカは、友人の頼みを聞く、当然だと思った事をして、いつものように外に出ようとした。しかし—―


「た、たすけてくれええええええええええええええ!」


「な、なんじゃ!?」

「おい、どうした!?」

 ゲロニカとノールの前に突如現れたのは、血だらけで、服装がぼろぼろの中年の男性。

「ウェイラーが、ウェイラーがああっ!」

 その男性のこのセリフだけで、同業者だという事がわかる。

「ウェイラーがどうした!?」

 聞いても反応がない。よく見れば、地面に血が大量についており、ここに来るまでに既に出血していた事がわかる。という事は出血死?

 ゲロニカはそのような事を考えていたが—―

「くそっ、本当っぽいなこれは!すまんゲロニカ、この件なんとかしてくれ!俺は逃げる!」

「お、おいノール!」

 ノールが事態を理解し、逃亡する。相談を聞いた身としては、つい口には出しても逃げさせるしかなかった。

「本当に死んでる……」

 ゲロニカは倒れた商人男性の脈を確認し、酒場で死亡を確認した。




 ノールが立ち去った後の後始末は大変だった。酒場のマスターに協力してもらい、死体を運び、商人仲間にこの事を報告する。もちろんウェイラー以外の商人にだ。

 ゲロニカはもろもろの始末を終わらせた後、やっとの思いで旅を再開した。

「あ~くっそ。忘れ物をしちまった」

 そんなゲロニカの気遣いをノールは気づくわけもなく、再びゲロニカと飲み交わしたレリクスの酒場にやってきた。……

「あったこれこれ。よし、宿屋に戻―—」

「……」

「!お、お前はウェイラー!」

「……っ!」

「ぐああああああああああああああああ!」

 一閃。ノールは即死した。





「外に出たね」

「うん……」

 クレアドロンの街道は、よく人が通るため整備されている。ゲロニカが言うウェイラーの隠れ家は、森の中にあるらしいが、その目印は割と近くにあった。


 ここから先立ち入り禁止。


 謎の看板。普通に考えたら国の人間がやったと思うだろう。しかしシグマとメイにとってはこれが嘘だとすぐにわかった。こんな所には置かないと理解しているからだ。なぜなら置く必要がないから。つまり誰かがこれ以上近づかせないために置いた偽の看板。その誰かはもちろん、推定だがウェイラーだろう。

