第13話 不可解なワグナー王

13.不可解なワグナー王



 訳の分からないワグナー王からのお叱りを受けた後、オレたちは、宮廷の中に用意された一室に向かった。


「ドレッド、さっきはごめんね。でも、ああでも言わないと、王様、きっとお怒りが解けなかったと思うのよ。表向きのリーダーはわたくしに変わりますが、これまで通りドレッドがメインでやりましょう」


 僕の唇を濡れたハンカチでクレシアが拭いてくれる。

 クレシア……。そうだったのか。オレのことをそんなにも気遣ってくれたのか! さっきは、疑ってしまい申し訳ないっ。なんて情けないんだ、オレはっ! みんなが言うように、オレはバカなのかもしれない。このこのッ!


 メディバに【回復魔法ヒール】を掛けてもらったら、傷も跡形もなくなった。ここまでの能力の持ち主も、そうそういないだろう。この男にも戦闘中は何度も助けられた。


 そうなのだ!


 人々に助けられてこそのリーダーなのだ。ましてや仲間を疑うなど、もってのほかではないか! 愚か者めが!


「でも、ゴブリンたちはともかく、神獣までいたのに、どうして助かったのかしら。しかも、王様も、あんな虫けらのことを、突然気にしはじめたし……」


 クレシアの言う通り。まあ、神獣なんて流星技剣スターゲイザーが使えるオレの敵ですらないけどもな。

 ……しかしまさか倒せるとは思えない。なにかおかしなことが起きたに違いない。

 あの場にアレクがいたことも気になるし、クレシアの言う通り、王が態度をいきなり変えたのも、おかしい。


「あの時の技も気になるわ。どう思う、ドレッド?」


 あの時の技? なんのことだ?


 クレシアはオレのことを、一瞬バカにしたような顔で見た。……あ、いや、どうもオレの気のせいだな、いかんいかん。いつも通り、オレのことを尊敬している顔だ。


「虫けらが使った技よ。私の固有スキルに似てたような気がするのよね」


「バカな! あの平民が使ってたのは、別のなにかだろう! ダメージだって低そうじゃないか!」


 また一瞬、クレシアの目がオレをバカにしたように思えた。……いやいや、違う。これまで通りの、オレのことを崇拝している目だ。きっとオレはさっき王に罵倒され、落ち込んでしまっているから錯覚してしまうんだな。


「失礼します!」


 急に扉が開いた。

 そこには天井まで頭がつきそうなほどの大男が立っていた。


「ノックくらいするものよ」とクレシアは冷たい口調で言う。


「しっ、失礼いたしました!」


 その大男は、グインという音が聞こえてくるかのように頭を下げた。


「王のご命令で皆様とご一緒することになりました、パオロでございます。以後、なにとぞよろしくお願いいたします」


「パオロね。聞いてるわ。よろしく」


 オレは聞いてないぞ? クレシアはなんで知ってるんだ?


「ドレッド、この人、盾やってくれるそうよ」


 おおっ! これでようやく攻撃だけに専念できるのか!


 オレは騎士として盾も持っているが、しょせん飾りみたいなもの。攻撃を防ぐためのものじゃない。他のメンバーも強力な魔導士だから、今まで盾役がいなかったのだ。

 あの平民が盾にでもなってくれれば少しは使えたのだが、戦闘は全く使いモノにならなかった。本当に役立たずで、どうしようもないヤツだ。


 あ、いやでも、お前、貴族なのか? 見たことはないが。


「はっ、マルセル男爵家でございます」


 なんだ、ただの男爵か。


 メリデン王国は、一番上が公爵。これは王家の直系に限られる。

 その下が、オレがいる侯爵。さらにその下が、クレシアやメディバの伯爵家。もう一つ下に子爵があって、一番下が男爵だ。もともと平民だったものを、実績をあげたので貴族にしてやった、という身分にすぎない。

 せいぜい、本物の貴族のために命をかけて働いてくれるが良い。


 しかし、どうにも許せんのは、あの平民だ。だんだん腹が立ってきた。

 この屈辱もなにもかも、すべてあいつのせいだ。せっかく王に褒められるチャンスを台無しにしおってからに。


 決して、許してやるものか。世界の果てまで追い詰めて、ぎったんぎったんにしてやらねば気が済まぬ!


 そうこうしているうち、オレたちに王の命令が伝えられた。

 しかしそれは、オレが全く予想していないものだった。

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