第18話 マレッタ、幼い頃の思い出

18.マレッタ、幼い頃の思い出




 みんなにはお転婆って言われてるけど、さすがに初対面では緊張したんだ。

 でもその子はボクの手を取って一緒に走ったり、川に入って遊んだり。ボクは歌を教えてあげたかな。なんの歌だったか忘れたけど。


 とっても楽しかった。時間忘れて遊んじゃって、気づいたら日も暮れかけて。


「もう帰らなきゃ」


 そう言ったら、男の子は、宝物をあげると、この水色の石をくれた。

 友達のしるし、なんて言ってたようにも思う。


 お父さんの方では大騒動になっていたらしい。

 探しに来てくれた人に見つけられて戻ったんだけど、お父さんからとっても怒られたのを覚えている。いつもいろんなことをしでかして怒られてたけど、あれが一番だったかも。

 そうよね、夕方過ぎてまで帰ってこないなんて、相当心配したんだと思う。


 で、その帰り道のこと。

 今でもよく覚えてる。忘れやしない。

 あっ……こうして改めて考えてみたら、メリデン王国が仕組んだのかもしれない。


 突然モンスターの集団に襲われたんだ。ボクが最初に見たモンスターでもあったんだけど、後で聞いた話では、それなりの部隊でようやく倒せるほどの強さの敵だったらしい。


 護衛の兵士が何人も倒されて、お父さんまでも危ない状況だった。

 槍の名手と言われた父でさえ歯が立たないほど。


「これで終わりか」


 あの強いお父さんから、そんな弱気な言葉が出るほど追い詰められていた。

 体の震えが止まらなかったのを今でも覚えている。とっても恐かった。


 そんな時、この水色の石を思わずギュって握りしめた。


 その時、【水滅奔流ストリームン】のスキルが発動。あっという間にモンスターが壊滅して、なんとか生き残った。命拾いって、こういうことなのかって思ったほど。

 奇跡が起きたと思った。


 そう。この水色の石が、お父さん、そしてボクにとっての命の恩人なんだ。


 スキルの名前もわからなかったし、石を握って発動したのはその一回限り。

 後でスキル鑑定して、今では自由に出せる。おかげで、モンスターが襲ってきても、それまでとは違って、かなり楽に撃退できるようになった。

 この国の多くの人を助けられるようにもなったんだ。


 あの時の男の子が誰かもわからなかったし、もちろん二度と会うこともなかった。


 ボクが知り合う人たちは、姫だからって寄ってくるばかりで、ぜんぜん詰まらない。監視も厳しくなっちゃって、なかなか一人でお城を抜け出すのも出来なくなっちゃったし。

 毎日、あの時の男の子にずっと、ずっと、また会いたいなって思ってたら、どんどん気持ちがふくらんでいった。


「会いたい、また遊びたい」って。


 きっと恋とかとは、違ったんだと思う。……少なくとも、その当時は。


 でも、お城に来て、一瞬見かけただけで、なぜか体の奥が熱くなるのを感じた。

 誰かもわからない人なのに、なんでだろう、なんでだろうって。

 調べてみたら、あの時の男の子だったって。……息が止まるかというほど驚いた。

 もちろんこの気持ち、この間ステラ姉さんにも止められたし、アーくんには話すつもりもない。


「まぁ、とはいえ、マレッタも年相応には、ようだけどね」


 ステラ姉さんが笑った。


「ちょ、ねえさん! なに言ってるのよっ!」


 体が火照るのがわかった。姉さんはボクの気持ちを知っていて、しかもそれを伝えてはならないと偉そうに言ったのも忘れて、こういうイタズラっぽいことするんだよ!

 興味津々な顔をしながら、トリエッティも覗き込むようにしてボクを見ていた。

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