第10話 戦闘

10.戦闘




「なに、ぼーっと見てるのよっ、一緒に戦って!」


 ステラ姫がこちらを向いて言う。あ、えっと……。

 僕は、無言でトリエッティを指さしてみた。


 ぶんぶんっとトリエッティが首を振る。


「おにいちゃんでしょ、はい、これ!」


 手には剣が握られていた。その剣を受け取る。


「神器じゃないけどね。うちに伝わる王剣ジュスタスよ」


「そうなんだ……って……」


 僕?!


「がんばって~!」


 僕たちがいる右後ろに、他のゴブリンとは明らかに大きさの違うものが、突然現れた。ひときわ大きな剣を持っている。多くのゴブリンが集まっている前線で兵士が隊列を組んでいたが、その内側である。

 まだ逃げ遅れている人が大勢いた。

 今まで影も形もなかったのに、急に現れたって、こいつも瞬間移動か?


 巨大なそのゴブリンが到底人には出せないような耳をつんざく雄たけびを上げる中を、人々が逃げまどっている。


 そのゴブリンの前で小さな女の子が倒れた。まるでスローモーションかのように、倒れる様がはっきりと目に飛び込んできた。


 この子、どこかで見た気が……。


 あっ!

 護衛してくれた老紳士のお孫さんだ!!


 ゴブリンは、倒れている女の子を睨みつけ、剣を振り下ろす。


「ああっ!」


 僕はとっさに声を出した。

 その瞬間、ゴブリンの周りに雷のおりが現れ、振り下ろした剣が弾かれる。

 グギギギギと到底声とは思えないような音を発しながら、巨大なゴブリンはまるで戸惑っているかのように目を見開いていた。


 この技は、……見たことがある。

 クレシアの固有スキル【雷磁結界サンダーガルム】だ。


 かつて見た時より一本一本の柱の太さは細いが、とても良く似ている。

 目を吊り上げながら狂ったかのように連打をしているが、そのたびに柱に打ち返されるだけでなく、磁気を帯びた柱によりダメージも受けているようだ。次第に全身の力がなくなってしまったかのように、剣もその場に落としてしまった。


 やがて檻が巨大なゴブリンを包み込ように小さく縮まっていく。


 グボオオオオオオオオオオオオッ!! という断末魔だんまつまとともに、黒焦げになったゴブリンは、砂埃すなぼこりを巻き上げながら光の中に消えた。


 巻き上げられたホコリが、徐々に収まってくる。

 後ろから三つの人影が現れた。


「また虫けらと出会うなんて、人生最悪の日だわ」


 クレシアだ!

 横にいるのはドレッドとメリバ。そう、僕が追い出されたパーティ・メンバーである。


 やっぱりさっきのは【雷磁結界サンダーガルム】で、クレシアたちが助けに来てくれたんだ!


 僕は最初そう思ったが、どうも違うようである。


「しょせんゴブリンはゴブリンだな。こんな兵士ごとき殲滅せんめつできんとは、やはり卑しいモンスターだ。平民と同じく役に立たん」


「まぁ、バカが集まったところで、しょせん役立たずよ。王様からいただいた『ヤツ』を放ったから、すぐここも壊滅できるでしょ。なんで居るのか分からないけど、虫けらまで見ちゃったんで気分が悪いわ。戻って、早く次の作戦に移りましょ」


 クレシアは僕を睨みつけながら言い、三人は背中を向けて去っていった。

 ……なぜ? 助けに来たわけじゃないのか?


「さすがね! ここは任せてっ! 奥に、妙なのがいて、妹が苦戦しているようだわ。お願い!!」


 お、お願いって?!


「助けてくれて、ありがとうございました!」


 目の前で女の子が頭を下げている。老紳士の孫娘だ。


 いや、僕はなにもしてないんだけど……。

 僕は服についた泥を払ってあげた。


「さあ、早く逃げて。おにいちゃんは、こっちよ」


 トリエッティがまた、僕の手を掴む。

 再び目の前の景色が変わった。


「なんだこいつは?!」


 人の背丈の五倍ほどもあるだろうか。でっぷりとした、でかいカエルなのだが、全身がワニのような固いうろこで覆われている。

 上下に飛び跳ねながら目から光線を放ち、長い舌を振り回している。着地するたびに砂埃が舞い、振動が身体に響いてくる。


これは……神獣!


 なぜそう思ったかというと、右目に「神」、左目に「獣」という文字が書かれているのだ。

 なんと親切で、わかりやすい……。

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