第19話 心配事

19.心配事




「もー、そんなんじゃないってば! 知らないっ!」


 あ……。


 え、っと。

 なんか、変な雰囲気になっちゃった。そうだ。きちんとお礼は言わないと。


「アーくん、ありがとう。助けてもらって……」


 小さな声でボソボソ言ったボクの言葉をスルーして、ステラ姉さんが続ける。


「それはそうと、気がかりなことが二つあるの」


 すぐにアーくんの家に使いを出して、ご両親を隠すようにも手配している。放っておいたらメリデンの王は両親を使って脅迫してくるでしょう。そんなことはさせやしない。

 きっと、大丈夫なはず。今頃はもう安全な場所まで移動していると思う。


 気になりそうなことは、すぐに潰しておくのがステラ姉さんのやり方だ。

 テンパると、おっちょこちょいなこともするけど、普段は冷静で、とても頼もしい。


 それとは別に、確かに二つ、心配ごとがある。


「一つは、固有スキルのこと。誰一人持っていないからこその、固有スキルなの。アレクくんが持ってるのは、【空気アトモ】を除いて、メリデンの勇者パーティと同じもの。つまり実際には二人が使えるってこと。そうなると威力が弱くなってしまうの」


 お父さんが調べたところでは、半分から、もしかしたら千分の一にまで弱くなるらしい。


「固有スキルの威力をアレクくんは知っていると思うけど、過信しない方がいい。……でも、さっき見た限りでは、圧倒的な強さには間違いなさそうね」


 確かにステラ姉さんの言う通りだと思う。


 それとは別に、もう一つの心配ごと。

 ボクたちがこの世界から転移している間に、メリデン王国の勇者パーティが襲ってこないかということだ。せっかく固有スキルが集まっても、国が滅ぼされていたらなんにもならない。


 だがその心配も、たった今入って来た情報で消滅した。


「メリデン王国の勇者たちが、ノバリスクへ逆召喚する準備を始めたようです」


 忍び込ませている諜報ちょうほう部隊からだ。

 ノバリスクは逆召喚で行ける世界のひとつ。メリデン王国も、ボクたちと全く同じことを考えているようだ。だとしたら、なんとしても彼らより先に固有スキルをゲットしてなければならない。


 また、信じられないことだが、メリデンの城が宙に浮いたとも言っていた。


 メリデン城に魔王がいるならば、そこに倒しに行けばいいのではないかとも思っていたが、空にあるのだとすると、鳥でもなければ城へはたどり着けない。お父さんが固有スキルを集めろと言ってたのは、それで城へ入ることが出来るようになるということだろうか?


 いずれにせよ、想像を遥かに超える事態が起きていることは間違いない。これからのことを考えるとアーくんとこうして再会出来たのも、いいことばかりではないようにも思えてしまう……。


 ともかくボクたちは、アーくんのケガが治るのを待ちながら、お父さんの言う通り、ノバリスクという世界へ向かう準備を進めることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る