「そういう事。だから最小限の事しか言わなかったのね」

「この先を普通に通るとしたら、地形的に割と時間が掛かるはずなんだけど……一部の人だけが通るって事はわざわざ通りやすく整備されてるはず。これもウェイラーが?」

 近づかせないために、という変な努力はするものだ。

 シグマ達は看板を目印に歩き進め、そして謎の家らしき建物を発見した。

「あの家が、ウェイラーという人の家なのでしょうか……」

「だと、いいけどね」

「うん」

 任務としてここまで来た以上、後はやるしかない。シグマ達は扉を開け、入っていった。

「失礼します」

「誰だ?」

 そこにいたのは、目つきが鋭い中年の男。年齢はわからない。若くも置いてるようにも見える。表情は眼だけが鋭く、やたら人をひきつけない感じがした。

「私達はレオネスクの騎士です。サンバニラで停電と盗難があって、その調査をしにやってきました。あなたがウェイラーさんですか?」

 メイが単刀直入に説明する。まず聞きたいのは目の前にいる人がウェイラーかどうかだ。そして、彼がサンバニラの盗難をしたのかどうか……。

「いかにも、私がウェイラーだが……なるほど、盗難、ね……ふむふむ」

 シグマ達が若いからか、やたらじっと見て見定めようとしてくるウェイラー。任務特有の、緊張した空気が流れていた。

「君達ぃ……あの短時間でよくここまで突き止められたね」

 短時間?なんの事だろう。シグマ達はなんのことだかわからず、首をひねる。

「……なんの事ですか?当時の状況をよく知っているような口ぶりですが」

「ベロニカさんという商人が調査に協力してくれたんです。ウェイラーさん、あなたがサンバニラの盗難の犯人なんですか?」

 マイニィちゃんがついゲロニカについて話をする。それがトリガーだった。

「ベロニカだぁ?……ハハハハハッ!そうか、奴が仕業だったのかぁ!そりゃあいつが協力していたらここにたどり着くよなぁ!?」

「(表情が変わった!?)」

 シグマ達はすぐに臨戦態勢に入る。どうやら全てが本当だったようだ。

「(この様子……どうやら当たりっぽいわね)」

「(怖い……)」

 メイがマイニィちゃんを守るため手で抑制する。シグマは剣を握ろうと鞘まで手を伸ばすが……。

「残念だが、君達には死んでもらう。俺はゲロニカを殺さなければならないんでな!」

 ……握りたくても、握れない、握れなくなるような事を言われた。

「ちょ、ちょっと待ってください!なぜゲロニカさんを殺そうとするんですか!?」

 シグマは手でジェスチャーをし、詳しい事情を聞こうとする。しかし—―。

「お前らにそれを言う必要はないっ!」

 シグマが鞘に手を伸ばしたのを見てウェイラーの方も戦うつもりだったのか、変な薬物を近くにあった袋から取り出した。

「シグマ、来るわよ!」

 それを見てメイはシグマとマイニィを外に出るよう指示し、扉を開ける。ウェイラーとの戦闘が始まった。


 

 惑星フェルミナ。この星の名前である。女神フェルミナが創ったと言われている。我々人類を含む、魔族などのあらゆる生命体は、マナを消費して魔法を放つ事ができる。やろうと思えば派手な戦闘も可能だ。しかし、それは力があるものにとって、必要のないものまで殺し、壊し、世紀末にするという意味だった。

 しかし、時に、ウェイラーのように力があるのに隠し、どこかで使っている者もいる。だからこそ、騎士が生まれた。

「ぐう!?」

 シグマとメイは、騎士として育てられた。だからこそ、戦闘になった時、同胞には容赦するなと護衛部隊の先輩達から教えられた。叩き込まれた。

 一応、民間人であるウェイラーと、実務は少なくとも、実戦は訓練でなんどもやった事がある騎士のシグマとメイ、おまけのマイニィの1対3の戦いは、あっという間に勝敗がついた。

「はああっ!光霊剣!」

「ぐあああ!」

 ウェイラーはシグマの攻撃を食らい、ふっとび、転がる。

「ぐぬぅ……」

 ウェイラーは勝てると思っていたのか、わかりやすく悔しがっていた。

「どういう事なのか、教えてもらえますよね?」

 シグマが詰め寄る。そう、自分達はまだ何もわかっていないのだ。あなた(ウェイラー)と違って。それは今になっては腹立たしい事だった。

「……」

「(シグマ……)」

「(メイさんのこの表情、初めて見た……)」

 勝敗がつき、緊張の糸がほぐれたのか、メイはシグマをうっとりとした目で見つめていた。マイニィはそんなメイを見て、惚の字なのかなと思ったが、口に出さないでいた。

「っはん、そんなに聞きたいなら教えてやる。サンバニラの盗難は、確かに俺一人でやった。盗んだ物も全て家の中にある」

「やっぱり……」

「じゃあ、どうしてこんな事を?」

 聞きたいのはそこだ。

「復讐するためさ」

「復讐だと?」

 思ってもいなかった言葉だ。うまく盗難と結びつかない……。

「ああ。俺は元々名の知れた商人の家系に生まれてな」

 そう言って、ウェイラーは自身について語り始めた。

「だが俺が思春期の頃、親が商売仲間に裏切られ借金を背負った。そのせいで家族は離散、そして自殺した。今では天涯孤独の身さ」

 ウェイラーは、自分の過去を端的に説明した。その後——


「だから復讐しようと思った!」


 強く吠えた。

「そんな……でも、可哀そうな事だけど、だからって殺すまでしなくても」

「商売をしたことがない女は黙ってろ。俺は本気で生きてるんだ。復讐したいなら、同じ商売をして、裏切った奴を見つけて殺した方が早いだろうが。飢えをなんとかしのぐような日々も送って、ようやく今かたき討ちをしているんだ。邪魔をするな!」

