第1章:旅の始まり3(完結)
「セレナぁー!。セレナ王女様!」
「あら、なにかしらシグマ。忘れ物でもした?」
マイニィを連れてノーシュ城に戻った二人は、まっさきにセレナに報告する。セレナはそれを見ていつものように対応した。
「いえ、そうではありません。急遽相談したい事ができまして……」
「相談したい事?」
「この子の事なんですが……」
シグマは、手で誘導し、自分の後ろに隠れさせていたマイニィをセレナに見せる。
「……」
「誰、この子?」
当然の反応するセレナ。
「彼女は—―」
「マイニィ・カレアです」
「マイニィちゃん……」
自分で自己紹介をした事にびっくりするメイ。ここでも育ちの良さが現れた。
「カレア?」
頭をひねるセレナ。ひねってすぐ、「ああーっ!」と声を上げて指をさした。
「もしかして、シエルエールの!?」
「そのカレア家です」
あまりのセレナの反応を見て、はっきりさせておこうと思っシグマは頷き肯定した。
「なんでこんな所に、って……~っ。あなたも親が亡くなっていたわね……」
「はい……よくご存じで」
城に来るまでに、マイニィちゃんと歩きながら少し世間話をした。彼女が言うには、カレア家と王族とのやり取りはよくあったらしい。ただ連れてきただけの自分達としては、だろうなともへぇそうなんだと思う。
「国民の事はきちんと知っておきたいと思うのは王女として当然の努めよ。それに、流石に町の発展に貢献しているカレア家もなるとやらざるをえない付き合いもあってね……」
「その口ぶりから察するに、ご先祖様達とは仲が良かったようで」
「お互いに、ね」
今となってはお互い様だ。実はセレナも父親を亡くしている。……過労で。
「しっかし……そっかぁ、なるほどね。彼女と町のこれからをどうしたいか、相談しに来たってわけね。シグマ?」
「その通りです!それで、どうしましょう!?」
明るく話すシグマ。報告も大事な仕事である。小さな事をこつこつと、という教えはかなり昔に指導された事だ。
「どうしましょう、じゃ……なああああああああい!」
しかし、そんなシグマの姿勢とは裏腹に、セレナは地団太をふみ声を荒げた。
「え、ええっ!?」
「(クスクス……)」
「(こうなったかぁ……)」
そのシグマの反応を見て、楽しそうに笑うメイとミネア。この光景は何度も見てきたものだ。わかっていない人に、年上としてわからせる行為。そこには優しさと厳しさと、そして教えてあげないといけないという使命感がある。
「あのねぇ、シグマ!?国としてはね、シエルエールが何とかする、で話がまとまってんのよ!なのに当主本人が来てどうすんのよ!」
両手を広げ、国としての事情を話すセレナ。しかしこれは一部の国の、特に指揮をとっている王族が知るべき事なので普段シグマには言わないし、言えない事だ。だからこういう状況にもなるし、こうなったら言わなきゃいけない。いわゆる説明責任というモノだ。
「まだ幼いから面倒見る?あんたとは事情が違うのよ事情が!具体的にはお金があるのよ彼女には!あんたと違ってね!」
セレナは指をさしてシグマに自分とマイニィちゃんの違いを説明した。
「何でもできる立場の人に王女としてなんとかしてあげたいなんて思わないわ!とっくに大人の世界に足を踏み入れてんのよ彼女は!」
「じゃあ、何もしなくていいと?」
意見には意見を。シグマは引き下がらない。
「そうじゃない話は最後まで聞きなさい!」
セレナもきちんと向き合って話した。
「いい?あんたがマイニィちゃんに同情して自分と重ねてなんとかしてあげたい気持ちはわかるわ。でも!なんとかしたいなら自分からするんでしょう?何いきなり相談しに戻って来てんのよ!こっちは良い見送りをしたって思ってたのに!」
「す、すいません……ですがこういうのは言った方がいい事だと思いまして」
「確かに言った方がいいわ」
その一言に、目を丸くするシグマ。
