第12話 その頃、貴族ドレッドは
12.その頃、貴族ドレッドは
「なにをやっておる! お前らみたいなバカはこうしてやるっ!」
思い切り殴られた。
父や兄貴からは「バカ」とよく言われるが、決してオレはバカなんかじゃない。誇り高き貴族なんだ。殴られるなんて、あってはならない。それがたとえ王だとしても……。
って、なんでオレが王様に殴られなきゃいけなんだ!?
王様は腕力がないんで、痛くもかゆくもないけど、人前で殴られるのは、とっても心が痛い。横に同じパーティのクレシアとメディバだっている。恥ずかしい……。
「なんでアイツを追い出したっ! このバカがっ!」
また殴られた。
アイツとは、どうやら一緒に転移して戻って来たアレクのことなんだと気づくまで、しばらくの時間がかかった。
平民のくせに勇者なんぞに憧れて、のこのこやって来た能無しだ。しかも戻ったら、固有スキルをなくしてやがる。
その固有スキルだって、全く使えないものだったじゃないか。
はははは。しょせん、平民は平民よ。われら貴族と同じ舞台に立とうとするのが間違っている。
クレシアとメディバだって、同じように考えているはずだ。
いや、王様だってそうだったじゃないか……。いったいどういうことだ?
……ったく、意味は分からないが、怒られてるのはオレだけじゃないはずだよな。クレシアは真面目な顔でこっちを見てるけど、よくよく見れば、わずかに口の端がニヤけているようにも見える。
「ワグナー王。今回のことは、わたくしたちの失態でございます。一番の責任は、リーダーのドレッドに間違いございませんが、わたくしたちも責任を感じております。そこで、どうかわたくしにリーダーをお任せいただき、名誉挽回のチャンスをいただけませんでしょうか?」
ク……クレシア? オレをリーダーから追い出すって言うのか? ひどいやつだ。今までのオレの功績まで無駄にするつもりか!
「好きにするがよい」
「仰せのままに」
くそっ。勝手に決めやがって。オレこそ生まれついてのリーダーなんだ。貴族の格だって、クレシアより上だぞ。ここにいるメンバーの中で一番、高いんだ。とうてい許せないっ!
オレが文句を言おうとしたその時、慌てたように扉を開けて兵士が入って来た。
「王さま! ご報告がございますっ!」
「なんじゃ、騒々しい」
「ポリンピアに派兵したゴブリン軍が全滅いたしました!」
「なんじゃと?」
報告を聞いた瞬間に王の顔が一気に青ざめた。
「お主、まさか
いいや、王から預かったカエルの神獣は、言われたようにして、たしかにポリンピアに置いてきた。
「間違いなく、仰せの通りにいたしました」
「仰せの通りなはずがあるものか。くっ、このっ!」
王は横にいた兵士の棍棒を奪いオレを打ち始めた。さすがに武器で殴られると痛い。
「このっ! このっ!」
何度も叩かれる。
でぶでぶした脂肪だらけの王で、力は弱い。だが、口の中が切れたようで、苦いものを感じた。
「ええい、もうよいわ。実に不愉快」
「王様。まさか、あの虫けらを再度、連れ戻せと仰るのでしょうか? あの者、なぜかスマト王国の姫三姉妹と行動をともにしておりましたが」
クレシアの質問に、ワグナー王は苦々しい顔をしながら「次に会ったら殺せ」と言った。
「それでは早速向かいます」
「待てっ。次の作戦の指示があるまで待機じゃ」
「では、予定通りブラシアに攻め入るのでしょうか?」
「聞こえんかったか? 待てと言っとるのだ。作戦は全て白紙に戻す。黙って待機しとれ」
王はそう言い残して去っていった。
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