 自分達は確かにこの男のように生きてきたわけじゃない。大火事事件を起こした人間に恨みはあるが、怒りよりもただ悲しかった。特に自分にとっては。シグマはそう思いながら話を聞いていた。しかし自分にも言いたい事はある。

「その復讐相手の中に、ゲロニカさんは入っているのか?」

「知らんな。嫌いな奴を手あたり次第殺せば、その中に何人か復讐すべき相手がいるはずだ」

 ウェイラーのこのセリフを聞くまで、自分達は復讐すべき相手のみを殺しているのだと思った。そうしたら後は本人同士の感情の問題だからだ。……誰かが止める止めないも含めて。でもそうじゃなかったようだ。ゲロニカの言う通り、目を付けた商人なら誰でも殺している。それじゃあただの大量殺人者になるだけだとわかっていながら。

「そのやり方じゃあ無駄な死者が出てしまうだろ!」

 だから怒る。怒らなければいけない。

「なんだ、若者の分際で説教か!?俺のやり方に口を出すな、俺はそのぐらい怒っているんだ!」

 ウェイラーは引き下がらない。全てを理解して、その上での犯行。自分がどうなるか理解しているんだろう、後は引き渡した方が賢明だった。

「シグマ、これは無理よ。大人しく牢屋に入れた方がいいわ。後は城の皆がなんとかしてくれるはず」

 メイのこの言葉が決め手となり、シグマはやむをえず。

「~~っ。……仕方ない。ウェイラーさん、あなたを拘束します。抵抗しないでついてきてください。いいですね?」

「……好きにしろ」

 ウェイラーを逮捕し、サンバニラにいる警備兵に引き渡す事にした。

「……」

 マイニィは事が片付くその瞬間を黙って見守るしかなかった。シグマもメイも、成人したばかりとはいえ、大人で、自分は子供だからだ。できるできないじゃなく、見守るしかないのである。




「そうじゃったか……やはり」

「はい、ゲロニカさんの言う通り、ウェイラーが犯人でした……」

 事件はすんなり解決し、食料も住民がウェイラーの隠れ家から持ち運んでいるのを見て、シグマはゲロニカにお礼を言う。

「わしも後でレオネスクの牢屋に行ってウェイラーと会って話をしてみる。今回は助かった、ありがとう」

「いえいえ」

「シグマー、ウェイラーを警備兵に引き取らせたわよー」

「ああ、ありがとう」

 これでここでの任務は終わりだ。急な任務だったため、大火事事件の事を聞く時間がなかったが、この調子だと多分シエルエールと同じ感じだろう。シグマはそう思っていた。

「君達はついていかなくていいのか?」

「ああ、それはですね、僕達は元々大火事事件の犯人を捜す旅をしているんです。ここサンバニラに来たのもそれが理由で……」

 シグマの話を聞いてゲロニカは目を丸くする。ただの騎士ではなかったからだ。

「12年前の大火事事件を?それはまた難しい事を……。犯人が見つかるといいな」

「はい、今回は協力してくれてありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 シグマとメイは国の人間として、お礼を言う。突発任務はなんとか解決できた。ゲロニカさんという老人の協力があって、だけど。