「ええ!?なら……」
「ただし、言うのはあくまで事後報告よ!この子は自分が面倒見ま~すっていう事後報告!あんたが彼女のために何かしてあげるのよ!なのになに報告しに戻ってきてんのよ、旅に出たのよあんた達二人は!どうせ、旅に出たばかりだし……セレナ王女ならわかってくれるだろうし……まぁいっか!とか思ってたんでしょ!?違うわよ!」
そして結論を言った。
「大人になったんだから自分で判断していいの!私達が出るのは仕事の時だけ!プライベートはプライベート、仕事は仕事よ!今回はこうなっちゃったから説明したけど!二度は言わないからね!次は自分の意志できちんと誰かを助けなさい!」
「は、はい……」
まさか怒られるとは思ってなかった。シグマは思春期に入ってからやたら厳しくなったんだよなぁと目の前にいる王女を見つめ、変わったなぁと小さくつぶやいた。それを見て「なに!?」と言うセレナ。
「な、なんでもありません」
「(ふふっ。シグマが成人になってからより一層厳しいですね姫……)」
「それで、今ここにいるカレア家のマイニィちゃんの事だけど!彼女の事はシグマ、あんたが保護者代わりとして社会経験をつませなさい!いいわね!?」
「ええ!?ぼ、僕がですか!?」
自分を指さすシグマ。セレナはそりゃそうでしょと言わんばかりの顔をしてシグマに話し続ける。
「そうよ。そりゃあまだ子供だから近い年の子と遊んでほしいとか学校に行ってほしいとかっていう気持ちはないわけではないわよ?でも彼女はずっと家にいて自由でもなかったはず。親がいた間は少なからず学校にも出てたでしょうけど、一人になって家を手放すのだったら、これが一番よ」
こういう人生もありでしょ。ようはそう言いたかったようだ。
「そんな、僕には荷が重いですよ!大火事事件の事もあるのに!第一財産目当てに命を狙われたら……」
シグマは積み重ねたものしか自分を信じることができない。大火事事件のせいで、だいぶ人生を狂わされたからだ。
「その時はシグマ、あなたが守るのよ。騎士としてね」
「き、騎士として……」
しかし騎士というセリフ。この言葉を言われるとシグマは決意する。シャラとの約束があるからだ。
「(……顔つきが変わった?)」
話をずっと聞いていたマイニィだったが、そんなシグマの真面目な顔をまじまじと見つめていた。
「わ、わかりました……。僕は本当は国に守られた方がいいと思うのですが、セレナ王女が言うなら仕方ない!」
シグマはくるっと回って、マイニィの方を向いた。
「マイニィちゃん!いえ、カレア家現当主マイニィ・カレア!あなたの事はこのシグマ・アインセルクが命を懸けて守る事をここに誓おう!」
そして、片膝をついて、大人として騎士道を子供に教えるように、普段なら言わないかっこいい事をマイニィに言ったのだった。
「わ、わかりました……。よろしくお願いします……」
間近でキリッとした顔を見てしまい、少しひきつった笑顔をするマイニィ。シグマはそれを見て少し可愛いなと思った。
「(ばか、マイニィちゃん顔ひきつってるじゃない!)」
「(や、やばい……!)」
当然メイにどつかれてしまう。
「ま、まぁ……だからこれからよろしく頼むよ。結構な長旅になると思うけど」
「そうなんですか?」
改めて一言。大火事事件として、幼女という状態を卒業したばかりの女の子を大人として扱うという事はどういう事か。自分達二人でこのマイニィちゃんという人物に教えないといけない。
「そうなんだよ~……」
そんな事を思っていたシグマは、「わーい、両手に花だぁ」と思う人間ではないので、これからを思い、疲れていないのに疲れたような気分になっていた。
「はいはい、話は後にしてとっとと行った行った。シグマ、次からは気を付けるのよ?」
後は大丈夫そうねと心の中で思い判断したセレナは、すぐに旅に出るよう退出を促す。
「はい!人を助けたいなら相談はいらない!規模が大きそうな問題は相談する、ですね!」
「分かったのならいいわ。……と、いうわけだからマイニィちゃん。付き合ってあげてね。シグマの旅に」
「はい……生きてまた話をしましょう」
「そうね……あなたは、シグマよりも生きて帰ってこないといけないわね。私の命令責任にもなるし」
シグマとセレナは義理の姉弟の関係だが、シグマに天涯孤独の身という同じ痛みを持つ者以外相容れない特徴があるように、セレナにも王族、という同じ立場の者にしかわからない苦悩がある。シグマとセレナは、昔この事で喧嘩した事がある。あの時は大変だった。周りになだめられ、諭され、今の自分がある。それをわかっているからこそ、そして大変だからこそ、自分の言葉、判断に責任を持つのは大切なのだ。大切にしないとどうなるか、その結果を見て痛い目を見てきたから……。
「信頼してるんですね」
育ちがいいのは佇まいや喋り方でもはっきりわかるが、それでも人の気持ちを察するのがうまく、早い。セレナは目の前のお嬢様と話していて、あっぱれ!と思っていた。そしてわかる人にはわかるのよね、こいつ(シグマ)違って、とも思っていた。
「当然よ。あなた一人守れないようじゃ、超えられない壁が彼には待ってるのよ。だからこれでいいの」
「超えられない壁……」
今の自分には理解できないものだった。やっぱり人生経験をつむのは楽しそうだなぁ。マイニィはそんな事をセレナに言われて思っていた。
「いずれ分かるわ。じゃあね、マイニィちゃん」
ふっと笑って手を振るセレナ。
「はい、さようなら」
そしてマイニィのこの一言を最後に、シグマとメイはマイニィを連れて、改めてノーシュを出て旅に出た。
「はぁ……」
自分もシエルエールの今を把握しきれていなかった部分があるとはいえ、案の定心配な部分がいきなり表に出てきて、セレナは呆れていた。
「ねぇ、ミネア。見送った相手がすごく早く帰ってきて、気持ちが整理しきれてない経験ってある?」
「ないですね」
ミネアは即答した。こういう時はっきり素早く言わないと目の前の王女はキレると知っているからだ。時間を無駄にするなと言われてしまうのである。
「なんか本当に心配になってきた……。追尾部隊今からでも作って派遣しようかしら」
「それはやらない約束でしょう?」
当たり前の話になるが、シグマとメイを保護し、騎士として育てたのは国であり
「わかってるわよ、言ってみただけ…………はぁ……」
二度目のため息をつくセレナ。
「成人になる前にもっとシグマの事、厳しくしても良かったなぁ……」
そんなセレナを見て、侍女であるミネアは、自分がシグマに優しくした事を少し後悔していた。なぜならセレナがここまでシグマに厳しくするとは思わなかったからである。いや、セレナ王女はシグマに対して元々ずっと厳しく接していたのだが、相対的に周囲の人達(護衛部隊や母親のナルセ、メイなど)が甘やかしていた(せざるをえなかった)所があり、だからこそまさか今になって厳しく接しないといけなかった理由がこの目で見れるとは思っていなかったのである。
「(まさか、セレナ王女がシグマに対して厳しく接するのをあまり見たくないと思う日が来ようとは……。セレナ王女はシグマやメイと
しかし、厳しくするの理由が違う。セレナの方はきちんとした大人の騎士なってほしいから。それがシャラとの約束のためでもあるから、であるのに対し(それはミネア自身も理解していることである)、ミネアの方は、自分が厳しくすれば、もっと優しいセレナ王女が見る事ができた、そう思って、後悔しているのである。
なぜなら、セレナ王女が王女たらしめているのは、その優しさがあってこそだからである。シグマに対する厳しさも、元はその優しさから出たものだ。
だって、彼を保護しようと思い、決断した張本人なのだから。
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