「よし、僕達も次の町へ行こう」

「いいけど結局、この町にも大火事事件の犯人はいなかったわね。盗難の際についでとして聞いたけど全然よ」

 そう、実は大火事事件については何人かに聞いたのである。受付の人にも、村長にも。一言知っているか聞くだけなのだから、そこまで時間も必要ない。でも結果はごらんの通り。シグマはシエルエールの経験のおかげで、今回は実を結ばないだろうと思っていたし、実際そうだった。

「仕方ないよ。ただでさえあの事件の被害者が今となっては少ないんだから。ノーシュは首都とはいえレオネスクを除いた人口の方が多いからね」

 多いからこそ、知っている人も多いと踏んでるが、人はそこまでレオネスクと行き来していないんだろう。それがわかるような再調査になりそうだ。

「次の町ではいるといいですね。次の町はクレアドロンでしたっけ」

 マイニィは二人をフォローする。

「うん。そう、クレアドロン。本当に、いるといいな……」

 シグマは空を見上げ、昼過ぎになってしまった事を憂いていた。行く前に少し休憩が必要だと。

「(あいつら誰だ?見かけない顔だな……)」

 そんなシグマ達を、珍しそうに見つめる謎の青年が一人。

「(そう言えば、倉庫の食料が無くなってたな。たまに盗み食いしてただけなのに)」

 実は彼はベアトリウス人で、修行のため、ノーシュに許可なく出入りしているのだが、素性を隠しているため、シグマ達にもサンバニラの住民や警備兵にもばれずにすんでいた。目立つ行動はできないが、許可なく出入りしているのは気分がいい。謎の青年はそう思っていた。

「(俺みたいに盗んだ奴がいて、そいつを捕まえたんだろうな。という事はあいつらがノーシュ国の騎士様って奴か)」

 実は修行と偵察、この二つが目的だった。たまたまベアトリウスに帰るタイミングがシグマ達とかぶってしまったため、時間をずらす必要が出出来た。クレアドロンの先の先に、ベアトリウスがあるからだ。

「(くくく、やっぱり隣国に来てよかったぜ。思わぬ収穫があった。だが帰るのはもう少し後だな。あいつらが出発してしばらく経たないと動けねぇ……しゃあねぇ、もう少し魔物を狩ってから帰るか。ベリアルの師匠にこれ以上舐められないために)」



 シグマ達がこれからいくクレアドロン。シグマ達がウェイラーの盗難でひと悶着あった頃、この町では。

「くくく……」

 クレアドロンの教会。神父サイフォスは一人、佇みながら笑っていた。

「(私の搾取に気づかないとは、愚かな住民共だ)」

 誰も自分がやった事に気づかない。なんて面白い事なんだろうか。

「(愛想笑いはうまいと言われ続けて十数年……。フェルミナ教になど興味もないのに、その待遇の良さにつられて入ってみたらこれだ。献金システムもうまくいき、このまま老後までいけば……。ふはは……ハーハッハッハッハ!人生楽勝!他人を騙す事など、たやすい事よ!)」

 

 しかし、そんなサイフォスだったが、自分の住んでいる教会から、窓の外から覗き込んでるとある女性の存在には気づいていなかった。




「う~む……。クレアドロンについて3日経ちましたが……怪しい動きはなさそうですねぇ……。ここまで悪事を隠していると本当にしていないんじゃないかと思えてきました」

 彼女の名前はイリーナ。きちんとしたフェルミナ教の信者である。

「が、既に情報が出ています。黒なんですよねぇ……」

 腕を組み、どうしたもんかと考え込むイリーナ。

「もう少し待ってそれっぽい動きがなかったら、入って直接聞くしかなさそうですねぇ。いやぁ~めんどくさい事になったなぁ」

 自分にとっては耳も胸も痛い話だ。神父を捕まえろという命令を受けたからだ。

「捕まえろと指示されたとはいえ、いきなり問答無用というのは、何か違いますよねぇ?」

 結局今日も、決断できなかったと嘆き、だからこそここから離れず、ため息をついていた。どうしたものかと……。

「はぁ~困った困った……」

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